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世銀が「中国経済のハードランディング」リスクに言及

木村正人在英国際ジャーナリスト

石炭産業で潤ってきた中国山西省太原市の経済成長率は1年間で12%からゼロに落ち込んだ。投資偏重から消費経済へリバランスを進める中国経済のハードランディングはあるのだろうか。

世界銀行は10日、世界経済見通しを発表、この中で中国経済について、「今年7.6%の成長が期待されるが、達成できるかどうかはリバランシング努力の成否にかかっており、仮にハードランディングとなった場合、その影響はアジア全域に広く波及するだろう」と指摘した。

ロンドンで記者会見した世銀のアンドリュー・バーンズ代表執筆者は「途上国の今年の成長率を1月の当初予測の5.3%から4.8%に下方修正する」と述べた。

途上国の成長率が3年連続で5%未満となる理由について(1)米国の天候不順(2)ウクライナ危機(3)中国経済のリバランス(4)一部の中所得国における政情不安(5)構造改革の遅れ(6)生産能力の制約――などを挙げた。

(筆者作成)
(筆者作成)

2011年の日銀レビュー「中国における経済成長のリバランスについて」によると、中国の経済成長で特徴的なのは、名目国内総生産(GDP)に占める投資の割合が異様に高いことだ。

1980年代には 20%台後半から30%近くで推移していたが、トウ小平の「南巡講話」(92年)をきっかけに30%台半ばまで急上昇。2010年には 46.2%に達した。

これに対して、個人消費の割合は10年で 33.8%と逆に極端に低い。

「世界の工場」といわれる中国だが、実は08年以降、輸出は経済成長のエンジンではなくなっている。その後の経済成長を引っ張ったのは、投資による住宅と建設ブーム。

このため、中国の習近平国家主席は「シャドーバンキング(影の銀行)」規制に乗り出すなど、投資偏重の経済成長を減速させる一方で、個人消費に軸足を移し、サービス産業を成長させ、雇用を拡大するべく、経済リバランスを進めている。

バーンズ氏は「中国では、国内のレベレッジ(てこ。他人資本を使って自己資本に対する利益率を高めること)がGDPの240%で、世界の中でも最も高い国の1つだ」と指摘。

「レベレッジを減らすペースがリスクのカギを握る。当局があまりにもゆっくり減らせば、中期的にハードランディングのリスクを膨らませる。逆に急激に減らしすぎれば信用収縮のリスクになり、金融部門のリスクを上昇させる」という。

第1四半期の住宅販売額は前年同期比で7.7%の減。新規着工面積は25%強の減少だ。不動産価格が暴落すれば、デフォルト(債務不履行)、成長の急減速という連鎖反応を起こす恐れがある。

中国は、鉄鋼やセメント、石炭などの産業で「過剰生産能力」問題も抱えている。

ジェローム・レヴィ経済予測センターのデビッド・レヴィ氏は、中国経済を減速しやすい列車ではなく、空を飛ぶジャンボジェットにたとえ、「あまりに減速し過ぎると、飛行機自体が墜落してしまう」との懸念を示したことがある。

中国経済がハードランディングすれば、アジアの近隣諸国や中国に資源を輸出するブラジルやオーストラリアなどの国々も深刻な打撃を受ける。バーンズ氏は「中国当局は今のところ、うまくハンドリングしているが、ハードランディング・シナリオも考慮に入れておく必要がある」と説明する。

これに対し、米国の天候不順を除くと、先進国の景気回復には弾みがついている。2015~16年には世界全体の経済成長の約半分は先進国が占める。13年には40%未満だった。

これまでの3年間は3.9兆ドルにとどまった追加需要は今後3年間に6.3兆ドルまで膨らみ、世界経済への貢献は途上国を上回るという。米国は15年には3%成長を達成する見通しで、衰退シナリオを一掃する勢いだ。

この中で失速気味なのが、安倍晋三首相の経済政策アベノミクス。

折れ線グラフを見てもわかるように、日本の経済成長率は14~15年、1.3%にとどまり、来年には債務危機の後遺症に苦しむ欧州単一通貨ユーロ圏にも追い抜かれるという。

果たして、成長戦略である第3の矢は。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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