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FacebookやTwitterでシリアの外国人戦士が増殖中

木村正人在英国際ジャーナリスト

今日はシリアの話です。ロシアのプーチン大統領によるクリミア編入で、世界の関心はシリアからウクライナに移ってしまったようにも感じられます。

アメリカのオバマ大統領の優柔不断で、シリアのアサド大統領による化学兵器使用の罪は問われず、国際社会の監視下、化学兵器の廃棄作業が進められています。

しかし、化学兵器の廃棄は内戦の終結とはまったく関係なく、アサド大統領が情勢を立て直すための時間稼ぎとみられています。

イギリスに拠点を置くシリア人権監視団によると、内戦による犠牲者は15万人を超えました。義憤を感じた欧米諸国のイスラム系移民の若者がシリアに向かっていると言われています。

イスラム系移民の過激化プロセスの研究で定評がある英キングス・カレッジ・ロンドン大学過激化・政治暴力研究国際センター(ICSR)が16日、ソーシャルメディアを通じてシリアで戦う欧米諸国のイスラム系移民について研究内容を発表しました。

米紙ニューヨーク・タイムズやアメリカのTVネットワークも取材に来ていました。

ICSRの推定では、シリア内戦の惨状を見かねて74カ国から最大1万1千人の外国人戦士がシリアに流入しているそうです。

外国人戦士のうち、北アフリカや湾岸諸国など中東のイスラム教徒が約70%を占めていますが、欧米諸国からも約20%に相当する最大2800人が参戦しているそうです。

彼らはシリアで実戦を重ね、武器や爆弾の扱いを習熟して、いつかは欧州諸国に戻ります。暴力的イスラム過激主義の専門家トーマス・ヘグハマー氏の研究によると、帰国したイスラム系移民の9人に1人はテロ組織に関わるようになるそうです。

単純計算でも、シリア内戦が終われば300人強の本格的テロリストが欧米諸国に拡散されることになります。

これまでにも、「ホーム・グローン・テロリスト」、つまり社会に完全に溶け込んだとみられていたイスラム系移民2、3世がテロリストに変身する脅威が指摘されてきました。

しかし、「ホーム・グローン・テロリスト」は、イギリスのダーク・コメディ映画『フォー・ライオンズ』(2010年公開)のテロリストのように爆弾の製造や取り扱いに慣れていたわけではありません。

これに対して、シリア帰りの外国人戦士は相当な強者になっている恐れが強くあります。

そこでICSRは約1年間かけて、フェイスブックやツィッターなどのソーシャルメディアで情報発信しているシリアの外国人戦士約600人を把握し、このうち190人を丹念にフォローしました。

研究の狙いを打ち明けて、インターネットTV電話サービス、スカイプを通じてインタビューもしたそうです。

この結果、大きく分類して3つのことがわかりました。

(1)外国人戦士の3分の2以上は、シリアのアサド政権と戦う「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」、Jabhat al-Nusrahに属していたそうです。

この2つの組織は国際テロ組織アルカイダ と公式な関係を維持していると言われています。

ISILは、イラクで凶悪な無差別攻撃を繰り返してきたアルカイダ系組織の流れをくむ過激派で、2004年にイラクを旅行中の香田証生さんを拉致、殺害した組織の出身者も参加しているそうです。内戦に乗じて、シリアで勢力を拡大しようとしているのです。

(2)ICSRの協力研究員シラツ・マハー氏は外国人戦士を次のようにプロファイリングします。

アフガニスタン、イラクでのテロに参加した人たちと同様、パキスタンなど南アジアに系譜を持つ20代の保守的なイスラム系移民で、高等教育を受け、イスラム系団体で活動していることが多いそうです。

こうした人たちは2つのカテゴリーに分かれます。2001年の米中枢同時テロのあと、治安当局に目を着けられ、当局に反感を持っているテロリスト予備軍。もう1つは保守的なイスラム教徒というだけで、過激でも何でもないごくフツーの若者たちだそうです。

(3)フツーの若者をシリアの戦場に駆り立てているとみられるのが「喧伝者」と呼ばれる人たちです。

ICSRで、フェイスブックの「いいね!」やツィッターのリツイート件数を調べたところ、非常に影響力を持つ2人の「喧伝者」が浮かび上がりました。

1人がAhmad Musa Jibril(42)という米ミシガン州生まれのパレスチナ系米国人。大手動画投稿サイト、ユーチューブで、自分の説教を流しています。

彼は暴力やシリアでのジハード(聖戦)を呼びかけているわけではないのですが、応援団のような役どころを果たしています。

アサド政権に反対する武装勢力の考えを支持するJibrilのフェイスブックページは14万5千の「いいね!」を得ています。

もう1人がMusa Cerantonioという29歳のオーストラリアの聖職者です。17歳のときにカトリックからイスラム教に改宗しました。

この2人の「喧伝者」が、ISILなどシリアのジハード組織とつながっているという証拠はまったくありません。

しかし、ソーシャルメディアで彼らの説教を聞いて、多くの外国人戦士はシリア内戦への参加を正当化し、宗教上の根拠を求めていると言います。

湾岸戦争はTVゲームのような戦争という意味で「ニンテンドー・ウォー」と呼ばれました。

シリア内戦は、外国人戦士が自分の心境や活動をソーシャルメディアで正直に綴った初めてのケースです。

ソーシャルメディアと言えば「バーチャル」というイメージが強いですが、彼らにとっては「リアル」そのものです。

外国人戦士の多くが、共感できる「喧伝者」のソーシャルメディアから必要な情報を入手して、シリアに向かっているのだそうです。

ひと昔前まではアルカイダがいろいろな機会を通じてテロリスト予備軍をリクルートしていましたが、今はソーシャルメディアでどんどん増殖していくのです。

シリア市民を弾圧するアサド大統領への義憤、義務感、イスラム教徒としてのアイデンティティー、そして帰属意識がイスラム教徒の中でも、保守的な若者の間に次々と芽生えているようです。

外国人戦士の中には16歳の青年もいます。こうした現象が今後、欧米諸国にどんな影響をもたらすのか、誰にも予想がつきません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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