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ドローン攻撃の巻き添え死479人 オバマ秘密戦争の犠牲者

木村正人在英国際ジャーナリスト
米軍の無人航空機プレデター(米国防総省HPより)

マララさんがオバマ大統領に直訴

米英軍などの無人飛行機(ドローン)によるイスラム過激派への「暗殺攻撃」で2004年以降、パキスタン、アフガニスタン、イエメンの3カ国で少なくとも民間人479人が巻き添えになって死亡していることが国連人権理事会の依頼を受けた専門家チームの調査でわかった。

パキスタンでは死者は全体で2200人にのぼり、民間人は少なくとも400人にのぼっていた。さらに200人が非戦闘員の可能性があるという。

今月11日にはノーベル平和賞の有力候補だったパキスタン人少女、マララ・ユスフザイさん(16)が米ホワイトハウスでオバマ大統領と面会した際、「ドローン攻撃がテロをあおっていることが心配だ。無実の犠牲者がこうした攻撃で殺害され、パキスタン国民の憤りを招いている」と訴えていた。

ブッシュ時代の6倍

オバマ大統領は2014年以降にアフガンからの米軍完全撤退を計画している。イラクとアフガンの2つの戦争終結を公約に掲げるオバマ大統領だが、ドローンを使った秘密戦争の規模は1期目だけで、実にブッシュ前大統領時代の6倍に激増しているのだ。

ドローンを使った作戦は1990年代末、米軍がアフガンでアルカイダの行動を追跡したのが始まりだった。2001年の米中枢同時テロ以降、ブッシュ大統領はドローンにミサイルを搭載してアルカイダ指導者を殺害するよう命じた。

ドローンは1機当たり約1050万ドル(約10億2600万円)で、有人の最新鋭ステルス戦闘機F22の14分の1。しかも、ドローンは現場上空で旋回して狙いを定めることができるので正確な攻撃が可能になるといわれてきた。

米軍の場合、ドローンの操縦は遠く離れた米国内で行われている。

実際、ドローンのミサイル攻撃は、パキスタン・タリバン指導者、米欧のイスラム教徒に過激思想をまき散らしたイエメンのアンワル・アル=アウラキ師らを次々と殺害。アフガンやパキスタン辺境部族地域のアルカイダは勢力を急速に失った。

ドローンの呪い

しかし、ドローン秘密戦争は深刻な問題点を抱えている。米ラ・サール大学のマイケル・ボイル助教授は今回の国連専門家チームより先にシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の外交雑誌「インターナショナル・アフェアーズ」でドローンの問題点について詳細に分析していた。

それによると、オバマ大統領は1期目の就位式2日後にドローンを使ったテロリスト暗殺を承認、「見える戦争」から「見えない戦争」への方針転換を鮮明にした。

米シンクタンク、ニューアメリカン・ファンデーションの独自調査では、パキスタンで2004年6月~12年10月にかけ、ドローンによるミサイル攻撃は334件にのぼった。死者は1886~3191人。1件当たりの死者は5.6~9.5人。

オバマ大統領になった09年1月以降は288件で全体の86%を占める。

調査報道を手がける英国のNPO「ビューロー・オブ・インベスティゲイティブ・ジャーナリズム」の調べでは、同じ期間にあったドローン攻撃は346件で、死者は2570~3337人。1件当りの死者は7.4~9.6人。

イエメンでは02年~12年9月にかけ、40~50件の攻撃が行われ、死者は357~1026人。ソマリアでは3~9件の攻撃で、58~170人の死者が出たとみられている。

一般市民の巻き添え死者数は公表されていないが、ニューアメリカン・ファンデーションによると、パキスタンでの巻き添え死の割合は15%。04~07年は50%以上だったが、11年には1%まで減っていた。

ビューロー・オブ・インベスティゲイティブ・ジャーナリズムの調べでは、一般市民の巻き添え死はパキスタンで18~26%。イエメンで16%前後。ソマリアで7~33.5%。パキスタンでは04年以降、176人の子供が死亡したという。

救助の輪に第2撃

アルカイダの手法をまねて、米国のドローンは第1撃で負傷した人たちを助けようと集まってきた人たちに非情な第2撃を加えている。

こうした批判に対して、一般市民の巻き添えは極めて限られており、アルカイダやテロリストの幹部をピンポイントで殺害していると米国はドローン攻撃を正当化してきた。

しかし、幹部の殺害率は死者全体のわずか2%にすぎないという指摘もある。米国は戦闘年齢に達した死者をすべて武装勢力とカウントしているため、巻き添え死を過小評価しているとも批判されている。

米世論調査大手ピュー・リサーチ・センターが12年6月に行った世論調査では、パキスタン人の74%が「米国を敵とみなす」と回答。パキスタン政府の支援を受けていたとしても、ドローン攻撃を支持できると答えたのは17%に過ぎなかった。

レオン・パネッタ前米国防長官がCIA長官時代に「米国が戦える唯一のゲーム」と述べたドローン攻撃はイスラム武装勢力の幹部を殺害する代償として、マララさんがいみじくも指摘したように米国への敵意を膨張させている。

ドローン攻撃の正当性

国連憲章51条に定められた「自衛権」に照らして、ドローン攻撃の正当性は「先制攻撃(anticipatory or pre-emptive military action)」と位置づけられている。イスラム武装勢力は米国にテロ攻撃を仕掛ける恐れがあるから、予め叩いておくという論理だ。

しかし、米議会、裁判所のチェックも受けておらず、唯一、オバマ大統領の承認だけが暗殺を正当化する法的根拠なのだ。

アフガンなどでのドローン攻撃は米軍が管理しており、軍所属の弁護士が戦時国際法に違反していないか助言している。しかし、パキスタンでのドローン攻撃はCIAが取り仕切り、管理プロセスもはっきりしない。巻き添えになってもパキスタンの人たちは補償を受けられない懸念が強く残る。

オバマ大統領は2期目を迎え、テロ対策の「プレイ・ブック」を策定しているが、ドローン攻撃についてはCIAの意向を汲んで1~2年の間、現状維持、すなわちグレーゾーンに据え置くことにした。

中国は領有権を主張している沖縄・尖閣諸島に無人機を展開させる方針なのに対し、日本政府も米国のドローンを導入する方向で調整するなど、「日中ドローン戦争」の様相を呈している。

今後、世界各国がドローンの開発と配備を進めるのは必至だ。米国がルールを明確にしないままドローン攻撃の既成事実化を進めた場合、世界は掟なき「ドローン戦争」のジャングルに突入する危険性がある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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