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ドラマ最前線 制作者インタビュー 3 NHK 小松昌代 今の大河ドラマのトライを、長い目で見てほしい

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
10月11日放送41話より 群馬へ向かう馬車のなか

===大河ドラマ『花燃ゆ』の制作統括(※NHKではプロデューサーのうえにこの役職がある。チーフプロデューサーという意味)はふたり。大河ドラマ経験のある土屋勝裕と、はじめて大河に挑む小松昌代だ。小松は主演の井上真央と、朝ドラ『おひさま』(11 年)で一緒に仕事をしている縁もあって、『花燃ゆ』に参加したという。会見などでは土屋が代表して語ってきたが、大奥編に入って企画された女性記者が井上真央を囲む取材会では小松が取材を受けた。大河では女性ヒロインものもあるとはいえ、『花燃ゆ』のように名もなき民衆の女性が主役となるのは珍しい(※大河ドラマ第5作目、67年『三姉妹』が、大河で初めて無名の女性を主人公にしている)。脚本家も4人の女性作家のリレー式と何かといろいろ目新しい今回の大河ドラマに、小松がどのように取り組んだのか、インタビューしてみた。

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これから最終回まで小松江里子がすべて脚本を書く

ーー9月から明治編がはじまりました。大奥編もかなり違う雰囲気でしたが、明治編で3度くらい作品が生まれ変わるような。

小松そうですね、本当に3つ違う番組をやっているようです。36話(9月20日放送)から明治編になりまして、これから舞台が群馬に移ると、風景もひとも大きく変わっていきます。

ーー作っている方たちは大変ですね。

小松私たち制作側よりも俳優が大変です。大奥編のとき、井上真央さんが“目を逸らせない女の人たちの圧”と言っていましたけれど、群馬の登場人物の発するエネルギーはまた全然違いますから。

ーー何が違いますか?

小松大奥では奥女中や姫が相手でしたが、群馬では地方都市の一般民衆です。養蚕の町ですから、養蚕農家や製糸業を営む奥さんたちと美和は向き合っていきます。維新とは今までの価値観を壊すことで、ここから新しい国や時代ができていくので、人々が発するエネルギーも壊すのではなく作るほうに向かっています。その渦中に飛び込む美和はかなり疲れると思います。

ーーこれからはいよいよ美和と楫取素彦(小田村伊之助から改名/大沢たかお)夫婦の話に収束していくのでしょうか。

小松最終的に結婚するのはかなり後半です。お姉さんの寿(優香)が亡くなってからですから。美和と楫取の最終的な関係は“大人婚”と呼んでいまして、恋愛というより、いろいろなことを共有したふたりが、次第に寄り添っていくような感じになるんじゃないでしょうか。

ーーそういう繊細な関係性は、脚本家さんのやりどころになりそうですね。

小松群馬の富岡製糸場の生糸で日本が産業を起こしていくところと教育の普及、美和と楫取の関係性の変化が、物語の2本柱になります。

4人の脚本家が描いた、それぞれの『花燃ゆ』

ーー『花燃ゆ』には脚本家さんが複数います。

小松36話から最終回までの15本は小松江里子さんひとりで書きます。1話からだと、大島里美さん、宮村優子さん、金子ありささんの、全部で4名です。

ーー複数体制になった理由は何だったんですか?

小松これだけ作品の世界が変わっていきますから、複数作家制で、それぞれの得意なところを生かしてもらう新しい試みをしてみようということでした。やっぱり50本もありますから……。

ーーですよねえ。ひとりの作家がすべて書くことが偉業ですよね(※複数脚本家の大河も過去に存在はしている)。これまでの3名と、これからの小松さんの個性を語っていただけないでしょうか。

小松大島さんは非常に発想が自由なひとで、若い久坂玄瑞(東出昌大)や高杉晋作(高良健吾)があふれるエネルギーをもて余している姿などをすごく生き生き書いてくれました。宮村さんは、16、17回の吉田松陰(伊勢谷友介)の最期や、奥の立ち上げから、奥で美和が生まれ変わって、33回で、ある意味、美和がやってきたことの果実が実るみたいなところを非常に安定感のある筆致で書いてくれました。台詞が心に染みるようでしたね。金子さんは、伏線の使い方がうまい。とくに31回は、心理サスペンスのような要素も盛り込みながら、美和の心の動きを描いていて、彼女の良さが出ている回と思います。小松さんは、女性の心情を描くのが巧みだと思います。ここから先は、子供を産むことができなかった美和が、その代わりに新しい日本人を育てることになり、それを小松さんは「天命」という言葉で語らせます。その天命に生きる美和の心情が丁寧に描かれます。

ーーこうして4人の女性が脚本を書いた『花燃ゆ』によって、今までの大河ドラマのイメージがだいぶ刷新された気がしますが、それは最初からそう考えていたことですか?

