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ロンドンで北朝鮮・金正恩ポスター騒動

木村正人在英国際ジャーナリスト

英メディアが、ロンドンの理容室が北朝鮮の金正恩第一書記の大型ポスターを店頭に掲げたところ、近くの北朝鮮大使館から外交官2人が訪れ、ポスターを剥がすよう要求したと報じています。

英紙インディペンデントが報じる金正恩氏のポスター騒動(同紙HPより)
英紙インディペンデントが報じる金正恩氏のポスター騒動(同紙HPより)

この理容室はロンドン西部サウスイーリングにある「M&M Hair Academy」です。横1メートル、縦1.2メートルの大型ポスターには、サイドを刈り上げ、センターはふさふさのヘアスタイルで「決めた」金正恩氏の写真と「Bad Hair Day?」のキャッチコピーがあしらわれています。

「Bad hair day?」とは朝起きたときに髪に寝ぐせがついていて、ヘアスタイルがなかなか上手く決まらない日のことを言います。朝からついていない日にもこのフレーズを使います。

理容室は、北朝鮮大使館から歩いて10分程度のところにあります。金正恩氏の大型ポスターを掲げた翌日の4月10日、2人のアジア系男性が訪れ、1人が写真を撮り、もう1人は何やらメモを取っていったそうです。

2人はそのあと店内に入ってきて、「誰がこの写真を掲示したのか」と質問しました。

そして、「写真は不敬である。この方は北朝鮮の国家指導者であらせられるぞ。即刻、取り外されなければならない」と一方的に通告しました。

理容室側は「これまでダイアナ元皇太子妃やサッカー選手の妻で歌手のビクトリア・ベッカムさんら有名人のポスターを使ってきた。聞きなさい。ここは北朝鮮ではない。イングランドだ」と反論したそうです。

このあと、怖くなって、地元警察に届けたところ、北朝鮮大使館からもポスターを取り外すよう要請があったそうです。警察は「事件にはならない」と取り合いませんでした。

先月、ワシントンに拠点を置くラジオ・フリー・アジアが、北朝鮮の男子大学生はみな金正恩氏と同じヘアスタイルにするよう求められていると報じました。

理容室はこのニュースをヒントに、4月を男性客向けのキャンペーン月間にして、15%の料金割引サービスを実施。客寄せのため、金正恩氏の大型ポスターを使うことにしたそうです。

16日午前に理容室を訪れたところ、日本メディアが詰めかけ、店は臨時休業でした。肝心のポスターは取り外されていました。

肝心の金正恩氏のポスターが取り外されたロンドンの理容室(16日、筆者撮影)
肝心の金正恩氏のポスターが取り外されたロンドンの理容室(16日、筆者撮影)

ロンドンでも、サッカーのイングランド・プレミアリーグの人気クラブ、アーセナルのオリヴィエ・ジルー選手のようにサイドを刈り上げるヘアスタイルが流行しています。しかし、さすがに金正恩氏と同じヘアスタイルにしてほしいという男性客はいなかったそうです。

金正恩氏は祖父の故・金日成主席のヘアスタイルを真似ていると言われています。父の故・金正日総書記は身長を高く見せるため、髪の毛をもじゃもじゃにしていたという説もあります。

北朝鮮では2005年にも男性の髪の長さは5センチメートルまでというお達しが出たことがあるそうです。年配者はもう少し長くしても良いという例外が設けられました。

北朝鮮では女性は18のヘアスタイルから、男性は10のヘアスタイルから理容師に注文していたそうです。金正恩氏のヘアスタイルは2000年代半ばまで「中国の密輸屋の髪型」と呼ばれ、まったく人気がなかったそうです。

男子大学生がみな金正恩氏と同じヘアスタイルになったのかどうか、はっきりしたことはわからないそうです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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