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東南アジア海域で小型タンカー狙う海賊が急増中 成功9割 安倍首相は先手を打て

木村正人在英国際ジャーナリスト

国際商業会議所(ICC)国際海事局(IMB)海賊情報センターが24日、今年上半期の海賊発生状況を発表した。

東南アジア海域の発生件数は2003年から6年連続で減少していたが、2010年70件、11年80件、12年104件、13年128件と4年連続で増加。今年上半期は65件と前年同期(57件)を8件上回るハイペースだ。

IMB海賊情報センターの資料から筆者作成
IMB海賊情報センターの資料から筆者作成

ソマリア沖の海賊と違って、東南アジア海域の海賊は、身代金目当てに船をハイジャックして乗組員を人質にとるのではなく、時計や携帯電話、金銭、貴金属類など物取りが目的だった。

それが最近、石油を狙って小型タンカーを襲うケースが急増している。ひと昔前まではナイフしか持っていなかったのに、最近では銃器で武装している。

4月下旬、マラッカ海峡で海賊は小型タンカーを襲撃、2500トンのディーゼル油を抜き取って、乗組員3人を誘拐した。この乗組員は海賊の共謀者だったとの見方が強まっている。

6月中旬にはマレーシア沖で小型タンカーが襲われ、1520トンの軽油が抜き取られた。ディーゼル油や軽油などはトラックやボート、発電機の燃料として、シンガポールのブラックマーケットなどで1トンあたり400~650ドルで売りさばかれているという(ロイター通信)。

海賊はどのブラックマーケットで一番高い値がつくか情報収集しながら、小型タンカーから抜き取った石油類をさばいている。金銭や貴重品を売りさばいていた1990~2000年代と違って、密売ネットワークと密接につながる海賊の犯罪結社化が進んでいるようだ。

今年上半期でみると、発生場所は、大小1万3466の島々からなる世界最大の島しょ国家インドネシア沖が47件と断トツ。すべての島々に沿岸警備隊の監視は届かず、海賊の隠れ家としてはもってこいだ。

次はマレーシア沖で9件(前年同期は3件)、シンガポール海峡は6件(同4件)となっている。

使用した武器はナイフがインドネシア沖20件、シンガポール海峡4件、マレーシア沖1件。銃器がインドネシア沖8件、マレーシア沖4件、マラッカ海峡、フィリピン沖が各1件だった。

既遂事案のうち船がハイジャックされたのは6件、乗船を許したのは51件。未遂事案では発砲されたのは1件、それ以外は7件だった。海賊の成功率は87.7%に達していた。

殺害はフィリピン沖で1人。負傷はインドネシア沖、マレーシア沖が各1人。人質に取られた乗組員の数はマレーシア沖が69人、インドネシア沖が23人、シンガポール海峡が1人。脅されたのはインドネシア沖、マレーシア沖が各2人、シンガポール海峡が1人だった。

既遂事案のうち停泊中に襲撃されたケースは34件、航行中が21件、桟橋に係留中は2件。未遂事案では停泊中が7件、航行中が1件だった。

2001年、小泉純一郎首相はアジアの海賊に対処するため、地域協力を促進する枠組みつくりを提唱。日本主導で東南アジア諸国連合(ASEAN)、中国、韓国、インドなどと協力、06年にアジア海賊対策地域協力協定を発効させ、シンガポールに情報共有センターを設置した。

ソマリア沖の海賊対策でも、アジア海賊対策地域協力協定や情報共有センターをモデルにした地域協力の枠組み作りが行われている。

マラッカ・シンガポール海峡は世界有数の国際海峡で、わが国にとっても輸入原油の約9割が通る極めて重要な海峡だ。成長セクターのアジアでは、石油は貴重なエネルギー源。今後、石油を狙った海賊の小型タンカー襲撃がさらに増えるのは避けられまい。

安倍晋三首相は小泉首相を見習って、先手を打って対策を講じる必要がある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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