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悪いことばかりではない!年齢制限引き上げで大谷選手が得られるもの

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今回の大騒動で日米両国でさらに注目が高まる大谷選手の去就(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

今週は連日のようにスポーツ各紙はもとよ様々な媒体で、大谷選手のMLB移籍に関するニュースが飛び交った。

その報道内容は基本的に、新しい労働協約の下では25歳未満でのMLB移籍は契約年俸額が極端に押さえ込まれ、大谷選手に不利な状況になるというものがほとんどだったように思う。確かに年俸額だけ考えれば、25歳未満の大谷選手が相当の制約を受けるのはここでも報告した通りだ。

だが大谷選手にとって新協約はマイナス面ばかりなのだろうか。ちょっと視点を変え、プラス面について考察したいと思う。

もし前協約通りに23歳以上が「外国人プロ選手」だと認められたとしたら、大谷選手は2017年シーズン終了後に何の制約もなくポスティング・システムを使ってMLB移籍が可能だった。その場合FA選手と同じ扱いになるので、一部報道にあったような総額300億円に迫るような大型契約も結べていただろう。

ただそうした資金を用意できるのは、一部の資金力を持ったチームに限られてしまう。必然的にポスティングに参加するチームも絞られてしまうし、それは大谷選手が移籍できるチームが限定されてしまうということなのだ。

現行のポスティング・システムでは、限度額2000万ドルで入札したチームはすべて、交渉のテーブルに着くことができる。新協約で「アマチュア選手」扱いになった大谷選手は、米国内でFA権を取得するまでは他の若手選手同様の年俸上昇に留まるので、基本的に全チームが対応できる。それだけ多くのチームが大谷選手獲得に名乗りを挙げることができるのだ。

交渉できるチームが増えれば、当然のように大谷選手の選択肢も増え、じっくりチーム選びをすることが可能になる。資金力のあるチームの場合、常に優勝争いを強いられる状況に置かれていており、大型契約で入団する選手たちは常にプレッシャーを受けながらプレーをしなければならない。だが才能溢れる若手選手中心で構成された低予算チームが入札に参加できれば、現在の日本ハムのような環境でのびのびプレーすることができるだろう。

入札金限度額の2000万ドルも、現在のMLB球界ではそれほど高額ではない。現時点で2017年シーズンに年俸2000万ドル以上に到達している選手は41人いる。この時点でまだ契約合意に至っていない大物FA選手が残っているので、まだまだ増えるだろう。つまり大物選手の1年分の年俸を用意できるチームなら、すべてのチームが大谷選手争奪戦に参加することができるのだ。

一方で、大谷選手の希有な才能は日米野球関係者の誰もが認めるところだが、まだ大谷選手がMLBの環境で一度もプレーをしていないの。先発として中4日登板に対応できるのか、また本当に二刀流ができるのか等々、様々な面で未知数なのは事実だ。

これまで多くの日本人選手たちが大型契約を結んで海を渡ったが、そのすべてが額面通りの活躍をできたとは言い難い。逆にチームやメディア、ファンの期待が大きい分、不振が続けば手のひらを返したように批判の矢面に立たされたりもした。むしろ他の若手選手同様に、ゼロからスタートし、しっかり実力を身につけ活躍しながら年俸を上げていけば、ファンも納得してくれるだろう。

しかも突出した活躍ができさえすれば、大幅アップも期待できるのだ。FA資格が取得できるまで大幅な年俸アップが期待できない状況にあるのは間違いないが、例えばエンゼルスのマイク・トラウト選手のようなケースが存在する。

2009年のドラフトで高卒選手としてドラフト1巡目指名を受けると、順調にレベルアップし2011年にはメジャー初昇格。昇格後もその才能をいかんなく発揮し、2012年から5年連続オールスター出場を果たし、2014、2016年とリーグMVPを受賞している。

この間、年俸もうなぎ登りに上昇。2013年は最低年俸の51万ドルだったが、そこから2014年は100万ドル、2015年が608万3000ドルと推移。ここで年俸調停の権利を得ると2016年は1608万300ドルまで上がり、同年シーズン中にFA権取得を待たずに総額1億4450万ドルの6年契約を結び、現在に至っている。ちなみに2018年から3年間は3400万ドル以上の年俸が保証されているのだ。

普通にいけばトラウト選手がFA権を取得するのは、2018年シーズン終了後になる。にも関わらず、25歳ながらこれだけの大型契約を勝ち取っているのだ。

如何だろう。たとえ25歳未満でMLB移籍をしたとしても、最初は大型契約が結べないだけで、チーム選びの選択肢は増えるし、大谷選手の活躍次第でFA権を待たずに破格の契約も勝ち取ることも夢ではないのだ。

やはり個人的には少しでも早いMLB挑戦をお勧めしたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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