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独立Lコーチ辞退し、保険業界へ。元ヤクルト松井淳が歩み始める「第2の人生」【前編】

菊田康彦フリーランスライター

今年、2016年も数多くのプロ野球選手がユニフォームを脱いだ。広島東洋カープの黒田博樹や横浜DeNAベイスターズの三浦大輔などのように、ファンに惜しまれつつ、華々しいセレモニーで盛大に送り出される選手はほんの一握り。大半はひっそりとグラウンドを去っていく。今シーズンまで東京ヤクルトスワローズでプレーしていた松井淳(29歳)も、その1人だ。

プロ野球選手としての人生に区切りをつけ、これからは社会人として新たな人生を歩む
プロ野球選手としての人生に区切りをつけ、これからは社会人として新たな人生を歩む

「『その日』が来るまで全力でやろうと思っていたので、悔いはない」

「9月の終わりぐらいに寮の会議室に呼ばれて、そこで『球団に行ってくれ』って言われました。自分でもそろそろかなっていうのもあったんで……」

松井はその時、己の運命を悟った。プロ7年目の今シーズンは、ファームで97試合に出場して打率.262、2本塁打、39打点。5月は打撃好調で、6月には一軍に昇格したものの、わずか2試合の出場で再び降格になると、その後は一軍から声がかかることはなかった。

10月1日、言われたとおりに向かった都内の球団事務所で待っていたのは、やはり戦力外通告。もう既に腹は決まっていた。

「ドラフトで指名された時から、いつかはそういう時が来るっていうのはわかってたんで、その日が来るまではホントに全力でやろうと思ってたんです。(戦力外と)言われた時が自分の最後の時だなっていうふうにはずっと思ってたんで……。でも、そういう気持ちがあったから練習にも一生懸命に取り組めたっていうのもありましたし、悔いはないですね」

完全燃焼の7年間。その間には、大ブレイクを予感させたこともあった。横浜商大高から日大国際関係学部を経て、ドラフト5位でヤクルトに入団して3年目の2012年。交流戦中に一軍に昇格すると、6月10日の埼玉西武ライオンズ戦(神宮)で牧田和久からバックスクリーンへプロ初本塁打。その3日後には東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大(現MLBヤンキース)、7月11日にはDeNAの三浦からもホームランを打つなど、一躍脚光を浴びる存在になっていった。

ケガに翻弄されたプロ野球人生

だが、前途洋々に見えた未来は、ケガに翻弄されていく。2週間あまりの二軍調整を経て、久しぶりに一軍に復帰した8月30日の広島戦(神宮)。スタメンで起用されると、いきなり先発の大竹寛(現巨人)から2本のヒットを打った。ところが──。

「もともと痛くて……これは時間の問題じゃないかって思ってたぐらい(左手親指が)腫れてて痛かったんですけど、(一軍に)上がってきたばかりだったんで試合に出たんですよ。2打席目にものすごい詰まって、ヒットにはなったんですけど、その時はまったく力が入らない状態で……」

そんな状態でも弱音を吐くわけにはいかなかった。ようやく一軍でチャンスをつかみ、それをモノにしなければいけない大事な時。痛みをこらえて出場を続け、9回に回ってきた第4打席では起死回生の同点ホームランを放ったが、もはや限界だった。

「家に帰っても、痛くて寝れないぐらいだったんです。自分で見ても普通じゃなかったんですけど、次の日も出たかったんで、うまいこと痛み止めとかテーピングで出れればと思ったんですけど……。

グローブをはめるのもすごい時間がかかったり、ボールを捕るのもやっとみたいな感じだったんで、ちょっと厳しいのかなとは思ったんですけどね。病院に行ったら『これはギブスだね』って。もう少しいってたら手術って言われたんで、思ったよりも酷かったですね」

検査の結果、左手親指付け根のじん帯損傷と判明して戦線離脱。それでもこの年は一軍で46試合に出場して打率.287、チーム4位の5本塁打。淡口憲治二軍打撃コーチ(現評論家)と二人三脚で取り組んだフォーム改造も功を奏し、入団3年目にして確かな手ごたえをつかんだシーズンとなった。(【後編】に続く)

(文中敬称略)

独立Lコーチ辞退し、保険業界へ。元ヤクルト松井淳が歩み始める「第2の人生」【後編】

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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