スピンホール効果の電気制御に世界で初めて成功したケンブリッジ大留学生が地方再生の教育ベンチャー設立へ
この7月に英国のケンブリッジ大学物理学部で博士号を取得したばかりの岡本尚也さん(29)を中心とした国際共同研究チームが「スピンホール効果」の電気制御に世界で初めて成功した。
海外名門大学で日本人学生が世界トップレベルの研究者の中心的な役割を担い、世界的な成果を出すのは極めてユニークだ。
電子は「電荷」と「スピン」の二つの性質を持つ。「スピン」(最初は電子自身が自転運動していると考えられていたため、スピンと間違って名付けられた)はたとえるなら「磁石の最小単位」で、物質の磁気的な現象や性質はこの「スピン」に由来している。
今回の研究テーマとなったスピンホール効果とは、半導体や非磁性体の金属に電流を流すと、電流(電荷の流れ)と垂直の方向に、スピンの流れである「スピン流」が発生する現象のことだ。
電子の「電荷」としての性質だけを利用したエレクトロニクス(電子工学)による記憶デバイスは、微細化コストや記憶容量、その正確性を担保する難しさのため限界に近づいている。
そこで、電子のスピンを用いることで、既存のエレクトロニクスにはない機能や性質を生み出す「スピントロニクス」が注目を集めており、その源となる「スピン流」の研究は世界中で行われている。
電流によってスピン流を生み出すスピンホール効果の生成効率は物質によって決まっていたが、岡本さんらの研究チームは、半導体エレクトロニクスでもよく利用されるガリウムヒ素を使って、磁場を加えたり温度を変えたりすることなく、電圧を用いるだけで変換効率を約 40 倍も向上させた。
エレクトロニクスデバイスの概念を根底から覆すスピントロニクスデバイスの開発に道を開く発見で、大容量ハードディスクドライブなどの開発に活用できる可能性があるという。
この論文は10日、国際学術誌「ネイチャー・マテリアルズ」に掲載された。詳しくはリンクをご覧になって下さい。
実は、岡本さん、この秋からオックスフォード大学に移り、教育社会学を研究する予定だ。岡本さんの夢は、生まれ育ったふるさとの鹿児島県を教育で再生させることだ。
「今後の日本にとって重要な地域を発展させるためには、地域に根ざした産業・教育・風習と国際的かつ時代を捉えた視点を融合させることが欠かせない。その担い手は若者だ」
これまで物理学の研究を進める一方で、日本の教育機関を対象に講演や教育活動を行ってきた岡本さんはケンブリッジ大学というグローバルな名門校で学んだ経験を活かし、出身地の鹿児島県で教育NPO(民間非営利団体)を立ち上げるという。
十分なインフラや自然資源があるにもかかわらず、貴重な人材の流出が止まらない日本の地方。高齢化や人口減少など、先進国の中でも日本は「課題先進国」と言われるが、地方はその最先端を走る。
岡本さんは「地方の衰退と疲弊を解決する糸口は、ゼロから問題の解決方法を組み立てることができる人材を地方に根づかせることだ」と考え、自らそれを実践していく考えだ。
「グローバルな視点と実践力を持ち、地方(ローカル)で新しい事業を創り出すグローカル人材」を育成する教育プログラムやコンサルティングサービスを提供したいと、岡本さんは意気込んでいる。
岡本さんの連絡先は
no251@cam.ac.uk
(おわり)