小松はい。大河ドラマというと、偉人の生涯を史実に即しながらエンターテインメントで見せていくことがイメージとしてありますけれども、それだけでなく、ホームドラマ的な要素を盛り込もうと思っていました。偉人だって家族がいて、家族のことを思うわけですから。あと、時代をつくっていったのは、歴史的に有名な偉人たちだけではなくて、彼らを下支えしている一般のひとたちも含むのだという視点が、これから先大河ドラマをやる上で必要なんじゃないかと思いました。もうひとつ、やっぱり若い人たちにも見てほしいので。これまで大河ドラマを、歴史ものに興味ないからと遠ざけていた方々に、人間ドラマとしてご覧になっていただけるものをやりたいってことはあったと思います。

ーーそれこそ、今回、大沢たかおさんが演じる楫取素彦は、今まで大河ドラマで描かれたことがない人物なんですよね?

小松ないんですよ。

ーーどういう人生を送った人かまったく知らなかったのが、今回拝見して、非常に魅力的な人物に描かれていて。それは俳優、脚本、演出の力でしょうが、今後、彼の作品も生まれていく可能性につながっていきますね。

小松楫取は今まで有名ではなかったけれど、松陰や高杉と同じようにいろいろなことに葛藤しながら、生き抜いていった人たちの代表です。どうしても、これまでの大河ドラマは、華々しく亡くなっていった人たちにスポットが当たってきましたが、彼らの意を受けてというか、生かされていったひとたちのことを描いていく意義があると思います。

ーーそういうチャレンジをやり抜くにはプレッシャーもあったんじゃないかと思いますが、いかがですか?

小松もうひとり、土屋といういつも会見に出る制作統括がいて。『花燃ゆ』は彼が立ち上げた企画なので、彼が英断したということですよね。

ーー土屋さんと小松さんとのコンビはどういう役割分担なんですか?

小松あんまり役割分担ってないんですよね。なんか一緒にやっています(笑)。強いて言えば、私は朝ドラ『おひさま』の制作統括やっていたので、真央ちゃんのことをよく知っていて、いろいろ話がしやすいというのはあります。

ーーそれこそ女性が主役だから、女性の目線が必要であるとかそういうこと?

小松そういうこともあるでしょうね。普通の女性の物語を、女性の脚本家たちでつくる企画なので、女性プロデューサーがいたほうが良かったのかもしれません。例えば、奥が閉じるとき、田中麗奈さん演じる銀姫が、大奥は徳川が負けたから閉じるけど、長州は勝ったのになんで私たちも閉じないといけないのか? というような疑問を発するんです。そういう女性側のーー要するに生活レベルな目線を描いていることが、『花燃ゆ』の面白いところだと思っています。

ーーデータがあるわけではなく印象でしかないのですが、近年、そういう市井のひとたちを描く作品が増えているように感じるのですが、いかがでしょうか?

小松あ、かもしれないですね。

ーーあるとしたら、どういうわけだと思いますか?

小松どこか自由じゃない、逼迫したような社会状況の現れじゃないですかね。特別なひとじゃないひとたちが勇気をもって生きて行く、そういうドラマをつくることが見ているひとたちの心に届くんじゃないかという思いはしますよね。

生みの苦しみを味わっている

ーーちょっとお聞きし辛い話ですが、視聴率的には苦戦をされています。そのなかで、今、おっしゃったような意義深いトライをされ続けることについて、どのようなお気持ちですか。

小松今こういう時代だからというのと同じで、生みの苦しみがあると思うのですが、でも、十代の方々が『花燃ゆ』を話題にしてくださっているってことを聞いたりすると、新しいことをやっていますから、いろいろありますが、こうして今まで見たことのない方が見てくださっているならそれもひとつの意味があることなんだなと思いますね。

ーー長い目で見たトライであると。

小松そうですね、長い目で見てくださいという感じで。奥に入ってから少〜し(笑)視聴率が上向きましたが、これからまた新しい世界に入っていきます。大奥編を『新・花燃ゆ』と呼んでいましたが、群馬編からまた新しく「いらっしゃいませ」という感じで、ここから見てくださる方がいても大丈夫です。

ーーそういう、まったく違うドラマのように三段階つくることは、最初から考えていたことなんですか?

