Yahoo!ニュース

カブス108年ぶり“世界一”! 敵地にこだました「没後32年目」の♪GO, CUBS, GO

菊田康彦フリーランスライター
WS第7戦、カブスの本拠地リグリー・フィールドにも多くのファンが集まった(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

GO, CUBS, GO♪ GO, CUBS, GO♪

1908年以来、シカゴ・カブスが108年ぶりの“世界一”を成し遂げ、長年にわたって語り継がれてきた「ヤギの呪い」を解いたワールドシリーズ第7戦。その試合後、カブスの勝利ソングである「Go, Cubs, Go」がスタンドにこだまするのが、中継画面の向こうから聞こえてきた。

レギュラーシーズン、ポストシーズンを通じ、カブスは本拠地リグリー・フィールドでチームが勝つたびに、この曲を流してきた。だが、ワールドシリーズ最終戦の舞台となったのは、敵地プログレッシブ・フィールド。当然ながら場内のスピーカーからカブスの勝利ソングが流れることはない。それでも敵地に詰めかけた多くのカブスファンが、勝利の余韻に浸るように声を合わせてこの曲を歌い上げていたのだ。

シカゴ生まれのシンガーソングライターで、子供の頃からカブスファンだっだというスティーブ・グッドマンが、「Go, Cubs, Go」をレコーディングしたのは1984年のこと。シーズン開幕前に行われたレコーディングセッションには、当時の主力だったゲイリー・マシューズ・シニア、キース・モアランド、ジョディ・デイビスらも参加していたという。そしてこの年、カブスは東西2地区制導入後、初めてナショナル・リーグ東地区を制覇。「ヤギの呪い」がかけられたとされる1945年以来、39年ぶりのポストシーズン進出を果たした。

しかし、1948年生まれのグッドマンが、ポストシーズンの舞台で戦うカブスの姿を見ることは、ついぞかなわなかった。20歳の頃から白血病との闘いを続けてきた彼は、カブスが初の地区優勝を決める数日前に、36歳の若さでこの世を去ったからだ。

グッドマンの死後も「Go, Cubs, Go」はカブスのチームソングとして使われたが、数年後にはビーチボーイズの「Here Come the Cubs」に取って代わられると、リグリーでの勝利ソングはその後、クール&ザ・ギャングの「Celebration」、KC&ザ・サンシャイン・バンドの「Get Down Tonight」などに変わっていった。

グッドマンの曲がふたたび日の目を見ることになったのは、2007年シーズンからだ。この年、あらためて「Go, Cubs, Go」が勝利ソングとして採用されると、カブスはルー・ピネラ新監督の下で4年ぶりの中地区制覇(1994年の3地区制導入時に東地区から移転)。さらに翌2008年は初の地区連覇を成し遂げた。以来、カブスが勝つたびに場内に流れる「Go, Cubs, Go」に合わせてファンが合唱するのが、リグリーにおける“お約束”となった。

2016年シーズン、「Go, Cubs, Go」はカブスファンによって実に57回も歌われ、プレーオフでも計4回歌われた。そして10月30日、ワールドシリーズでは71年ぶりにカブスが本拠地で勝利を収めると、メジャーリーグの頂上決戦で初めてグッドマンの歌声がファンの合唱と共にリグリー・フィールドに広がった。

最後にワールドシリーズを制してから108年、「ヤギの呪い」から71年、そしてグッドマンの死から32年……。カブスがついにワールドチャンピオンに上り詰め、自らの曲が敵地でファンに歌われているのを見たグッドマンは、往年の名物アナウンサーであるハリー・ケリー(1998年死去)と共にあの世で「Holy cow!(なんてこった!=ケリーお得意のフレーズ)」と叫んだに違いない。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

菊田康彦の最近の記事