Yahoo!ニュース

日本人メジャー投手11人の球を受けたベテラン捕手が選ぶ最強投手は誰だ?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
メジャー在籍15年の現役生活を終えたデビッド・ロス選手(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

108年ぶりにワールドシリーズを制覇したカブスの中でただ1人、優勝を決めたグラウンドで選手たちに担がれながら有終の美を飾った選手がいた。

控え捕手としてメジャー在籍15年を重ねてきたデビッド・ロス選手だ。日本では決して有名な選手ではないが、実は2002年にドジャースでメジャー初昇格を果たして以来7チームを渡り歩き、偶然にも11人の日本人投手と同じチームになり、キャンプ、公式戦、ブルペンで彼らの球を受けてきた。

それらを年代順にすべて列挙すると、野茂英雄投手、石井一久投手、木田優夫投手、大塚晶則投手、松坂大輔投手、岡島秀樹投手、川上憲伸投手、斎藤隆投手、上原浩治投手、田澤純一投手、和田毅投手─の11人だ。

自分の取材経験の中でも、これだけの投手の球を受けてきた捕手はそう簡単には見つからない。引退を前に貴重な証言者として、様々な角度から投手を比較してもらった。

●速球

まず日本人投手の場合、総体的に手元で動くようなツーシームではなく、基本的にフォーシームを投げる傾向が強かった。ボールを受けていても、みんなが綺麗な回転のボールを投げていたね。

その中で印象的な真っ直ぐを投げていたのがサイトウかな。彼の真っ直ぐはまさに浮き上がってくる感じだった。そのキレは抜群だったね。

コウジとノモの真っ直ぐも良かったよ。決して球速は速くはなかったけど、キレ、回転は素晴らしかった。それとイシイの真っ直ぐも印象的だったかな。両サイドに素晴らしい真っ直ぐを投げていたね。

●変化球

まずコウジとノモのスプリットは凄かった。2人のスプリットは違ったタイプで、ノモはバックドア(打者の外側から切れ込んでくる)の軌道で、より打者を幻惑するような球だった。ワンバウンドになることも多かった。コウジはもっとコントロールが良く、左右の打者に合わせてしっかり投げ分けていた。

他にはサイトウのスライダーが凄かったし、イシイのカーブも素晴らしかったよ。ただ彼らの中から一番を選ぶのは難しい。それぞれ自分の持ち球として確立しており、ユニークな変化球ばかりだった。彼らがメジャーリーグに来て成功できたのも、そうした変化球があったからだよ。

●制球力

制球に関しては、11人の中ではコウジが抜きんでた存在だと思う。スプリットを両サイドに投げ分け、真っ直ぐも自分の投げたいところにしっかり投げられる投手打だった。まさにピンポイントの正確性だった。

●精神的タフネス

まずリリーフ投手は精神的にタフでないとやっていけない。サイトウ、コウジ、タズは大事な局面で登板する投手だったので、みんな精神的にタフだったよ。

それとノモも当時は経験豊富なベテラン投手だったので、すごく精神的に安定していた印象があるね。

●総合力

なかなか1人の投手を選ぶのは難しいことだけど、自分の中ではコウジとノモが総合的に見て一番素晴らしい投手だと思う。自分が受けていた当時のノモはすでにベテラン投手だったが、それでも素晴らしい投手だったし、2013年のコウジは言うまでもなく他を圧倒する存在だった。この2人は本当に素晴らしい投手だったね。

ただ自分も年齢を重ねるごとに選手として成長しているし、その時々で印象も変わってくる。すべて同じ基準では比較するのは難しいよね。

ロス選手が説明するように、同じシーズンで一度に11人の投手を受けた訳ではないので単純な比較対象は難しい。さらにシーズンによってはロス選手自身がメジャーでの出場試合が少なかったシーズンもあり、どうしても印象の薄い投手も存在してしまう。

それでも彼が選んだ投手たちは皆、メジャーで長期に渡ってメジャーで実績を残している選手がほとんどだ。やはり実際にボールを受けてきた捕手だけに、その証言には説得力があるのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事