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「シリア攻撃を検討」米英首脳

木村正人在英国際ジャーナリスト

25日付の英日曜紙サンデー・タイムズは、24日夜、オバマ米大統領とキャメロン英首相が40分間にわたって電話会談し、化学兵器を使用した疑いが濃厚なシリアのアサド政権に対して軍事行動を含め「真剣な対応」を協議したと報じた。

まだ、シリアに軍事介入するという決断は行われていないものの、アサド政権が保有する化学兵器の貯蔵庫などを巡航ミサイル「トマホーク」で攻撃、破壊する可能性があるという。

英米両国はシリア国内の攻撃目標をリストアップしているという。26日にヨルダンでホートン英国防参謀長、オースティン米中央軍(中東などを担当)司令官、フランスの軍首脳が対応を協議する。

米軍はすでに、トマホークを搭載した駆逐艦マハンなど4隻に対し、地中海にとどまるよう指示を出しているという。

内戦中のシリアの首都ダマスカス近郊で21日、アサド政権が化学兵器を使用したと反政府勢力が主張。国際緊急医療援助団体「国境なき医師団」は24日、神経毒性物質が原因とみられる症状で約3600人が手当てを受け、うち355人が死亡したと発表した。

24日には、国連で軍縮を担当するケーン事務総長補がダマスカス入りしたものの、化学兵器が使用されたとされる現場には近づけなかった。アサド政権側が砲撃を続けているためで、英首相官邸筋はサンデー・タイムズ紙に「アサド大統領は何かを隠そうとしている」と断言した。

同紙によると、オバマ大統領とキャメロン首相は「化学兵器の使用に国際社会は真剣に対応するだろう」との認識で一致し、すべての選択肢を検討するよう担当部局に命じたという。

シリアへの軍事介入については、国連安全保障理事会で拒否権を有する常任理事国ロシアが反対している。このため、シリア攻撃に踏み切る場合は、国連の承認なしでセルビア人勢力の軍事拠点などへの空爆に踏み切ったコソボ軍事介入と同じプロセスがとられる可能性が強いという。

コソボ介入は米国が主導し、北大西洋条約機構(NATO)が支援する形がとられた。

英首相官邸筋は同紙に「これは化学兵器の使用によって数千人の犠牲者が出たというだけにとどまらない。われわれが暮らしたいと望む21世紀の未来と世界の問題なのだ」と、軍事介入の可能性を強くにじませた。

英米当局は反政府勢力への武器供与、リビア軍事介入と同じ飛行禁止区域の設定、24~48時間の空爆、安全な避難場所の設定、国連を通じた交渉などの選択肢が検討されている。

この中で、米駆逐艦や英原子力潜水艦から巡航ミサイル・トマホークで化学兵器貯蔵庫などを攻撃する可能性が一番強いとみられている。

リビア軍事介入では、オバマ大統領は後方支援に徹し、英国やフランスが攻撃を主導した。英下院議員の3分の2がシリアへのいかなる軍事介入にも反対しており、今後の展開は予断を許さない状況になってきた。(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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