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COP19 台風30号直撃のフィリピン代表が涙の断食宣言

木村正人在英国際ジャーナリスト

11日、ポーランドの首都ワルシャワで始まった国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)で、フィリピンを直撃し、死者1万人と推定される観測史上最大規模の超大型台風30号「ハイエン」について、同国政府のサニョ代表が涙を流しながら17分超の大演説を行った。

フィリピンでこの3日間、食事も口にせず、両手で遺体を集め続ける兄弟を思いながら、サニョ代表は「COP19で意義ある合意を形成できるまで、私は自発的に断食する」と宣言。会議場ではスタンディング・オベーションが1分近く鳴り響いた。

サニョ代表は日系人のように見えるが、ソーシャルメディアのFacebookやTwitterによると、マニラ出身で、日本で言えば東京大学の当たるフィリピン大学ディリマン校を卒業した秀才。2010年からフィリピン政府の気候変動委員会で勤務しており、現在は委員長。

環境運動家で哲学者、自然愛好家、平和活動家、急進的と自己紹介している。

Youtubeや英紙ガーディアンからサニョ代表の演説や主張を再現するとー。

最大瞬間風速105メートルといわれるハイエンの威力について、サニョ代表は「前例がない。想像もしていなかった」と表現。「私はフィリピン政府を代表して演説している。しかし、また、もう語ることもできなくなった数え切れない同胞、そして災害孤児たちのために語っている」と涙ぐんだ。

サニョ代表は被災した自分の家族に触れ、「メディアの報道を見て、あまりの被害のひどさに表現する言葉を失った。私の兄弟は幸いにして生き残った。この2日間、自らの両手を使って遺体を集め続けている。3日間、食事を口にしていない」と証言。

「私たちは有効な地球温暖化対策で合意できなければ、自らの悪い運命と契約を結んでしまうことになるかもしれない。私たちは歴史的な責任に直面している」

「食事を見つけて家に持って帰るために格闘しているフィリピン同胞との結束のために、私は今、地球温暖化対策が講じられることを求めて自発的に断食を始める。これはCOP19(22日まで)で意義のある結果が導き出されるまで、私が食事を断つことを意味している」

「この異常な気象現象の結果としてわが国が経験したのは狂気である。異常気象は狂気なのだ。私たちは今すぐに当地ワルシャワでこれを修復できる、この狂気を止めることができるのだ。ハイエンのような台風とその衝撃は温暖化対策を引き延ばせないことを国際社会に突きつけている」

「気候変動により、さらに強力な台風が増えることを科学は私たちに教えてくれている。地球が暖かくなるにつれ、海洋も暖かくなる。フィリピン沖の海洋に蓄えられたエネルギーが台風の激しさを増す。私たちが目の当たりにしている現象はより破壊力のあるストームが新たな基準になったということだ」

「私はあえて気候変動の現実を否定し続けるすべての人に海面上昇の現実を見せるため太平洋、カリブ海、インド洋の島々に連れて行きたい。解け出した氷河による洪水にさいなまれる共同体を見せるために、ヒマラヤやアンデスの山脈に連れて行きたい。北極海の氷がどんどん溶けている状況を見せてやりたい」

「それでも十分でなかったら、彼らは今すぐにでもフィリピンを訪れることを望むかもしれない」

「先進国の温室効果ガスの削減目標は破滅を防ぐのには十分ではない。今すぐに目標を上げなければならない。先進国が1990年比で40~50%削減していたとしても、気候変動には歯止めがかからず、損失と被害を報告する必要があっただろう」

サニョ代表は英紙ガーディアンへの寄稿の中で、「今、行動を起こさなければならない。温暖化懐疑派を象牙の塔から追い払おう」と呼びかけている。

温暖化懐疑派の政治家や科学者はサニョ代表の問いかけにどう反論するのだろうか。

演説の全編はサニョ代表のFacebookへ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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