激安ファッションの犠牲者 バングラデシュの悲劇とユニクロ「年収100万円」

150円の激安Tシャツ

1ポンド(150円)の激安Tシャツをつくるためバングラデシュの縫製工場崩落事故で400人以上が亡くなった。イギリスではこの工場に製品を発注していた激安ブランド「プライマーク(Primark)」に批判が集まっている。

プライマークがどれだけ安いかというと、ジーンズ5ポンド(750円)、スーツ25ポンド(3750円)、ハンドバッグ8ポンド(1200円)。ちなみに、ユニクロはドライカラーTシャツ390円、ステテコ・リラコ690円、コットンブランタンクトップが1290円。

プライマークとユニクロの2社を比較しただけでも衣料ブランドの激安競争がうかがえる。欧米衣料ブランドの主な縫製発注先が中国と、今回、工場崩落事故があったバングラデシュなのだ。ユニクロを展開するファーストリテイリングも同国に進出している。

崩落現場で出産

現地からの報道によると、バングラデシュの首都ダッカ近郊で先月24日、8階建て作業ビルがわずか数分で崩落。2500人は助かったが、400人以上が死亡、行方不明者は多数にのぼっている。ビルには欧州ブランド衣料の縫製工場が入居し、約3000人が働いていた。

事故前日の23日、作業ビルに亀裂が走っているのが見つかり、地元警察が工場の閉鎖を指示していた。事故当日、いったん避難していた従業員が工場経営者に仕事をするよう命じられて戻ったところ、ビルが崩落したという。

地元警察は、事故後、インドに逃げようとした工場経営者を逮捕して違法建築、業務上過失致死傷、強制労働容疑で取り調べている。

現場では、行方不明者の安否を気遣う家族が集まって救出作業を見守っている。ビルの瓦礫の下敷きになっている間に出産し、母子ともに無事に救出されたケースもあった。鉄骨や機械に挟まれて身動きできなくなり、手足を切断して救出された従業員も目立つ。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、バングラデシュの製造業一般ワーカーの年間賃金実質負担額は1438ドル(14万円)、中国の5765ドル(56万円)、インドの4495ドル(43万円)に比べてもはるかに安い。

世界第2の縫製品輸出大国バングラデシュでは、労働・安全環境の劣悪さがたびたび問題になってきた。2005年にも縫製工場が崩壊し、70人以上が死亡。昨年は工場火災で111人が死亡している。

バングラデシュの縫製産業は130億~200億ドル規模といわれる。輸出全体の80%を占め、400万人の雇用を生み出している。しかし、半分以上の職場は危険な状態にさらされているという。

抗議は日系企業にも

今回の崩落事故をきっかけに、工場経営者や劣悪な労働・安全環境を放置しているバングラデシュ政府に対する抗議デモが起きている。日経新聞によると、ダッカ近郊の日系企業の縫製工場では先月25日、投石で大量のガラスが割られ、別の日系企業の車も襲われて窓ガラスが割られる被害が発生している。

バングラデシュの縫製工場で働いているのは9割以上が女性だ。『あゝ野麦峠』で描かれた女工哀史ならぬバングラデシュ女工残酷物語は、激安ファッションのグローバル競争が生んだ悲劇である。

グローバル化がもたらす途上国の貧困問題に取り組む国際NGO(非政府組織)「ウォー・オン・ウォント」は2006年と08年の2回にわたって、バングラデシュにあるプライマークと激安スーパー「テスコ」「アスダ」の縫製工場を調査している。

着捨てファッションの犠牲者

報告書のタイトルはそのものズバリ「ファッションの犠牲者」だ。

08年時点では、バングラデシュは週48時間労働で残業は12時間までとされており、最高で週60時間労働しか許されていない。しかし実際は、納品の期限を守るため週最大50時間残業や午前3時までの就労を強いられることも珍しくない。

いくつかの工場では労働基準監督署の調査をごまかすため、午後7時以降は裏のタイムシートを使っていた。

プライマークなど3社の最低賃金は月13.97ポンド(2100円)。時給約10円である。月24.37ポンドもらっている従業員もいたが、最低限の暮らしを維持する生活賃金は月44・82ポンドだ。3社から支給される賃金ではとても生計を立てられない。幼子を親元に預けている女性もいた。

職場では言葉での嫌がらせやいじめ、体罰が横行していた。労働者の権利を守る労働組合の組織率はわずか3.5%。出産休暇は認められず、労災もまともに支払われていなかった。

報告書は「ファッションショーで紹介されて6週間後には世界市場に出荷する。消費者は1~2回着たら、次の新作を求める。着ては捨てる激安ファッションが普及している」と激安競争の背景を分析している。

イギリスでは、途上国の労働者から搾取する低価格ブランドを買わないようにしようという声も起きている。

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長はノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が創業したバングラデシュのグラミン銀行と協力し、貧困や衛生、教育などの社会的課題の解決を目指すソーシャルビジネスを立ち上げた。

良い服をバングラデシュでつくり、貧困層の人たちが購入可能な価格で販売して利益をソーシャルビジネスに再投資する試みだ。

資本主義の陰と光

資本主義には、マルクスが指摘したように資本家が賃金コストを抑え労働者から「搾取」する陰と、アメリカの自動車メーカー、フォードが従業員にも車が買えるように賃上げをしたように富を「再配分」する光の側面がある。

「世界同一賃金」を導入する柳井氏は朝日新聞のインタビューに次のように答えて、論争を呼んだ。

「それはグローバル化の問題だ。将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」

日本人の年収が100万円に下がってバングラデシュで苦しむ女工たちの年収が100万円に上がるのなら、資本主義はグローバルに見て富を「再配分」していると評価することもできる。しかし今のところは、バングラデシュ崩落事故が浮き彫りにするように「搾取」をグローバルに広げているのが実態なのだ。

日本で年収100万円の夫婦が共働きで家に住んで通勤して子供を育てていくことできるのだろうか。アベノミクスで1ドル=200円の円安にしてもらわないと、年収100万円の悪夢を回避してワーキングプアのレベルとされる年収200万円も維持できなくなる。

最低賃金が生活保護を下回る例が報告される中、安倍政権の産業競争力会議で、解雇維持型から労働移動型への解雇ルールの変更が提案された。

終身雇用を前提に企業に医療保険も社会保障もぶら下げるモデルが日本では定着している。解雇ルールを変更する前にセーフティーネットを整備して、再就職がしやすくなるように労働市場を改革する必要があるのではないか。

日本国憲法第25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定められている。

日本国憲法に「生存権」が規定されているように、労働者が暮らしていける「生活賃金」を保障する社会的責務が企業にはある。1企業の利益と経営者の所得を最大化するために前途有望な若者の精神を破壊する権利が日本で認められているとは僕には到底、思えない。

(おわり)