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『台湾での合同トライアウト。戦力外選手注目?!』

木村公一スポーツライター・作家
6月に開催された新人対象のトライアウト風景【提供=中華職棒大連盟CPBL】

シーズン順位が決まったこの秋の時期は、選手にとっても喜びと無念さが交錯する。ポストシーズンに参加できる者、チームから戦力外を通告を受ける者。後者でもこの機に引退を決める者もいれば、現役続行を望み、合同トライアウトへの参加準備する者とその道は多岐に分かれていく。今年の合同トライアウトは、11月に甲子園で行われる。

他方、今年は初めて台湾でも合同トライアウトが開催されることになった。中国語では『戦力外測試會』と称する。主催するのは中華職業大連盟(以下、CPBL)。台湾のプロ野球リーグだ。興味深いのは、対象を台湾人のみならず、海外の外国人選手にまで広げていることだ。

ホームページでは日本語での公募もこのように。
ホームページでは日本語での公募もこのように。

1990年に発足後、台湾のプロ野球では実に多くの外国人選手がプレーしている。かつては多くの日本人選手も在籍し、主力として貢献していた時代もあった。ただ多くは代理人を介したり、球団単位での口コミによるテストを経ての契約、入団がほとんど。そこで今回、“公募”でトライアウトを行うことになったのだ。

CPBLの関係者によると「外国人選手まで広げたのは、代理人に頼る契約だけでなくチームとして多くの選手を見て採用のキッカケにしたかったこと。やはり公募なら、より多くの参加が期待出来ますからね」。無論、CPBL自体の情報発信、PRの意味もある。

CPBLでは6月に、新人ドラフト会議前にもトライアウトを開催している。プロチームが指名対象外の選手でも、自己アピールする場を提供しているのだ。実際、同トライアウトを経て指名にこぎ着けた選手もいる。いわばその例にならい、海外も含め埋もれた戦力を再発掘しようという試みなのだ。

日本人選手への期待 だがシビアな現実

なかでも彼らが期待しているのは、日本人選手だ。その表れが、オフィシャルサイトのコーナーで、中国語、英語とともに日本語でもトライアウトの要項を掲載していること。同関係者も「日本人選手は親近感もあるし、レベルの高さもある。多くの参加を期待しているんです」と言う。おそらくはこの募集を見て、例年になく日本人選手が台湾でのプレーに触発されるだろうか。

ただし、契約は決して甘いものではない。

CPBLでの外国人選手は、現在、支配下登録が3名で、出場も3名(野手3名の同時出場は認められていない)。レベルは一概には言えないが、近年ではメジャーでの実績もある選手も少なくない。また現在、同リーグは4チーム。外国人選手も12名という勘定になる。ハードルは想像以上に高いと思った方がいい。

契約もシビアだ。1年契約する選手はほとんどなく、多くは3ヶ月程度の短期となっている。その間に成績を出せば延長されるが、それでも2ヶ月程度の延長で、8月末に再び見直して更新するかどうかが決まる。報酬も、だから年俸制ではなく「月給」だ。活躍している高額選手になれば月250万ドル(約250万円)といった選手もいるが、主流は150万ドル(150万円)程度。それでも月150万円ならいいと思えるかも知れないが、故障しても補償はなく、少しでも結果が出なくなれば球団もすぐに新しい外国人選手のリサーチを始める。実際、来台してプレーしたが振るわず、一週間でクビ、などというケースも珍しくない。

2008年から2シーズン、台湾の兄弟エレファンツでプレーしていた小林亮寛元投手に意見を聞いた。

「まず、日本人が台湾でプレーするということは“外国人選手”として活躍を求められているということを忘れてはいけない」

それは、台湾の選手と同じレベルでは、たとえ契約出来たとしても、即、クビとなるリスクと背中合わせということを意味する。小林氏は続ける。

「言語も習慣も違う。食事に関しても慣れない味や、求める栄養素が簡単に摂取できないなんてこともある。計算できないことが殆どですね。考えてみて下さい。日本で外国人助っ人としてプレーするレベルの選手達と外国人選手枠を争うことになる訳ですから、決して簡単なことではありません」

兄弟エレファンツで活躍した時の同氏【提供=小林亮寛氏】
兄弟エレファンツで活躍した時の同氏【提供=小林亮寛氏】

グランドも日本のように整備が優れているとは言い難い。内外野天然芝だが、イレギュラーも多い。そんな中で、外国人投手は結果を求められる。トレーナーもたくさんいるわけではない。だから身体のケアも完全に自己管理。

宿舎は球団が用意するが、寮ではなくアパートのため、食事はすべて自分で賄わなければならない。試合前は球場で簡単なバイキング形式の食事も出るが、チームによっては台湾式の弁当のみということもある。

移動はすべてバス。台北から南部の台南、高雄までは約3時間半から4時間程度。ナイター終了後、深夜の高速を走ることは日常だ。

よく報道などで解雇を通告された日本のプロ野球選手が「台湾でも韓国でもプレー出来たら」などというコメントを目にするが、「でも、しか」で通用するほど、彼の地でのプレーと暮らしは甘くはないのだ。

なにより今回の開催はトライアウト。たとえ合格したとしても、見えないところでは球団も代理人と別の実績のある選手との契約交渉をしていると考えるべきだ。

とはいえ、ネガティブな要素ばかりではない。台湾の人たちは概して暖かく、球場にやってくるファンの声援の熱さは日本にも劣らない。そうそう、小籠包もマンゴーも美味い(笑)。

野球を極めようとするのもまた人生

小林氏もこう言う。

「トライアウトは、過去の実績も、知名度も関係なく挑戦したいという気持ちを行動に移せる機会です。そうしたトライアウトが、外国である台湾で始まることは画期的だと思います。“台湾プロ野球?行ってやってもいいぜ。いくらくれるの?”などと驕った考えを持つ選手には響かないでしょう。でも“まだ野球を続けたい。台湾でプレーがしたい!”と考える選手にとってはこの上ないチャンスだと思う」

そしてこう結ぶ。

「一度きりしかない人生の中で野球を極めようとする志がまだあるのならば、ここから先の未来に挑戦して欲しいと心から思います」

そんな世界でやりがいを探すことも、ひとつの人生。期日は12月20日。詳細は、連盟ホームページを参照戴きたい。

http://www.cpbl.com.tw/2016_Tryouts/

注釈・このコラムは合同トライアウト開催を趣とした記事であり、同トライアウトへの仲介、ならびに責任を負うものではありません。

スポーツライター・作家

獨協大学卒業後、フリーのスポーツライターに。以後、新聞、雑誌に野球企画を中心に寄稿する一方、漫画原作などもてがける。韓国、台湾などのプロ野球もフォローし、WBCなどの国際大会ではスポーツ専門チャンネルでコメンテイターも。でもここでは国内野球はもちろん、他ジャンルのスポーツも記していければと思っています。

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