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ダメ田十勇士、佐久間象山……最終回も遊び心の連続だった『真田丸』を経て、大河ドラマの今後の課題

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
50話より 大坂夏の陣ついに家康と対峙する幸村 写真提供NHK 
50話より 大坂夏の陣ついに家康と対峙する幸村 写真提供NHK 

全50話に及ぶ物語が完結した『真田丸』。

堅牢で太い幹に様々な枝葉をつけてどこから見ても面白いドラマに仕上げたばかりのプロデューサー吉川邦夫インタビューの最終回。ドラマで伝えたかったことと今後の大河ドラマの可能性を聞いた。

人生、どう転がるかわからないから

ー前回のインタビューできりの話を伺いましたが、彼女だけでなく、女性の存在が『真田丸』ではとても面白かったです。

吉川「正室と側室を描くのは歴史ドラマの宿命ですが、現代感覚と照らし合わせると、両方ともいい人に描くのはなかなか難しいものです。現代の妻と愛人の関係にどうしても置き換えてしまいますから、どちらかにネガティブな面を背負わせがちになるのですが、『真田丸』ではみんながうまくいっている感じに描けました。梅ときりからはじまって、春ときり、稲とおこうも、一人の男性をめぐって互いにライバル心や嫉妬はあっても、まともな諍いはほとんど起こしてない。唯一、春とたかが一触即発になったくらいで(笑)。三谷さんが描く女性たちが、みな魅力的なので、お互いにその魅力に惹かれることにも納得できるんですよね。おこうと稲の嫡男の話も、最初からああいう物語を考えていたわけではなくて。考証会議で知った、おこうと信吉にまつわるいろいろな説をぜんぶ採用する解釈に挑戦したんです。まず、おこうは信之と結婚していたけど、正室・稲が来たことによって、離縁されてしまい、でも侍女として残り、男の子を生み、それを最終的には稲が真田家の嫡男だと認めるという。かなり面白い展開になりましたよね。正直、最初は、おこうは途中でフェイドアウトしてもらうかもしれないので、病弱設定にしていたんです。この新しい設定が見えたことで生き残り、逆に侍女になって、重圧から逃れて元気になるっていう話になって(笑)」

ー最初の予定をフレキシブルに変えたわけですね。

吉川 「そうやって状況が人を、人生を変えていく。長野里美さんは、その変化を見事に演じきってくれました」

ー人生、どう転がるかわかんないということですね。

吉川 「ええ。それを描けるのが長いドラマのいいところですよね。50回あるから、そこまで発展させられる」

ーそういうふうなことはスタッフみんなで集まって侃々諤々するんですか?

吉川「初期、撮影に入る前はそうしていました」

ーだいたい、どういう人達が集まるんですか。作家、演出家、プロデューサー、考証の方?

吉川「考証会議は別ですね。脚本打合せは、最初の頃は、毎週1回三谷さんにNHKまで来ていただいて、制作演出チームで来られる人はみんな出席して打ち合わせしていました。そこで、物語の世界観や登場人物のイメージなどを共有していったんです。三谷さんの考えを聞きながら、家族や家臣は誰まで登場させるのか、どの歴史上の事件を描くのか、それについて定説を採るのか、俗説を採るのか、あるいは、新説を採り入れるのか三択にするのか、といったことを少しずつ明確にしていきました。史料の少ない女性の登場人物の役割や名前なども、ある程度までここで決めていきましたね。撮影が始まると、それぞれ自分の仕事で忙殺されてしまうので、三谷さんとぼくとその回の担当演出だけの打合せになっていきます。参加できない人の意見や感想は、ぼくが聞いておいて、打合せの材料にいかす、という形です。考証会議は、三谷さんの初稿を考証担当の先生方に読んでもらって、考証意見を聞き、三谷さんと検討して、決定稿に生かす、というのが基本です。その一方、歴史の専門家である考証の先生方しか知らないことに、先の物語のヒントが隠されていることも大いにあるので、先の展開のイメージについてもよく話題にします。上田合戦や大坂の陣などの実際の戦い方の検証や、秀吉の複数の遺言が持つ意味、秀次切腹の経緯などは、歴史学の最新の研究成果をまず掘り下げて、それをベースにしてエピソードが組み立てられた例ですね。考証をどう物語作りに生かすか、というのは歴史ドラマの大きな課題です。第1話の初稿で、穴山梅雪の居場所が考証の議論になりました。史実の通りにするならば、その頃、梅雪は駿府に居るので、諏訪の勝頼の軍議には参加できないんです。でも、穴山梅雪は、物語の序盤において非常に重要な人物なので、人物の位置づけが見えるこの軍議には居させたい。役者にセリフを言わせたい、という意味だけではなく、梅雪が武田を裏切って徳川につくことで、武田滅亡のひきがねを引くという大きな意味での歴史的な役割を描くためには、武田家臣団における一門筆頭としての梅雪の存在を、ドラマ上で印象づけなくてはならない。そこについては考証の先生方にも共感していただけたので、駿府に居た梅雪が、非公式に諏訪に来たことにしよう、というドラマ上の設定ができました。『非公式だから記録にもない』、とすることで考証もクリア。この非公式の遠征中に、梅雪は武田の人質である自分の家族を脱出させる算段をつけたのだろう、という深読みもできるようになりました」

