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日本タイ記録に王手! その日、バレンティンは…  ~56本塁打への挑戦~

菊田康彦フリーランスライター

不滅と言われた記録が、まもなく塗り替えられようとしています。東京ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティン選手が、10日に行われた広島東洋カープ戦で今季54号本塁打を放ち、日本プロ野球記録の「55本」にあと1本と迫りました。

ヤクルトは富山~福井(雨天中止)~名古屋と続いた遠征を終え、東京に戻ってきたばかり。この10日から広島、そして阪神タイガースを相手に本拠地・神宮球場で行う6連戦は、さながら「バレンティン・ウイーク」の様相を呈しています。もちろん筆者も新記録達成を追って、この6連戦はフルカバーの予定。まずは昨日のバレンティン選手の様子をレポートしたいと思います。

前夜は大阪でコンサートを満喫

昨日、バレンティン選手が試合前の練習のため球場入りしたのは午後3時前。見ると頭髪が前よりもスッキリしています。本人いわく「昨日の朝、髪を切りに行ったんだ」とのこと。てっきりホームラン新記録達成に備えてのことかと思いきや「ノー。ピットブルのコンサートのためだ」という意外な返事。遠征から戻ってきたばかりだというのに、なんと前夜は米国のラッパー、ピットブルのコンサートを観に大阪まで足を運んできたと言うのです。コンサートの感想を尋ねると「スバラシイ!」と日本語で答えるなど、ご機嫌でした。

さて、肝心の練習ですが、フリーバッティングではいつものように最終組でケージに入り、まずはサウスポーの佐藤賢投手と対しました。2球ほど強めのプッシュバントを一塁方向に転がした後、約20スイングでサク越えはゼロ。左投手相手の練習ではセンターから右を意識した打球が多いのはいつものことですが、サク越えなしというのは珍しいかもしれません。その後、同じ組で打っていた松元ユウイチ選手とケージを入れ替わり、今度は右腕の村田正幸投手を相手におよそ25スイング。8球目をバックスクリーンの左に叩き込むと、さらに4本のオーバーフェンス。最後は「ウワァー!」という絶叫とともにフルスイングで左中間上段まで運び、打撃練習を締めくくりました。

仰天! 「クソボール」をスタンドへ

そして試合が始まると、いきなりやってくれました。1回裏、2死一塁で広島の先発・前田健太投手が投じた真ん中高めの151キロのストレート、顔ぐらいの高さのいわゆる「クソボール」にバットを振り抜くと、天高く舞い上がった滞空時間の長い打球はそのまま左中間スタンドの最前列にドスン。「ゲレーロだ!」あまりにも人間離れしたバッティングを目の当たりにして、悪球打ちで知られたメジャーリーグ通算449本塁打のスラッガー、ブラディミール・ゲレーロ(エクスポズ、エンゼルスほか)が脳裏に浮かびました。余談ですが、バレンティン選手のファーストネーム「ウラディミール(Wladimir)」は、実際にはゲレーロのファーストネーム「ブラディミール(Vladimir)」と同じ発音だと聞いたことがあります(少なくともメジャーリーグ時代は、同じように発音されていたはずです)。

球場正面に設けられた「ココ・メーター」の数字も試合中に54本に
球場正面に設けられた「ココ・メーター」の数字も試合中に54本に

その後の打席ではバットから快音は聞かれませんでしたが、これで1985年のランディ・バース(阪神)に並ぶ歴代4位タイの54号。残るは1964年に王貞治(巨人)、2001年にタフィー・ローズ(大阪近鉄)、そして2002年にアレックス・カブレラ(西武)がマークした日本記録の55本だけ。今日11日は、今シーズン9打数4安打、うちホームラン3本と相性の良い大竹寛投手との対戦になります。昨日の試合後、新記録を達成したら「笑うかもしれないし泣いてしまうかもしれないけど、どうなるか今は想像できない」と話していたバレンティン選手ですが、もしかするとその答えは今日にも出てしまうかもしれません。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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