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アベラルド・フェルナンデス(スポルティング・デ・ヒホン監督)、インタビュー全文公開

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
このインタビューは3月9日に行われた。写真提供 JSPORTS Foot!

3月8日と9日、JSPORTSのサッカー番組『Foot!』の取材で、リーガエスパニョーラで奮闘中のデポルティーボ・デ・ラ・コルーニャのビクトル・サンチェス・デル・アモ監督、スポルティング・デ・ヒホンのアベラルド・フェルナンデス監督のインタビューを行った。いずれも90年代にスペインサッカーを見ていた者には懐かしい名前だ。

インタビューの一部は3月25日の放送で流されたが、『Foot!』のご厚意でここにインタビュー全文を公表したい。第2弾は、選手時代にバルセロナでクライフの教えを受けた名選手アベラルドに語ってもらおう。彼は、ルイス・エンリケ、グアルディオラの友人でもある。

「ルイスがバルサで成功しているのはうれしい」

――“上”(スタンド)から見る試合はどうでしたか?

「退席処分でベンチ入りできなかったことを指しているのかい(笑)?」

――そうです。

「最悪だよ。ベンチに居ても選手は私の指示にあまり耳を貸さないものだけど、それでも何かは伝えられる。上からだとそれができないから、苦しみは大きい。ベンチにいても苦しいけど、上だともっと酷いね」

――まだ処分は1試合残っていますね。

「そう。退席処分になったのは監督キャリアで初めてだから奇妙な感じだよ。まああと1試合の我慢だ」

――7試合未勝利という現状はどう見ていますか?

「まあ、この状況に陥る前は5試合負けなしだったからね。シーズン開幕前から我われの挑戦は困難なものになることは覚悟していた。給料未払いに対する処分で一昨季と今季の選手獲得が禁止されていて、昨夏は23歳以下の選手のレンタルしか認められなかった。ハリロビッチやサナブリアはそうやって加入した。アレックス(ハリロビッチ)は19歳でトニー(サナブリア)は20歳だ。こういうハンディがあったから苦しむのはわかっていたよ。ネガティブな結果が続く時もあるし、ポジティブな結果が続く時もある。大事なのはたとえ最終試合になっても我われの目標、1部残留を達成することだ」

――スポルティングは若いチームです。

「14、15人が1部リーグでプレーするというのは初めてという経験に乏しいチームだ。若い彼らにとって戦い続けるのは簡単なことではない。でも、残り10試合で目標まで12ポイント、最後まで戦い続けるよ。選手には信頼と楽観的な見方を伝えるように心がけている。希望を失わないようにね」

――あなたたちだけでなくエイバルやデポルティーボなど、前半戦好調だったチームは軒並み苦戦しています。

「リーガは長いから良い時も悪い時もある。スポルティングやエイバル、デポルティーボ、ヘタフェのようなチームが苦しむのは普通のことだ。リーガには大きな格差がある。バルセロナ、レアル・マドリー、アトレティコ・マドリー、ビジャレアル、セビージャのようなビッグクラブが頭一つ抜けている。格差の原因は不公平な放映権料の分配方法にある。例えばプレミアリーグはもっと格差が小さく、レスターがマンチェスター・シティと首位を争うなんてことが起きている。放映権料の大きいクラブのように選手を買えない我われが、苦しいのは当たり前だ」

――選手時代あなたのチームメイトだったルイス・エンリケは、あなたが今指摘した格差という状況下で、違うタイプのチームを率いています。

「『違うタイプ』ではなくて、より良いチームだよ(笑)。別世界の話だ」

――そんな彼をうらやましいと思いますか?

「そんなことはまったくない。健全な羨望というのはあってもね。友だちであるルイスがバルサで成功しているのはうれしいよ。私はスポルティングの次にバルサを愛している。幸運にも8シーズンあそこでプレーできたのだから。彼はバルサをさらに良くするという素晴らしい難行を成し遂げた。今季も昨季に続き3冠を獲得するかもしれない。そうなれば前人未到の歴史的な偉業だよ」

――チームメイトと言えば、グアルディオラもそうです。彼もまた強大なクラブで……。

「そうだ。幸せなことに2人ともチームメイトだった。2人ともおそらく今日、世界有数の監督だ。獲得したタイトルだけでなく、誰もが魅了されるようなバルセロナを作り上げた点が素晴らしい。コピーすべき模範となるプレースタイルだと思う」

――質素なクラブにとってもそうですか?

