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F35の調達計画にはやはり再検討が必要だ

木村正人在英国際ジャーナリスト

日本が調達するF35Aの価格は150億円超に

2017年度から航空自衛隊三沢基地(青森県三沢市)に順次20機程度配備されるという最新鋭ステルス戦闘機F35について、7月半ば以降、筆者は3回続けてエントリーした。

筆者のツイッターに質問が寄せられたので、この場を借りてF35に関する最新情報と筆者の考え方を改めてまとめておきたい。

米国では2015年度国防歳出予算法案を承認する際、F35について、6月に下院歳出委員会が38機を、7月には上院歳出委員会が34機を新規調達することに同意した。

上院歳出委員会の最新見積もりによると、通常離着陸型の米空軍用F35Aは生産機数が19機から26機に増えるため、1機当たりの価格は1億7400万ドル(約178億円)から1億4800万ドル(約151億円)に下がる。F35Aは日本の航空自衛隊が調達するのと同じ機種だ。

米海兵隊の短距離離陸・垂直着陸型F35Bの生産機数は6機のまま同じだが、1機当たりの価格は2億3200万ドルから2億5100万ドルに上昇。

米海兵隊が導入する予定の短距離離陸・垂直着陸型F35B(米海軍HPより)
米海兵隊が導入する予定の短距離離陸・垂直着陸型F35B(米海軍HPより)

米海軍の艦載型F35Cの生産機数は4機から2機に半減、これに伴い1機当たりの価格は2億7300万ドルから3億3700万ドルに高騰している。

ニューヨーク・タイムズ論説も懸念示す

米国防総省が7月15日、エンジンの出火トラブルのためF35は英南部ファーンバラの国際航空ショーへの参加を取りやめると発表したのが筆者のエントリーのきっかけだった。

(1)7月16日「日本の次期主力戦闘機F35に赤信号」

2017年度から航空自衛隊三沢基地(青森県三沢市)に20機程度配備されるという最新鋭ステルス戦闘機F35に赤信号が灯っている。

(2)7月21日「日本メディアはなぜ、次期主力戦闘機F35の致命的欠陥を報じないのか?」

英南部ファーンバラで開かれた国際航空ショーに展示された最新鋭ステルス戦闘機F35のモックアップを見てきた。F35は初めて大西洋を横断飛行し、2年に一度のファーンバラでその雄姿を披露するはずだった。

(3)7月26日「次期主力戦闘機F35をめぐる根深い対立 1機200億円説も 楽観論を信じて大丈夫?」

日本に2017年3月までに納入される米最新鋭ステルス戦闘機F35については、強烈な懐疑論を唱えるジャーナリストとシンクタンク、計画を推進する米ロッキード・マーチン社、米国防総省が激しく対立している。

(4)そして、米紙ニューヨーク・タイムズもついに7月27日付の社説で「F35に試練」と報じるに至った(Rough Ride for the F-35 By THE EDITORIAL BOARD)。内容は筆者のエントリーとほぼ同じだが、ポイントは以下の点に尽きる。

「F35の調達機数を減らして戦闘機のF15、F16、F18や改良された対地攻撃機A10ウォートホッグの調達機数を増やすことで、米国防総省はオカネを節約できる上、仮想敵国より優れた軍用機を保有できるだろうと複数の専門家は指摘している」

「作戦上のテストが2019年に完了するまでF35の調達は棚上げすべきだと他の専門家は提案している」

F35の長所と短所はすべての専門家が理解しているのに、軍需メーカーが米議会の上下両院議員に激しいロビー攻勢をかけているため、F35調達計画を再検討しようという真面目な意見はかき消されているという。

開発主体ロッキード・マーチンの反論

(5)NYタイムズ紙の社説に反論する投稿が8月6日に掲載された。タイトルは「F35は前進している(Progress on the F-35 Fighter Jet)」。それによると――。

「65%の飛行テストは完了した。2017年までに開発を終わらせるため、計画は順調に進んでいる。F35の航空隊は1万8千時間以上も飛んでいる。107機が配備され、航空機のコストも55%下がった」

「F35は今後数十年間にわたって、いかなる仮想敵国に対しても決定的なアドバンテージをもたらすことになる」

7月31日に投稿したのはロッキード・マーチン社でF35計画を担当するローレン・マーティン副社長だった。

筆者のツイッターに返信して下さった軍事ブロガー、JSFさんの主張もロッキード・マーチン社のマーティン副社長の投稿とほぼ同じラインに沿っている。

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米空軍大佐は「F35の計画中止」を提言

F35のパフォーマンスについて、日本の航空自衛隊と同じF35Aを導入する米空軍のMichael Pietrucha大佐が空軍ジャーナル「Air & Space Power Journal」5~6月号で重大な疑念を示している。

「特に、F35のパフォーマンスは所期の要求を満たしていない。搭載量は小さく、航続距離も短い」「F35は前任の機種より本質的にパフォーマンスの劣った初の近代戦闘機になるかもしれない」と指摘し、「我々はF35計画の中止を熟慮すべきだ」とまで提言している。

日本では外交・安全保障をめぐる国民のコンセンサスが確立されていないので、安倍政権が調達するF35に疑念を唱えることは「反安倍」「反自民」という単純すぎる対立軸で見られがちだ。防衛省・自衛隊関係者を除いて、日本には軍事・安全保障を議論できる専門家が少なすぎる。

F35は作戦上のパフォーマンスが実証されているわけでもなく、調達コストも運用コストもどうなるか確定していない。それなのに日本はF35の調達拡大を検討すると聞いて、筆者は腰を抜かしてしまった。

そんな買い物をしていたら、個人の家計でも一気に破綻してしまう。「ロー・コスト、できる限りハイ・パフォーマンス」を心掛けて、ジャーナリスト活動を続けている筆者には、とりあえず手付けだけ打っておいて、実戦的な性能が実証されるまでF35の本格調達は様子見という選択が賢明のように思われる。

筆者は、とても軍事ブロガー、JSFさんのように楽観的にはなれない。日本の空を守るため、プランBの立案が焦眉の課題だ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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