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北朝鮮が移動式ICBM発射準備 金正恩の「出口戦略」とは

木村正人在英国際ジャーナリスト

米情報機関が「北は小型核弾頭を開発」

アメリカ国防総省傘下の国防情報局(DIA)が「中程度の確信」を持って「北朝鮮は弾道ミサイルに搭載できる小型の核弾頭を開発した。ただし、その精度は低いとみられる」と評価した。11日の下院軍事委員会の公聴会で、共和党議員が明らかにした。

「中程度の確信(moderate confidence)」というのは3段階のうち真ん中で、確信に至るまでには、もう少し証明が必要という意味だ。アメリカの情報機関が、北朝鮮が弾道ミサイルに搭載できる核弾頭の開発に成功したと評価するのは初めてのことだ。

北朝鮮が3度目の核実験に成功し、挑発・威嚇・恫喝をエスカレートさせる中、北朝鮮の核・ミサイル能力が実際どのレベルに達しているかを、アメリカのオバマ政権がDIA評価を通じて示そうとしたとみることもできる。

新型ミサイルKN-8

アメリカのクラッパー国家情報長官は11日、下院情報特別委の公聴会で、北朝鮮がグアムに届く中距離弾道ミサイル「ムスダン」(最大射程4000キロ)のほか、移動式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「KN-8」の発射準備を始めているとの見方も示している。

KN-8は2012年4月に行われた北朝鮮の軍事パレードで公開された全長18~20メートルの新型ミサイルだ。「ムスダン」より大きく、長距離弾道ミサイル「テポドン2」より小さい。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、KN-8はロシアの潜水艦搭載ミサイルをもとにデザインされ、ロシア企業が北朝鮮に供与したとされる。これまで、KN-8については模造との見方もあり、北朝鮮は実戦で使えることを証明しようとしているとみられる。

ムスダンもKN-8もまだ発射実験を行なっていない。

クラッパー長官は「北朝鮮はしかし、核ミサイルに必要な能力を完全に証明したわけではない」と指摘した。オバマには、まだ外交努力の時間が残されているという意味だ。現にオバマは「好戦的な手法をやめて緊張を和らげるべき時だ」と北朝鮮に自制を求めた。

忍耐戦略の破たん

オバマは、北朝鮮が「検証できて、逆戻りできない非核化」に応じない限り、交渉テーブルにつかない「忍耐戦略」を続けてきた。実際は、韓国の李明博前大統領に対北朝鮮政策を丸投げしたのと同じで、李明博は北朝鮮との対話には応じなかった。

李明博の元側近は「オバマは他のことで忙しかった」と打ち明けている。

「オバマの忍耐戦略は失敗した」と批判しているのは、米コロンビア大学のジョエル・ウィット上級調査研究員だ。聯合ニュースに対して、ウィット氏は「オバマ政権は落ちた穴から逃れようとして、穴をどんどん深く掘ってしまっている」と指摘している。

北朝鮮が核・ミサイル実験を行うたび、国連安保理の制裁決議が行われてきた。しかし、裏では中国が北朝鮮の体制が崩壊しないように食糧やエネルギーを補給しているので、北朝鮮は着実に核・ミサイル能力を向上させてきた。

中国の協力なしに、オバマの忍耐戦略は成り立たない。ウィット氏はアメリカの外交官として1994年の米朝合意にかかわり、その後、何度も北朝鮮に煮え湯を飲まされてきただけに、その北朝鮮分析には説得力がある。

2月6日、ロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)で講演した後、筆者の質問に応え、「北朝鮮はすでに中距離弾道ミサイル・ノドン(射程1300キロ)に搭載できる核弾頭を保有している」とDIAの評価を2カ月余、先取りしていた。

講演の中で「北朝鮮の核・ミサイル問題は2期目を迎えたオバマ政権の最初の危機になる恐れがある」とまで予測していた。4月に入ってウィット氏はアメリカの国際ニュースラジオ局PRI’s The Worldで冷徹な分析を示している。

金正恩の「出口戦略」

「4月15日は金日成の誕生日だ。おそらくミサイルを発射するだろう。米韓が軍事演習を続けている間は、北朝鮮は緊張をエスカレートさせる。4月末に米韓が軍事演習を終了したら、金正恩は祖国防衛に勝利したと宣言して、いったん緊張を緩和させるだろう」

「今は誰かを攻撃することはないと思う。しかし、怖いのはその後だ。オバマが忍耐戦略を続けて北朝鮮の求めに応じないようなら、北朝鮮は2010年の46人が死亡した哨戒艇沈没事件や延坪島砲撃事件のような軍事行動を繰り返す恐れがある」

緊張と緩和を繰り返すのが父・金正日のパターンだ。

ウィット氏は昨年12月、聯合ニュースに「北朝鮮が求めているのは注意を引くことや交渉することではない。アメリカと韓国が北朝鮮との取引に応じることだ。北朝鮮は上手を取っていると思っているので、最も強い立場を求めるだろう」と解説している。

アジア・太平洋を重視するオバマ政権には北朝鮮の専門家が不足しているとウィット氏は指摘している。

2012年7月、ウィット氏はシンガポールで北朝鮮の外務省幹部と非公式に接触。この際、北朝鮮は非核化を定めた2005年の6カ国協議合意を破棄する可能性も示唆した。

北朝鮮は今月2日、2007年の6カ国協議の合意で停止していた寧辺の黒鉛減速炉を再稼動させると宣言した。非核化の合意はすでに破棄されたのも同然だ。

アメリカのケリー国務長官は12日、韓国を訪問し、朴槿恵大統領と会談した。朴槿恵は李明博と異なり、核実験のほとぼりが冷めるのを待って北朝鮮との「対話」に応じる可能性があるとウィット氏は分析するのだが。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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