小松だいたい想定していましたが、奥をやりはじめた時に、こんなに変わるなんて思ってなかったというのはありました。それで、全然違う番組を3つやっている感じで見てもらおうというのは、大奥編に入った瞬間に覚悟を決めました。

ーー長丁場ですから、やりながら方針が変化していくこともあるんですね。

小松そうなんです。そこが生き物で面白いかもしれないです。真央ちゃんも、そうなんじゃないですかね。最初に、だいたいの話の流れは聞いているわけですけど、実際に奥に入って、まわりにいる共演者が変わり、着るものも変わったときにまた全然違うことを感じたと思うんですね。実際、回想シーンなどで、文の頃の顔が入ると、真央ちゃんの顔が全然違います。これがまた群馬に行って、普通の着物に変わると、また顔も芝居も変わっていくと思います。井上真央の才能の見せどころだと思いますね。彼女は、強力な対戦相手を用意すると、立ち向かっていく女優です。だから、どんな登場人物を真央ちゃんにぶつけられるかも課題なんです。そのひとりが、三田佳子さんです(※三田は、オリジナルの庶民たちを描いた86年の大河ドラマ『いのち』で主演をつとめている)。

ーー演技合戦がまた楽しめそうですね。

小松そういう俳優と俳優の化学反応みたいなことが面白いんじゃないですかね。

忘れられない瞬間を求めてドラマを作っている

ーーさて、話が飛びますが、小松さんの人となりがわかるといいなあと思っていまして、小松さんがドラマを作りたいと思ったきっかけを教えてください。

小松映画やドラマが大好きだったということはありますけど、小学生のとき学校に行く前に、朝のニュース番組で、ベルリンの壁を空撮で撮った映像を見て、ベルリンの壁が何たるか知らなかったにもかかわらず、その絵がすごく印象に残ったんです。ドラマも映画もですが、いつも思い出しているわけではないけれど、おりにつけ蘇る映像や誰かの言葉というものがありますよね。ベルリンの壁もよくわからないながら、こういうふうに東西に分かれてしまっているひとたちが世界にいるんだってことが、この映像によって強烈に印象に残って、そういうのって原風景のように心に残って、その後、自分の生き方のベースに組みこまれていく。テレビの役割とは、そのときすぐに役に立たなくても、何かの行動や考え方のきっかけになることだと思って、そういうものをつくる仕事がしたいと願うようになりました。

ーーある種のジャーナリスティックな視点ですね。

小松『花燃ゆ』も今、数字が苦戦していますが、ある場面だったり台詞だったりが、見てくださるひとたちの記憶に残っていくようにはしたいなとは毎回思っています。

ーーいい台詞ありますし、例えば、高良健吾さんの高杉晋作の思い詰めた表情が忘れられないなあと思います。

小松そう言っていただけるとうれしいです。

ーー例えば、5年後に10年後に、子供のとき、見ていて、なんかわかんないけど、高杉晋作が凄かったって覚えている人たちがきっといる気がします。映像もしっかり綺麗に撮っていますよね。

小松そう言っていただけると。ひとの覚悟だとか真心みたいなものが現れる瞬間は、ちゃんと届けていきたいということは、心に決めてやっているところはあります。だから、真央ちゃんとは台本を読みながら、このひと言は絶対しっかり言っておかないと駄目だよねとかってことはものすごく話しますよ。

10月4日(日)放送40話より 美和と久坂の子・秀次郎(五十嵐陽向)
10月4日(日)放送40話より 美和と久坂の子・秀次郎(五十嵐陽向)

死ねない大変さと死なない大事さ

ーーそう思うと、『花燃ゆ』で、吉田松陰、久坂玄瑞、高杉晋作……と亡くなっていったひとたちの鮮烈な表情や台詞があって、それを生き残った美和や楫取が受け継いでいくという、とてもよく計算された構成ですね。

小松楫取は松陰たちの下支えをしながら、処刑されそうになったりもしながら生き残っていきます。幕府が倒れて明治政府ができて、そこの参与になるわけですが、殿の要請で、また萩に帰って、脱退騒動やなにかがあって、殿が亡くなったあとには農業やりますからね。史実だと最初は足柄の県令になるんですよ。そういう意味では怒濤のような人生ですよね。その中で、とにかく先を見ていた。常に、行く道にうっすらと光を感じていたと思います。

ーーいろいろ変わりながら生き残っていくってところに、魅力を感じます。ヒーローは志が大きく、やることも大きいですが、死んじゃうじゃないですか。志半ばで。楫取には死なないってことの大事さを感じます。

