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欧州議会選 懐疑派、極右、極左台頭で暗雲【デモクラシーのゆくえ:欧州編】

木村正人在英国際ジャーナリスト

「これからのEUは予測不能」

欧州に民主主義の暗雲が垂れこめた。22~25日に投票が行われた欧州議会選。開票の結果、予想通り、反エリート、反移民、反欧州連合(EU)を唱える懐疑派、極右、極左が台頭、751議席中、220議席を上回る勢いを見せている。

EUからの離脱を唱えるフランスの極右政党・国民戦線(FN)、英国の英国独立党(UKIP)、EUの緊縮財政に反対するギリシャの急進左派連合(SYRIZA)がそれぞれ国内第1党となった。

フランスの国民戦線は25議席を獲得する見通しで、オランダの極右政党・自由党(PVV)などと政治会派を結成、環大西洋貿易投資協定(TTIP)交渉の反対を推進する。

フランス国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は反グローバリゼーションを唱えており、交渉が順調に進む日本・EUの経済連携協定(EPA)への影響も懸念される。

投票率は前回2009年並みの43.09%。各政治会派がEUの行政執行機関・欧州委員会の委員長候補を掲げて選挙戦を戦ったが、投票率を押し上げることはできなかった。

(1)欧州人民民主党212議席(現274議席)

(2)欧州社会・進歩連盟186議席(194議席)

(3)欧州自由民主連盟70議席(85議席)

(4)緑の党・欧州自由連盟55議席(58議席)

EU統合を支持している主要4会派の合計得票率は約80%から70%に下がっており、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのサラ・ハゲマン准教授は筆者に「中道右派と中道左派の対立軸が、EU統合を支持する中道とそれ以外の周縁の政治に欧州議会は移行する。政治の破片化が進み、予測するのが難しくなる」との見方を示した。

フランス 国民戦線

フランスの国民戦線は出口調査の結果、得票率26%で第1党、25議席を獲得する見通しだ。第2党は野党・国民運動連合(UMP)で20.66%。オランド大統領率いる社会党は13.88%に沈んだ。

国民戦線の女性闘士ルペン党首は「有権者は自分たちの意思を大声で、しかも明確に表明した」と大勝利を宣言。前回欧州議会選の3議席から8倍以上も躍進、全国レベルで国民戦線が第1党になるのは1972年の結党以来、初の快挙である。

ルペン党首は「有権者はもう、フランス国境の外から、自分たちが選んでもいないEUの欧州委員たちや官僚の指図を受けるのを望んでいない。グローバリゼーションから守られ、自分たちの運命を自分たちの手に取り戻すことを望んでいるのだ」と言葉に力を込めた。

フランス経済の首かせになっている欧州単一通貨ユーロへの敵意を燃やすルペン党首は、環大西洋貿易投資協定への反対や入国管理の強化も唱えている。

国民議会の定数577のうち国民戦線は2議席にとどまるため、「国民議会は世論を正確に反映していない。解散総選挙を」と怪気炎をあげる。

2カ月前に就任したばかりのバルス新首相は「地殻変動が起きた。私たち欧州の自信が危機に陥っている」と悲痛な声を上げた。

英国独立党

英国は、大衆酒場パブでビールを飲み、タバコをくゆらして欧州懐疑論をはきまくったファラージ党首率いる英国独立党(UKIP)が得票率27.49%、24議席で第1党。

与党・保守党が23.93%、19議席で第3党。野党・労働党は25.40%で20議席。保守党と連立を組む自由民主党は6.87%で第6位に沈み、10議席を失い1議席となった。

労働党のエド・ミリバンド党首、自由民主党党首のクレッグ副首相の求心力が低下。一方、保守党のキャメロン首相は来年5月の総選挙に向け、UKIPとの間合いの取り方に苦心しそうだ。

ギリシャ 急進左派連合

欧州債務危機の震源地となったギリシャ。EU主導の緊縮財政がギリシャ国民を苦しめていると主張する急進左派連合が出口調査で第1党の26.7%。新民主主義党(ND)が22.8%。極右政党・黄金の夜明け党が9.3%で、初めて欧州議会で議席を得る見通し。

イタリアではレンツィ首相が躍進

イタリアでは出口調査で、若きレンツィ首相率いる民主党(PD)が41.1%。伊政界の台風の目になっているコメディアン、ベッペ・グリッロ氏の五つ星運動が22.4%と勢力を維持した。

ベルルスコーニ元首相のフォルツァ(頑張れ)・イタリアは15.7%にとどまった。

レッタ前首相を今年2月に追い落とした39歳のレンツィ首相は給与に課される雇用税や地方法人税の大型減税、中小企業の支援策などを矢継ぎ早に打ち出したことが評価されたようだ。しかし、減税に必要な財源が示されていない。

2014年の財政赤字削減目標は国内総生産(GDP)の2.6%。しかし、イタリアはこの目標は達成できないだろう。しかも、英紙フィナンシャル・タイムズは、ユーロ圏のインフレ率が1%まで低下すれば、イタリアは債務不履行(デフォルト)の道をたどるだろうと予測する。

レンツィ首相は有権者の気持ちをつかむのには成功したが、根深いイタリアの病根を一掃したわけではない。民主党(PD)は昨年の総選挙の得票率25.4%を大幅に伸ばしており、レンツィ首相がこの追い風をどこまで構造改革に生かせるかにイタリアの未来はかかっている。

ドイツのための選択肢が初議席へ

ドイツではメルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)が手堅く第1党を固めたが、懐疑派の「ドイツのための選択肢(AfD)」が7%を獲得して、初めて欧州議会で議席を獲得する見通しだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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