大河ドラマの今後の可能性

ーさて、『新選組!』や『真田丸』などのトライによって、大河ドラマにも変化が起きている印象ですが、大河ドラマの必勝法みたいなものはありますか。

吉川 「ないですね。必勝法があるなら、きっとみんな毎回やっていると思いますよ(笑)」

ー吉川さんが絶対におさえたいと思っていることはあるんですか?

吉川「まずは作家の個性が存分に発揮された、魅力的な脚本を作ることです。当たり前ですけれど、2年近くその作品に向き合って過ごすのだから、スタッフ・キャストがみなワクワクして待つような脚本を毎回用意できるかどうかは、チーム全体の士気に大きく関わります。そして大事なのは、作家、スタッフ、キャストを信じることですね。無難に平均点を取りにいくのではなく前向きに冒険するためには、若く新しいアイディアも、ベテランの賢い知恵も等しく重要です。大所帯のチームだということは、その人数分だけ違う発想がある、ということ。うまく吸い上げ、まとめることができれば、これは強力な武器・宝です。そのためには、お互いを信じ合うことがとても大事だし、そういう空気を作るのがプロデューサーの仕事でもあります。『真田丸』では、5人のプロデューサーがそれぞれの方向に目配りをして、それが叶えられたと思います」

ーストーリーに関しては。

「神の目線に立たないことでしょうか。特に歴史劇は、結末を知った目線でものを見がちになるけれど、当時生きていた人間の立場に立てば、先のことは全く分からなかったわけで、自分の身の丈のことしか見えないし、翌日に何が起こるのかは無限に可能性があった。その振れ幅を描くことで、歴史物語は何倍も面白くなると思います。三谷さんは、その見せ方が本当に巧みな作家ですね」

ーそれらによって、お年寄りの方が観るものという認識をとりはらい、若い方や女性や、SNSユーザーが観るようになった。

吉川「『真田丸』は、子供もハマってくれた手応えがあって、それが嬉しいですね。子供にも観てもらえた理由のひとつは登場人物の感情にリアルな実感があるからだと思います。歴史の知識がなくても、共感したり反感を持ったりすれば、人物に惹きつけられていきますから。まず人物に惚れて、それをきっかけに歴史に興味を持った、という小学生からの感想をたくさんいただいて、大河ドラマの役割のひとつを果たせたように思っています」

ー今後の大河ドラマの課題を教えてください。

吉川「レガシー問題は考えていく必要があると思います。『真田丸』では全国展開して、上田をはじめ関係する地元も大いににぎわいました。大河ドラマにしても朝ドラにしても、例年、舞台になる地域には、史跡を訪ねたり、イベントが行なわれて、凄まじい数の人が来るんです。ただ、放送が終わったあとの落差が激しいので、終わったあとも人が呼べる方法論を考える必要があると感じています」

ーそういう意味では3年経っても、朝ドラ『あまちゃん』の舞台、久慈にはいまだに人が訪れていますね。

吉川「『炎立つ』(94年)では、江刺(現・奥州市)にオープンセットを作ったのですが、平安鎌倉室町期の建物を本建築で建てたもので、おかげでいまも機能していて、時代劇の撮影に使っているんです。『真田丸』でも使いましたし、『おんな城主直虎』でも使っています。たいていのオープンセットは、ハリボテですから撮影が終わると壊してしまうので、稀有なことなんです。歳月が経つごとに味わいを増して、『炎立つ』の頃よりいまのほうがいいんですよ(笑)。地域活性化に貢献するためにも、その地域に長いこと人が訪れるような種を、毎年の大河や朝ドラが蒔いていけたらと思います」