小松そう、生かされたっていう言い方よくしますけど、ほんとうに死ねない大変さと死なない大事さはあると思います。

ーー死ねなかった苦しみも背負って。それは非常に面白い人物像を見出されましたね。美和も美和で、男たちを支えてきて、ひとり生き延びる。楫取と美和、生き残ったふたりの物語っていうのは、すごくドラマチックですね。

小松だと思いますね。

ーー回数重ねてきたことでそれがしっかり見えてくる。

小松そうですね。結局、楫取も美和も、自分の生き方を自分で決めているんですね。葛藤しながらそれをステップにして次の世界に行くふたりに小松江里子さんが書いた台詞が「ふたりは似ている」って言うもの。息子がそう言うんです。

ーーこれからの、楫取と美和のドラマが楽しみですね。

小松史実があまりない分、小松江里子さんの力にかかっています。

時代が変わっても変わらない思い

ーー今後も大河は小松さんが拓いた、新しい女性や下支えする者たちの視点を描いたものをやっていきますか?

小松というもののもやっていけたらいいですよね。責任持ちたいと思います、そこにはね(笑)。

ーー女性が主役っていうのも増えていますか?

小松そうですね。再来年も発表になりましたね(17年「おんな城主・直虎」)。ただ、NHK全体としての大きなプロジェクトして、“女性が主役のドラマ”を考えているわけではないんですよ。

−−テレビは女性のほうがよく見ているからってことなのでしょうけれど。

小松そういう中で、大河はそもそも男性のドラマでしたけれど。朝ドラもそうですが、女性のもっている力強さは、人間の強さを描く大河ドラマとして充分一年間やっていけるテーマだとやっていて思いました。これだけ多くの大事なひとたちの死に会いながらも生きていく体験は、おそらく女性のほうが多くしているのではないでしょうか。

ーー『花燃ゆ』はヒーロー然としたひとたちが愛人をもっていて、苦しむ本妻のことも書いてあるのが、女性ならではのドラマだと感じます。

小松高杉もねえ(苦笑)。これから先も、美和の友達・すみ(宮崎香蓮/さきは大が立)が伊藤博文(劇団ひとり)と結婚しますが、梅子に子供ができたことで離婚して、その新しい夫妻の仲人で再婚しているんです。だからほんとに男のひとたちって……、と思いますよね。

ーーでは、最後に、今後、何を大事にして、ドラマをつくっていこうと考えていますか?

小松先ほど言ったことがすべてで、なんでもない瞬間が、みなさんに届いていくことが一番大事で、その場面から、それぞれ、いろいろなことを想像していただけることが必要だと感じます。その人の感じ方は歳月と共に変化しますから。でも記憶は変わりません。今、どうしても、いろんなことを決めて提示するドラマが歓迎されますが、テレビはある意味、空間提供だと思っていますから、皆さんがそれぞれの思いをもって見ていただけるものをつくり続けたいですね。

ーーそこは時代が変わっても変わらない?

小松変わらないですね。

ーーわかりやすさを求める世の中の風潮には抗っていく。

小松全部を台詞で語ってしまったり、説明的なものにするくらいだったら、ドラマは要らないと思うんですよ。

153m小柄で華奢ながら大河に挑む原動力は、愛犬。そして、井上真央と語り合うこと
153m小柄で華奢ながら大河に挑む原動力は、愛犬。そして、井上真央と語り合うこと

profile

小松昌代 Masayo Komastu

1965年1月5日東京生まれ。

フリーで日本テレビやテレビ朝日でドラマ制作に携わった後、NHKプロデューサーに。主な制作統括作品『芙蓉の人〜富士山頂の妻』『あさきゆめみし〜八百屋お七異聞』『第二楽章』『はつ恋』『おひさま』『派遣のオスカル〜「少女漫画」に愛をこめて』。12年エランドール賞プロデューサー奨励賞受賞。

大河ドラマ『花燃ゆ』

脚本 小松江里子

演出 渡邊良雄ほか

出演 井上真央 大沢たかお ほか

毎週日曜夜8時〜

長州に生まれた、吉田松陰の妹・文(のちに美和と改名/井上真央)が、江戸から明治に日本が変わっていく激動の時代を、あふれるバイタリティーで生きていく姿を描く。

明治編では、時代は明治となり、御中臈にまで上り詰めた美和が大奥の閉鎖によって、また新たな人生を歩んでいく。亡き夫・久坂玄瑞(東出昌大)が愛人との間につくった子供を引き取り、楫取素彦(大沢たかお)と寿(優香)とともに、新天地群馬に向かう。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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