【独自】北朝鮮船の未申告兵器は地対空ミサイルの迎撃レーダー 技術輸出で外貨稼ぎか
中米パナマのマルティネリ大統領は15日、キューバを出港してパナマ運河を通過しようとした北朝鮮籍船から未申告の「軍事物資」が見つかったとして、Twitterで写真を公表した。
国際軍事情報会社IHSのアジア・太平洋アナリスト、ニール・アシュダウン氏が16日、筆者の電話インタビューに応じ、写真分析の結果、「RSN-75」「SNR-75」(ファンソング)と呼ばれる地対空ミサイル・システム用迎撃レーダーと断定した。
北大西洋条約機構(NATO)のコードネームでは「SA-2」と呼ばれる旧ソ連の高高度防空ミサイル・システムの一部をなすファンソングはミサイルを誘導する迎撃レーダー。最大3~6機の戦闘機を同時追尾することが可能で、そのうち1機にビームを照射、発射したミサイルがビームに沿って飛行して敵機を撃墜する仕組みだ。
北朝鮮籍船から他に何が発見されているのかわからないため、アシュダウン氏は「迎撃レーダーの部分だけでは、地対空ミサイル・システムと緊密に関連しているとしても国連安全保障理事会の制裁決議に違反しているかどうかは断言できない」と慎重な見方を示した。
IHSで地理的情報システム(GIS)を分析したところ、北朝鮮籍船は5月31日~6月1日、太平洋側からパナマ運河を通過してキューバ・ハバナを目指していた。7月11日にパナマのマンサニージョ港(太平洋側)に現れた。フランス通信(AFP)によると、翌12日にパナマ当局の査察を受けた。
アシュダウン氏は「北朝鮮籍船は北朝鮮に戻る途中だったとみられ、(キューバで)積荷を交換したとみられる」と分析。船長が自殺し、乗組員約35人が抵抗したことから、「密輸だったことを強く疑わせている」と結論づけた。
アシュダウン氏が指摘するシナリオは2つ。
1つ目の見方が、キューバが地対空ミサイル・システムの迎撃レーダー「ファンソング」をアップグレイドするために北朝鮮に輸送する途中だった。ファンソングを覆い隠していた砂糖は実はカムフラージュではなくアップグレイドの謝礼として船に積まれていた。
2つ目のシナリオが、北朝鮮の金正恩第1書記が防空システムを強化するためにキューバから地対空ミサイル・システムの迎撃レーダーを密輸しようとしていたというものだ。金正恩第1書記にとって体制維持のためには、米国や韓国の空爆を撃退する防空システムの強化は焦眉の課題。北朝鮮の防空システムは世界的に見ても非常に稠密に構築されているが、時代遅れで防空の高度が低い。このため、旧ソ連の高高度防空ミサイル・システムSA-2を導入しようとした。
アシュダウン氏は2つのシナリオを挙げ、「これ以上、踏み込むのは時期尚早だ」と述べた。
一方、北朝鮮の核・ミサイル問題に詳しい英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック氏は「北朝鮮が武器を輸出していると聞くことはあっても、武器を輸入しているとは聞かない。武器を購入するための外貨が北朝鮮にはないからだ。1つ目のシナリオの可能性が高いだろう」と分析する。
北朝鮮は国連安全保障理事会の制裁決議で核・ミサイル関連物資・技術の取引が禁止されており、各国は北朝鮮の貨物船に対する検査を義務づけられている。マルティネリ大統領は「未申告の兵器を積んでパナマ運河を通過することは許されていない」と強調した。
キューバは米州で唯一の一党支配共産主義国家で、北朝鮮の数少ない同盟国の1つ。北朝鮮の朝鮮中央放送などによると、キューバを訪問した北朝鮮の金格植・朝鮮人民軍総参謀長を団長とする軍事代表団は今月1日、キューバ元首のラウル・カストロ国家評議会議長と会談。金格植氏は6月30日にはシントラ国防相らと会談し、意見を交換していた。
(おわり)