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半数以上が150キロ台! 「速球王」由規が踏み出した復活への第1歩

菊田康彦フリーランスライター

昨年4月の右肩手術からの復活を目指している東京ヤクルトスワローズの由規(本名:佐藤由規)投手が、14日に戸田球場で行われたイースタン・リーグ(二軍)の若手混成チーム「フューチャーズ」との試合に、ヤクルト二軍の先発で登板。1イニングを無安打、無失点に抑え、最速155キロをマークしました!

2年2カ月ぶりの実戦マウンドで150キロ台の速球を連発したヤクルト由規
2年2カ月ぶりの実戦マウンドで150キロ台の速球を連発したヤクルト由規

由規投手が実戦で登板するのは、2012年4月13日の富士重工業との練習試合以来、実に2年2カ月ぶり。先月半ばに話を聞いた時に「僕の中では6月に(実戦に)行けたらなと思ってます」と明るい表情で話していたのですが、その言葉どおり6月中に実戦のマウンドに帰ってきました。

この日はヤクルトの先攻で、その攻撃が終わると、いよいよ由規投手の登場です。少し小走りにマウンドに向かう背番号11に、普段よりも多い観客から大きな拍手が送られます。そして注目の第1球。どこか懐かしくもあるノーワインドアップのフォームから放たれた投球は、高めに外れるボール。「速い!」と思いました。由規投手が投じた全球を手元のスコアブックをもとに、球速とともに列記してみます。

打者1:島井(東北楽天)三塁ゴロ

※以下、左から投球数、判定(球種=球速)の順

1 ボール(ストレート=148キロ)

2 ファウル(ストレート=149キロ)

3 ボール(スライダー=129キロ)

4 ファウル(ストレート=151キロ)

5 ファウル(ストレート=153キロ)

6 三塁ゴロ(ストレート=151キロ)

打者2:柿澤(東北楽天)三振

7 空振りストライク(ストレート=148キロ)

8 ファウル(ストレート=151キロ)

9 ボール(ストレート=151キロ)

10 空振りストライク(ストレート=152キロ)

打者3:モスカテル(横浜DeNA)四球

11 ボール(ストレート=151キロ)

12 見逃しストライク(ストレート=148キロ)

13 ボール(スライダー=132キロ)

14 ファウル(ストレート=152キロ)

15 ボール(ストレート=155キロ)

16 ファウル(ストレート=150キロ)

17 ボール(ストレート=151キロ)

打者4:藤澤(埼玉西武)三振

18 見逃しストライク(ストレート=148キロ)

19 ボール(ストレート=148キロ)

20 空振りストライク(スライダー=131キロ)

21 空振りストライク(フォーク=134キロ)

圧巻でした。全21球中17球がストレート。うち150キロ以上が11球。正直、どんな投球をするのだろうという思いで見ていましたが、その投球スタイルはみごとなまでに変わっていませんでした。

2010年には日本プロ野球史上、日本人最速の161キロをマークした「速球王」の由規投手ですが、昨年4月に神宮球場のクラブハウスを訪れ、手術を決断したことを告げた時の表情は、どこか悲壮感の漂うものでした。しかし、この日の試合後、球場横のグラウンドで会見に応じるその表情は、今まで見た中でも一番の「いい顔」に見えました。そして、そのコメントも充実感に満ちたものでした。

「マウンドに上がる前からそんなに結果にこだわらず、とにかく持ってるものを全部出し切れたらいいと思って上がりました。1つフォアボールは出しましたけど、思っていた以上にいい結果が出て、安心しています。(最速155キロは)そこまで出てるとは思ってなかったですけど、先週(5日に)バッティングピッチャーをやった時より、今日のほうが間違いなく手ごたえがありました。スピードを出すことが目的ではないですけど、1つのバロメーターとして、モチベーションの1つとして自信にはなります。これからが勝負になりますし、長いイニングを投げて、試合を重ねていくごとに本来のピッチングを取り戻せたらいいなと思います」

この日の復活登板を、周囲はどう見ていたのでしょうか。由規投手の入団時の二軍投手コーチで、フロントを経て今年からファームの投手コーチとして現場復帰した山部太コーチは、そのピッチングを絶賛していました。

「想像以上というか、(2年以上の)ブランクっていうのをまったく感じなかったですね。もうちょっと腕の振りが弱いのかなとか、かばった投げ方をするのかなとも思ったんですけど、スゴかったですね。あとは明日、どういう反動が出るかっていうところですね。でも、投げ方もキレイだし、肩を痛める前よりもいいフォームになってるんじゃないかと思うんですよ。無駄がないキレイなフォームになってるんで非常にいいと思います」

また、実際に投球を受けたキャッチャーの藤井亮太選手は、こんなふうに話していました。

「(ブルペンで受けて以来)久々に受けたんですけど、やっぱいいわって思いました。(球速は)そこまで出てると思わなかったですけど、キレがよかったです。相手がフューチャーズじゃなくても、抑えてるんじゃないですか」

さらにもう1人、由規投手のバックでレフトを守った、実弟の佐藤貴規選手です。

「僕も投げてるのを久々に見たし、本人も2年ぶりに投げたわけじゃないですか。それを見てたら、いろんなことを思いましたね。投げ終わった後にベンチで(兄に)“楽しかった?”って聞いたら、“楽しかったー!”って言ってました」

そう嬉しそうに話していましたが、佐藤選手は入団4年目の今シーズンも、各球団70人の支配下登録選手とは別枠で設けられた「育成選手」の身。

「兄貴と一緒に神宮でプレーできたらいいなってずっと思いながらプレーしてきたんですけど、そう考える余裕がこのところなくなってきたというか……。今は“兄貴と”っていうよりは、とにかくなんとか支配下にっていうことばっかり考えてますね」

好調だった打線から、畠山和洋選手とウラディミール・バレンティン選手が相次いで離脱するなど、相変わらずの故障禍に苦しめられているヤクルト。神宮を舞台に兄弟そろい踏みとなれば、明るい話題になるのですが……。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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