「スポルティングのことかい? いや、我われはバルサのようにはプレーできない。選手のタイプが違う。バルサのようにプレーするには、今彼らが持っているような一連のスペクタクルな選手が必要だ。メッシ、ネイマール、ルイス・スアレス、イニエスタ、ピケ……。かつてのシャビ、プジョール……。一時代を築いた選手たちだ。数年後にはもしかすると今のレベルを保つことができなくなるかもしれない」

「レアル・マドリーを見るのは大好きだ」

――あなたはクライフ、ファン・ハール、ボビー・ロブソンらの監督下でプレーしたわけですが、誰に最も影響を受けたのでしょう?

「彼らだけでなく、スポルティングでもスペイン代表でも名監督に巡り合えた。彼らの良い点に学んで悪い点には学ばないということだ。幸運にも悪い点という少なかった。ヨハン・クライフにしてもルイス・ファン・ハールにしても故ボビー・ロブソンにしてもファンタスティックな監督だったから、私は大変な幸せ者だよ」

――最も影響を受けたのは?

「難しいけど、ルイス・ファン・ハールとクライフの2人からは、オランダの攻撃サッカー、ポゼッション重視、戦術面に力を入れる点、彼らの強いパーソナリティを学び、他の監督からは選手との付き合い方を学んだ。2人ともダイレクトに選手と対話するタイプだった。スポルティングではガルシア・クエルボ、アウシリア・コカーノの両監督からカンテラ(下部組織)を大切にすることを学んだ。私もカンテラを重視するタイプだ」

――バルセロナのフィロソフィーというのが、あなたのサッカー観のベースにあるのでしょうか?

「バルサ出身だから良く聞かれるよ。でも、私はいろんなスタイルが好きなんだ。レアル・マドリーを見るのは大好きだよ。攻守の切り替えの速さという点では世界一で、必殺のカウンターを持っている。アトレティコ・マドリーにも憧れている。彼らは最高のインテンシティで戦術的にパーフェクトに近いプレーをする。セビージャ、バレンシア、バイエルンもユベントスも大好きだ。

思うに、すべての監督は美しいプレーを目指している。だけど、サッカーで重視されるのは結果だ。それを不公平と呼んでいいのかわからないけど。監督の評価はプレーの良し悪しではなく、目標を達成したか、つまり結果で決まる。私は個人的にはそれは正しくないと思う。イングランドではファーガソンやベンゲルのようにたとえタイトルを獲得しなくても、フィロソフィーに共感するという理由で長く監督を続けられる。一方、スペインは監督に対して忍耐力が無さ過ぎる」

――あなたはここヒホンが生まれ故郷なわけですが、その点は監督する際にはメリットですか?

「どうかな。勝利の喜びは格別だけど負けると余計に腹が立つ(笑)。私はヒホン生まれでスポルティングのファンでソシオ(クラブ会員)だ。監督である前に熱いスポルティンギスタ(スポルティングファン)なんだ。監督として仕事に関心を抱けるという点ではメリットだが、私のチームが負けると胸が痛い。とはいえ、苦痛とパッションに包まれ、“私の家”で指揮を執れるなんて夢のようだから、やっぱりメリットだね」

――それだけ故郷を愛するあなたですが、スペイン内でもあるいは海外でもオファーが来たらどこへでも行きますか?

「今の私の目標は、スポルティングを成長させることだ。今季の残留を達成し、昔のスポルティング、UEFAカップに参戦していた時代のチームに戻したい。不可能なことではない。1部リーグに定着させ、欧州カップ戦の出場権を狙う」

――監督として最高の思い出は1部昇格ですか?

