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現役引退したオルティス氏が目指す若手選手に対する人生指南役

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨季限りで引退したデビッド・オルティス氏が今後は若手選手の人生指南役に乗り出す(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

1月22日、またもMLB球界に悲報が飛び込んだ。ロイヤルズの若きエース、ヨルダノ・ベンチュラ投手と、かつてMLB3球団に在籍していたアンディ・マルテ選手の2人が、母国ドミニカで別々の交通事故で死亡した。

特にベンチュラ投手は22歳でMLBデビュー以来順調に成長を遂げ、まだ25歳ながら今シーズンは先発2番手として期待されていた逸材だった。それだけに彼の事故には、昨年ボート事故で死亡したホゼ・フェルナンデス投手に続く大きな損失として受け止められている。

そんな2人の訃報を報じる中、MLBネットワークに電話出演したデビッド・オルティス氏が、興味深い話をしていた。昨シーズン限りで現役引退して以降、今後どのような活動をしていくのか具体的な内容は明らかにされていなかったが、その一端が垣間見られるものだった。

「引退を考える前から自分の目標は、若い選手たちがしっかりケアされ、彼らが本当の人生の価値というものを理解しているかを確認することだった。そして今後自分がやろうと考えていることの1つが、彼らにしっかりした人生を過ごせるように教示していくことだ。車でスピードを出しすぎるのもその1つ。自分たちは若い年代から高額年俸を手にできししまうし、自分も若い頃は休暇中に無茶な運転をしたこともあったが、今ではそれがどれだけ危険な行為かも理解している。こういう痛ましい事故が起こる度に心が痛む」

オルティス氏と言えば、MLB在籍20年間の打者としての実績はさることながら、その人柄や社会的貢献活動などからドミニカ人選手を中心にラテン系選手から慕われ、尊敬されてきた中心的存在だった。そんな彼が今後もグラウンドの内外で若手選手の人生指南役になろうとしているのだ。

オルティス氏が話すように、現在のMLB球界では多くのラテン系選手が若いうちから高額年俸を獲得できる時代になった。今回事故死したベンチュラ投手も、2015年オフに24歳で総額2300万ドル(約26億円)の大型契約を結んだばかりだった。

ラテン系選手の場合、その出身国の経済状況から高額年俸を得ることは、人生が180度転換することを意味する。それまで経験してきた人生の価値観など吹き飛んでしまうほどの出来事だ。特に若い選手ならば、自分の状況を見渡せる冷静さを持つのは難しいことだ。それを少しでも制御したいとオルティス氏は考えているようだ。

これまでMLB球界でも高額年俸を獲得した途端、その才能を開花しきれずに姿を消していった有望選手は枚挙にいとまがない。もちろん故障などの原因による場合もある。だがオルティス氏のような存在が選手の側にいるだけで、多くの選手が人生を見誤らずに野球に専念する環境に身を置けるようになるのは間違いないだろう。

やはり現役を引退してもオルティス氏はオルティス氏のままだった。今後の活動に期待したい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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