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ジ軍ミューレンス打撃コーチの“予言”は現実となるか? Wシリーズいよいよ開幕

菊田康彦フリーランスライター

「来年はジャイアンツがワールドチャンピオンになるよ!」

昨年11月にカリブ海にあるオランダ王国の構成国、キュラソー島を訪れた時のこと。同島で生まれ育ち、現在はサンフランシスコ・ジャイアンツの打撃コーチを務めるヘンスリー・ミューレンス氏の自宅を訪ねてたわいもない会話に花を咲かせていると、ミューレンス氏は不意にそう切り出しました。

傍らにはその3年前に生まれた男の子と、前の年に生まれたばかりの女の子。ミューレンス氏は、まず男の子に目をやりながら、こう言いました。

「あの子が生まれた2010年、ジャイアンツはワールドチャンピオンになった。そして…」

次に腕に抱きかかえた女の子を見て微笑むと、こう続けました。

「去年はこの子が生まれて、またジャイアンツは世界一さ」

なるほど!と、一同そこでうなずいたのですが、ということは……。そこへミューレンス氏の夫人が買い物から帰って来ました。見るからに大きなお腹をしています。

「そのとおり。来年また子供が生まれるんだ。だからきっとまたジャイアンツが世界一になるよ!」

微笑ましい理由ではありましたが、自信たっぷりに“世界一”を予言していたのが、強く印象に残りました。

1990年代半ばには千葉ロッテマリーンズ、ヤクルトスワローズでプレーし、1995年のヤクルトの日本一にも貢献したミューレンス氏(当時の登録名はミューレン)は、史上初のキュラソー島出身メジャーリーガーとしても知られています。

「それだけじゃない。(キュラソー島出身で)初めて日本でプレーしたのが僕なら、初めて韓国でプレーしたのも僕なんだ」

そう話したとおり、ミューレンス氏はヤクルトを退団してメジャーリーグに復帰した後、韓国でもプレー。さらに米国の独立リーグ、メキシカン・リーグを渡り歩き、引退後はマイナーリーグのコーチを経てジャイアンツの打撃コーチに就任すると、2010年、2012年と2度のワールドシリーズ制覇を支えました。そう、まさに2人の子供が生まれた年と符合するのです。

予定どおりミューレンス夫妻にとって第3子となる女の子が生まれたのは、今年1月のことでした。するとシーズン開幕後、ジャイアンツは4月下旬からナショナル・リーグ(以下ナ・リーグ)西地区のトップを走ります。

「これはもしかすると本当に……」

そう思い始めた矢先の7月下旬、ジャイアンツはロサンジェルス・ドジャースとの首位攻防の末に、その座を奪取されます。その後はふたたび奪い返すことはありませんでした。

それでも各地区優勝チームを除く、リーグ内勝率上位2チームに与えられる「ワイルドカード」をゲットし、プレーオフに出場。まずは同じくワイルドカードでプレーオフ進出のピッツバーグ・パイレーツを一発勝負の「ワイルドカード・ゲーム」で破ると、続く「ディビジョン・シリーズ」でも東地区優勝のワシントン・ナショナルズに3勝1敗で勝利。そしてナ・リーグ優勝をかけて臨んだ「チャンピオンシップ・シリーズ」では中地区優勝のセントルイス・カーディナルズを4勝1敗で下し、とうとう2年ぶりのワールドシリーズ進出にこぎ着けました。

いよいよ日本時間の22日に開幕するワールドシリーズの相手は、こちらも以前はヤクルトでプレーしていた青木宣親選手のいるカンザスシティ・ロイヤルズ。1985年に故ディック・ハウザー監督の下でワールドチャンピオンに輝いてからは、長らくポストシーズンから遠ざかっていましたが、今年は初めてワイルドカードでプレーオフに進出すると、なんとチャンピオンシップ・シリーズまで負けなしの8連勝。奇跡的な快進撃で、29年ぶりにワールドシリーズまで駒を進めてきました。

12年ぶりにワイルドカード同士が対決する、いわば「下剋上シリーズ」は、ミューレンス氏の“予言”が現実となってジャイアンツが2年ぶりのワールドチャンピオンに輝くのか。それとも青木選手を擁するロイヤルズの勢いがそれを上回り、29年ぶりにカンザスシティの街に“栄冠”をもたらすのか。ロイヤルズの本拠地、コーフマン・スタジアムで行われる注目の第1戦は、22日の午前9時過ぎにプレーボールの予定です!

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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