「疑いなくそうだ。誰も期待していなかったと思う。チームの目標は2部残留だったからね。しかも42試合でわずか2敗、開幕から20試合無敗なんて信じられないシーズンを過ごせた。忘れられない経験だ」

――では、監督として最悪の思い出というのは?

「今の状況が最悪と言えなくもない。だけど監督としての2シーズン、良いチームに恵まれ、絶望するような挫折は経験していない」

――選手として最高の思い出は?

「選手としてはそれぞれの時代ごとに違う。最初の喜びはスポルティングでトップデビューできたこと、その次は1992年のオリンピックで金メダルを獲ったこと、そしてバルサでプレーできたこと、さらにバルサでリーグとカップ戦で優勝できたこと、最後にスペイン代表でW杯とEUROに出場できたことというふうに。でも、喜びのスタートはスポルティングでのデビューだった。3、4歳の物心がついた頃からファンで、父親に手を引かれてモリノンスタジアムに通っていた。ファンとしてスポルティングの黄金時代を経験し、リーグ2位になった姿も目撃した」

「ファンと交流しスポルティングの精神を伝えたい」

――この間ルイス・エンリケは「無敗記録が途切れるとしたらヒホンで負けたい」と言っていました。

「でも記録は続いた(笑)。ルイスもスポルティングファンだからね。ヒホン生まれでスポルティングでもチームメイトだった。だからそう言ってくれたんだろうけど。難しい試合だった」

――選手時代、仲が最も良かったのはルイス・エンリケですか?

「いろんなところで良い友だちに恵まれたけど、サッカー界では彼と最も仲が良い」

――グアルディオラとはどうですか?

「バルセロナ時代、最も良い関係だった選手の一人だ」

――ルイス・エンリケ、グアルディオラもあなたもみんな監督なわけですが、シーズン中に連絡を取ったりするのですか?

「普通にしているよ。ただ、私が彼らを祝福する方が、彼らが私を祝福することよりも多いな(笑)。バイエルンやバルサなんだからそりゃ勝てるよな(笑)。電話をしたりメッセージを交換したりしている」

――マンチェスター・ユナイテッドで苦しんでいるファン・ハールに、声を掛けるとしたら何と言いますか?

「アヤックスで欧州王者になるなど、すべてを勝ち取った監督に私の言えることなんてしれているよ。バルセロナでは私たちとリーグ優勝しUEFAスーパーカップとコパ・デルレイも勝った。バイエルンではインテルに敗れたがチャンピオンズリーグ決勝に進んだ。代表監督にもなった……。唯一できることは、最大の幸運を祈ることだけ。私にとって思い出深い重要な監督だった」

――いつかバルセロナで指揮してみたいですか?

「ビッグクラブで指揮することを夢見ていない監督なんていないよ。とはいえ、私のプロとしての第一歩は昨シーズンで、今季が二歩目。学ぶことがたくさん残っているし、向上すべき点がいくつもある。まだそんなことを考えるのは早いよ。当面の目標はスポルティングを残留させ、できるだけ長くこのクラブに居られることだ」

――あなたはレアル・マドリーも好きだから、そっちからもオファーが来るかもしれませんよね?

「もちろんだけど、そりゃちょっと難しいんじゃないか(笑)」

――バルセロナにいた過去があるからですか?

「そうじゃなくてバルサと同じだよ。私よりも相応しい監督が何人もいる。私はまだスポルティングで勉強し始めたばかりなのだから。もちろんマドリー、バルサ、マンチェスター、ユベントスのような世界最高のチームを率いたいというのは、すべての監督の夢だけど」

――地元の人たちからの愛を感じますか?

「たくさん感じる。ファンは、チームが最高の結果に向けて努力していることを理解してくれている。結果が出ても出なくてもファンは我われとともにある」

――このクラブはファンとの距離が近いですよね。練習も公開ですぐ近くで見ることができる。そんなクラブはどんどん少なくなっています。

「ファンと交流しスポルティングの精神を伝えたいんだ。もちろん練習未公開の日もあるけれど、メディアとの関係も含めて選手にも家族的な雰囲気の中で過ごしてほしいと思っている」

――今日は長い間ありがとうございました。

「どういたしまして。楽しかったよ」

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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