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化学兵器禁止機関にノーベル平和賞

木村正人在英国際ジャーナリスト

ノルウェーのノーベル賞委員会は11日、2013年のノーベル平和賞を、1997年4月に発効した化学兵器禁止条約に基づき、化学兵器の全面禁止及び不拡散のための活動を行ってきた化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)に授与すると発表した。

シリアのアサド政権は軍事介入回避につながった米露合意を受け、今年9月、化学兵器禁止条約に加盟。10月1日からOPCWの先遣隊がシリア入りしている。化学兵器の廃棄は「2014年前半の完了」を目標にしており、今回の平和賞授与にはOPCWの活動を後押しする狙いが込められている。

OPCWの技術事務局は、化学兵器及び生産施設の廃棄の進捗状況をモニターしている。設立以来計、11年までに約4800回の査察を実施。職員数は総勢約480人で、12年12月現在7人の日本人が勤務している。

本命視されていたパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさん(16)が選考から外れた理由について、ノルウェーの国営放送NRKは、平和賞授与がマララさんの命をつけ狙うタリバンへの抑止になるのではなく、テロのシンボルにされる危険性が極めて大きいことがあったと指摘している。

そして、マララさんが16歳とまだ若いこと。他の候補者に比べて、活動実績がまだ十分でないことを挙げた。

ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長は11年7月のウトヤ島銃乱射事件でテロの怖さを痛感。マララさんをテロの犠牲者にしてはならないという判断も働いたとみられる。

欧米諸国の軍が14年末までにアフガニスタンから撤退、タリバンとの対話が不可欠となる中で、対立の火種となるマララさんを平和賞に選ぶことはタリバンを刺激し、今後の和平プロセスの妨げになるという見方もできる。

しかし、アフガンから撤退するからこそ、マララさんがいうように女の子も男の子と同じように教育を受けられる社会を構築することがさらに重要になってくる。平和賞の受賞はならなかったが、マララさんが生まれ故郷に帰って、同級生と机を並べられる日が来ることを願わずにはいられない。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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