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Youtube席巻する韓流 「少女時代」がビデオ・オブ・ザ・イヤー

木村正人在英国際ジャーナリスト

世界で大ブレークするK-pop

日本でも人気がある韓国の女性アイドルグループ、少女時代(Girls' Generation)のシングル「I Got a boy」が3日、大手動画投稿サイト、ユーチューブの第1回音楽賞で、レディー・ガガやジャスティン・ビーバーなどのビッグネームを押しのけて、ビデオ・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

昨年、英国シングルチャートで小太り韓国人ラッパー、PSY(サイ)のシングル「Gangnam Style(江南スタイル)」が1位になったのは記憶に新しい。江南スタイルのYoutube視聴回数は実に10億ビューを突破した。

K-popは、Youtubeやソーシャルメディアを通じ、アジアから一気に世界に飛び出して大ブレークしている。韓国政府が2009年に韓国コンテンツ振興院を設立して巨額の国家予算を投入、K-popなどコンテンツ産業を強化してきたことも大きい。

Youtube音楽賞は韓国の自動車メーカー、起亜自動車がスポンサーになっている。「I Got a Boy」のYoutube視聴回数だけでも7000万回を突破しており、起亜の宣伝効果も相当なものだ。ただ、ライブ視聴は21万5000人にとどまり、時々、映像がフリーズするなど支障も出た。

磨き抜かれたコンテンツ

「I Got a boy」と「江南スタイル」の共通項は、つい体を動かしてしまいたくなるダンス、口ずさみやすいサウンドだ。

「I Got a boy」について、米音楽業界誌ビルボードは「完全に異なる5つのサウンドを組み合わせている。世界中で最も先進的なポップシングルである」と評価している。

シングルと同名のアルバム「I Got a boy」の制作には韓国の音楽プロデューサー、ユ・ヨンジンや欧米のプロデューサー、音楽家が参加した。9人の女性が未来感あふれたサウンドにハングルをのせ、少しユーモラスなダンスを一糸乱れず披露する。

アジア風味のコミックソングがYoutubeやTwitterなどのソーシャルメディアを通じて一気に欧米に拡散した。ファン層がソーシャルメディア世代だから広がり方も幾何級数的だ。音楽賞のオンライン投票で少女時代のファンが動員をかけたともいわれている。

デジタル市場を席巻せよ

PSYが日本市場を飛ばして欧米市場を目指したのに対して、少女時代は2010年に日本デビュー、日本レコード大賞新人賞に選ばれている。翌11年から本格的な欧米進出を開始した。

12年にはアルバム「The Boys」が米ビルボード・ヒートシーカーズ・アルバム・チャートで2位に踊りでた。

世界のトップ20音楽市場(筆者作成)
世界のトップ20音楽市場(筆者作成)

国際レコード産業連盟IFPIの年次報告書によると、2012年の音楽の売り上げは米国が世界一で44億8180万ドル(約4424億円)、日本は44億2200万ドル(約4365億円)で2位。

トップ20の市場を合わせた売り上げ総額は164億8060万ドル。このうちデジタルは35%を占め、57億6821万ドル(約5694億円)に達している。

「I Got a boy」もデジタルでダウンロードするフォーマット。K-popの戦略は、Youtubeやソーシャルメディアを通じて、世界のデジタル音楽市場に旋風を起こすことだろう。

韓国が世界を目指していることは、スマートフォンや液晶テレビなどサムソンの世界戦略、欧州連合(EU)や米国と自由貿易協定(FTA)を結んだ韓国政府の戦略からもうかがえる。

韓国コンテツ振興院は、K-popをはじめ、放送、ゲーム、アニメーション、キャラクター、漫画など韓国のコンテンツ産業が世界市場で勝ち抜けるよう支援してきた。韓国政府は、17億ウォンだったコンテンツ強化予算を今年3倍以上の53億ウォン(約4億9200万円)に増大させており、韓流の勢いはまだまだ続きそうだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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