ーところで、『真田丸』にはスピンオフの予定はないのでしょうか。

吉川「スピンオフは今のところは考えられていないですね。『新選組!!〜土方歳三最期の一日』は奇跡でした。大河で続編が作られたのはあれ1本しかありません。あらかじめ、三谷さんが大河本編は近藤勇の一代記と決めていたから成立したんです。近藤勇が死んだあとも、土方歳三と新選組がまだ残っていましたからね」

ーとしたら、信之の話をやってほしいような気もしないではないですけど。

吉川「なら『真田信之最期の一日』ですかね? 大泉さんに凄いメイクをして、93歳で信之が老衰で死ぬ日を、『ダメ田十勇士』のような10分ぐらいの短編で描いたらおもしろいかも(笑)」

ー『ダメ田十勇士』と言えば、本編に登場しましたね。

吉川 「三谷さんが気に入って登場させてくれました。あれは清水拓哉プロデューサーの企画で、ちょっと新しい形の番宣をやりたいと、YouTubeのユーザーに大河ドラマの存在に気づいてもらいたいというものでした。ほんとは2分くらいのものを発注したのですが、10分になってしまって(笑)。インパクトのある出来でおもしろかったですね。三谷さんも彼らのキャラクターを気にいったのですが、彼らは死ぬ気だったので、幸村から『命を惜しめ』と言葉をかけたかったんだそうです。『真田丸』の幸村なら、彼らにそう言うはずだと。なので、ストーリー展開的には別のものになっていますね。パラレルワールド、かな」

ー最後の最後まで、SNSが沸く展開でしたね。最終回の、締めのナレーション・佐久間象山(『新選組!』でも重要な存在だった)の件は台本を読んだときどう思いましたか? このナレーションに込めた思いを教えてください。

吉川「これも『多面性』の行間を持つ深いナレーションだと思いました。真田信之のこれからの歩みを佐久間象山に結びつける、というのは、今後の松代藩の歴史的な道筋を紹介した、と見ればそこまでですが、松代で信之船長のもと再出航する家族船・真田丸の航海図を見せたとも言えるし、その航海の先で、信繁が討ち取りきれなかった徳川家康の夢が、250年後ついに絶たれることを暗示しているともとれる。そして、三谷大河を応援して下さる皆さんへのメッセージとして、『真田丸』の物語を『新選組!』に橋渡しするコメントにも聞こえる。どの意味合いで受けとめても楽しめるラスト・ナレーションです。そして、この信之の新たな船出は、幸村としての生を終えた信繁が、信之の心の中に到着したことで始まった、という場面になっていますよね。兄弟の新たな旅立ちを思わせるエンディングで、とても気に入っています」

profile

吉川邦夫 Yoshikawa Kunio

1962年生まれ。NHKプロデューサー。NHK でドラマの演出やプロデュースに携わり、大河ドラマ『炎立つ』『毛利元就』『北条時宗』『新選組!』などを担当、10〜12年、NHK放送文化研究所メディア研究部主任研究員を経て、制作局に戻り、近年のドラマに千葉発地域ドラマ『菜の花ラインに乗りかえて』(演出)、人形劇『シャーロックホームズ』(制作統括、演出)、大河ドラマ『真田丸』(制作統括、演出)など。

趣味はバンド演奏。ビートルズから学んだのは「大勢を楽しませることと新しい挑戦は両立する」

画像

NHK 大河ドラマ「真田丸」

作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ 午後8時 BSプレミアム 午後6時

12月18日放送 第50話(最終回) 演出:木村隆文

総集編は12月30日(金)に放送

12:15~13:00 総集編(45分)

13:00~13:05 ニュース

13:05~14:00 総集編(55分)

14:00~14:58 総集編(58分)

14:58~15:00 プレマップ

15:00~15:05 ニュース

15:05~16:33 総集編(88分)

「時間の区切り方がバラバラで、編集たいへんでした(笑)」と吉川

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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