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日本メディアはなぜ、次期主力戦闘機F35の致命的欠陥を報じないのか?

木村正人在英国際ジャーナリスト

F35のレプリカ

20日、英南部ファーンバラで開かれた国際航空ショーに展示された最新鋭ステルス戦闘機F35のモックアップを見てきた。F35は初めて大西洋を横断飛行し、2年に一度のファーンバラでその雄姿を披露するはずだった。が、大型ディスプレイでプロモーション・ビデオが繰り返し流されるだけだ。

英紙タイムズは、計画は遅れる一方、開発費用はかさむ一方のF35にブチ切れ状態だ。17日付の社説(電子版)で「われわれがアルミニウムとファイバーグラスでできたこのレプリカを見せられるのはこれが初めてじゃない」と怒りをぶちまける。7月4日に進水した空母クィーン・エリザベス(2017年就役予定)の甲板にもF35のレプリカが置かれていた。

英国は短距離で離陸でき、垂直着陸できる空母用のF35Bをこれから14機調達する予定だ。英BBC放送によると、英国防省は「実戦配備は18年末までに行われる」と示唆。費用は総額25億ポンド(約4312億円)とみられている。1機当たり、約308億円とソロバンを弾く。

タイムズ紙の社説は「最終的に作戦準備完了となれば、F35が世界最強で最もステルス性が高い戦闘機であることに疑いを差し挟む余地はほとんどない。しかし、財政削減の折り、まず3機を試験的に購入し、これから新たに14機の契約を結ぶ必要がある。大きな疑問は、そもそも英国にこんな馬鹿げたオモチャを買う余裕があるのかということだ」と指摘する。

「政府は4年前に性能が実証済みのF18スーパー・ホーネットを買っておくべきだった。そうすれば、もっと多くの戦闘機を実戦配備でき、F35の問題が解決されるまで待つことができたはずだ」

この記事を読んだ英空軍OBもカンカンだ。タイムズ紙への投書で「11年以上待たされた挙句、少なくともあと3年待っても、なおF35計画は実行に移されない。2011年には実戦配備されるはずだったが、今や16年にずれ込むとみられている」と指摘する。

一時飛行停止13回、エンジンのタービン翼に問題

ロイター通信のデービッド・アックス記者によると、07年以降、F35は少なくとも13回、一時飛行停止に追い込まれている。その多くはエンジンのタービン翼が問題だった。

F35は単発エンジンだが、燃料満載時の重量は35トンと単発機としては非常に重い。しかし、速度と運動能力を高めるため、エンジンに過剰な負担がかかっているとアックス記者は分析する。そして「F35が飛べなくなる事態さえ予感させる」とまで指摘しているのだ。

F35に対する英国メディアの懐疑論はこれだけにとどまらない。

英紙フィナンシャル・タイムズの経済コラムニスト、ジョン・ガッパー記者も、F35は用途の異なる戦闘機3機分を1機に合体させたため、「開発・製造コストが抑えられると言われていたのに、コストは当初の試算を大幅に上回り、開発するのが極めて難しいことが明らかになってきている」と指摘する。

統合打撃戦闘機のワナ

空中戦を重視する戦闘機、空対地攻撃ミサイルを積む攻撃機、空母から離発着する艦上機ではそれぞれ求められる性能や機体、エンジンの構造も異なる。それを1つにまとめるのは技術的に難しいというわけだ。

ジャーナリストの多くが引用しているのが、米国のシンクタンク、ランド研究所が13年に発表した報告書だ。1960~90年代に行われた11の統合機計画を比較調査したところ、計画開始から9年目の調達コストは統合機の方が通常機より41%も膨らんでいる(下のグラフ参照)。11の計画のうち、8つが撤回されたり、中断されたりしたという。

ランド研究所の報告書より
ランド研究所の報告書より

報告書は「統合機の開発・製造コストが膨れ上がる最大の理由は、それぞれ多岐にわたる特定の任務、作戦環境、パフォーマンスの要求を共通した一つのデザインに融合させる難しさにある。計画への参加者が共通した安定的な要求を持っていない限り、米国防総省は将来、統合打撃戦闘機や他の複雑な統合機計画は避けるべきだ」と助言している。

日本はF35調達枠を拡大へ

日本には2016年度中に通常離着陸型のF35A、4機が納入される予定だ。17年度から航空自衛隊三沢基地(青森県三沢市)に20機程度配備されるという。

小野寺五典防衛相は今月8日、訪問先の米南部テキサス州フォートワースで記者団に、F35を42機配備する現在の計画について「1機当たりのコストが下がれば、機数を考えることも重要だ」と調達枠の拡大を検討する考えを明らかにした。

1機102億円の契約だったのが、今では150億円という報道もある。F35のエンジントラブルの前後という違いはあるが、英国メディアの報道ぶりとの違いにあ然とさせられる。

もともと、次期主力戦闘機を選ぶプロセスにはあ然とさせられることの連続だった。

2011年7月、英空軍基地での国際航空ショーを見学した際、インドからの一行に出くわした。当時、インド空軍は旧ソ連製ミグ21の老朽化で戦闘機126機の調達を計画していた。

ユーロファイターやFA18、F16、ミグ35、ラファール、サーブ39の計6機種が俎上にのぼっていた。09年8月から10年3月にかけインド南西部バンガロールの高湿度地域、北西部ラージャスタン州の砂漠、北部ラダックの山岳地帯で飛行や爆弾投下試験を繰り返した。チェック項目は643。

一方、日本は主力戦闘機の機種をわずか3カ月で決定。「中国の軍拡という同じ脅威にさらされているのに、日本とインドではえらい違いだなあ」と驚いたものだ。

日本では、反米報道と日米同盟絶対主義が対立して、まともな防衛論議が行われにくい。F35の致命的な欠陥を議論することは「日米同盟のマイナスになる」と判断したのか、ロイター通信日本語版の報道や、日経新聞に転載されたFT紙の大型コラムしか目に止まらなかった。

日米同盟の陶酔感

日本はF35の機体の最終組み立てに加えて、修理・維持整備も担当する可能性がある。自動車のエンジニアリングでも日本はドイツになかなか追いつけない。最終組み立てと修理・維持整備を通じて日本は戦闘機のエンジニアリングを発展させていくことができるのか。

元駐米英国大使のデービッド・マニング氏は米英両国の「特別な関係(スペシャル・リレーションシップ)」について、「同じアングロサクソンとひとくくりにされるが、英国と米国では文化も考え方も全然異なる。『特別な関係』という陶酔感にひたれば、英国の外交・安全保障の思考力をマヒさせてしまう。米国にとっては、英国は数あるうちの同盟国の1つに過ぎない」と語る。

F35の納入時期について防衛省のHPは「米空軍参謀長から航空幕僚長宛の誓約書や開発責任者からのレターがある」と説明している。納入が遅れた場合、日本の空の守りは大丈夫か。プランBは用意されているのか。日本も「日米同盟」という響きに酔っていてはいけない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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