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【単独インタビュー】5年間独房監禁の中国人権弁護士の妻「日本の政治指導者も高智晟に言及を」と訴え

木村正人在英国際ジャーナリスト

中国の刑務所を7日に出所した人権弁護士、高智晟氏の妻、耿和(こうわ)さん=米国在住=が18日夕(ロンドン時間)、筆者の国際電話インタビューに応じ、「夫は(中国新疆ウイグル自治区の)私の姉の家にいますが、状態は極めて悪い。日本の政治指導者を含め、欧米などの政治指導者が中国政府に対して公に夫のことに言及してくれれば、夫は米国に来て、家族と一緒に暮らせるはず」と訴えた。

電話インタビューは、ロンドン時間の18日午後7時50分(日本時間19日午前3時50分)から約20分に及んだ。筆者は中国語がわからず、耿和さんは英語を話せないため、高氏と耿和さんの友人であるカリフォルニア州在住のSherry Zhang博士に通訳してもらいながら行った。

元気な頃の高智晟氏(耿和さんのツイッターより)
元気な頃の高智晟氏(耿和さんのツイッターより)

一問一答は次の通り。

――高氏とは電話でいつ話しましたか

耿和さん「8月8日に話したのが、一番最初です」

――これまでに何回ぐらい話しましたか

耿和さん「5~6回です」

――電話での会話はどんな感じですか

耿和さん「電話をかけても通話中だったり、つながっても姉が『今、人がいるので後でかけ直す』と言ったりすることがあります」

――人というのは誰のことですか

耿和さん「警察です」

――高氏はどんな様子ですか

耿和さん「電話で話せると、夫は喜びます。しかし、話しだすと突然、電話が切れるのです。夫に『なぜ、切れるの』と聞いても、『わからない』と言います。夫には『あなた、耳か頭に問題を抱えているの』と尋ねました」

「あとで姉と話すと、夫は5年間、独房に監禁され、饅頭やキャベツの切れ端しか与えられなかったそうです。日の光がまったく当たらない独房で、読むことも書くことも話すこともできず、完全に何もない世界での生活を強いられていたそうです。今は、十分に話す能力がない状態です」

――高氏は、歯がかなり弱っていると報道されていますが、実際に何本くらい残っているのでしょう

耿和さん「完全に抜けてしまったのは2本です。上の歯が3本抜けかけており、下の歯も4~5本抜けかけています。頭痛に苦しんでいるようです。最初は正気ではありませんでしたが、次第にゆっくり短い言葉で、はい、いいえ、はようやく答えられるようになってきました」

――高氏は独房に監禁されていた状況を耿和さんに説明できますか

耿和さん「当局が夫に圧力をかけていると思うので、夫には直接、質問していません。姉の話によると、日の光から完全に遮断された真っ暗な独房の中で過ごしたため、カルシウムが不足し、筋肉がけいれんする症状が出ているようです」

「相当な痛みがあるようで、夜も眠ることができない状態です。出所したときは自分1人では歩くこともできず、両脇を抱えてもらったそうです」

――独房にはベッドとトイレ用の穴が空いているだけと報じられていますが、本当ですか

耿和さん「私には詳しいことはわかりません。たった1人で独房の中に閉じ込められ、話す人はいなかったのは間違いないと思います」

――高氏の状態は次第に良くなっていますか

耿和さん「姉のところで世話をしてもらって、ほんの少し良くなって、幸せに感じているようです。2~3日前、息子のピーター(10)が初めて電話で話したとき、『お父さんは中国語を理解できなくなっている』と非常にがっかりしていましたが、その後は次第に会話が通じるようになったようです」

――お子さんはピーター君、お1人ですか

耿和さん「21歳になる娘がいます。娘に夫と話すときは忍耐が必要よと言いましたが、電話で話すとき非常に良くふるまっていました」

――胡錦濤国家主席から習近平国家主席に代わって、中国の人権状況は何か変わりましたか

耿和さん「まったく改善されていません。夫は世界中のメディアが注目する中、当局に非常に劣悪に取り扱われ、起訴されました。そして今、こんなに悪い状態になって帰ってきました。2人の国家指導者の間に違いは何一つ見いだせません」

――国際社会に望むことはありますか

耿和さん「国際メディアや国際社会がもっと高智晟のことに関心を払ってくれれば、夫は米国に来て、家族と一緒に過ごすことができると思います。十分な治療を受けることができ、健康状態も改善すると思います」

――高氏の渡米が実現すると信じていますか

耿和さん「家族は米国にいます。夫の家はここにあります。国際社会の関心が十分に夫に払われれば、きっと私たちの家に帰ってくることができると信じています」

――欧米の政治指導者に望むことはありますか

耿和さん「すべての政治指導者が中国政府に対して、高智晟のケースについて言及してほしい」

――私は日本人です。日本政府や日本社会に対して望むことはありますか

耿和さん「日本の政治指導者が公に中国政府に対して、高智晟のケースについて言及してくれることを望みます」

――過去に日本の政治指導者が公に高氏について発言したことはありますか

耿和さん「私は聞いたことがありません」

――出所後、高氏は自身の言葉で何か国際社会に伝えようとしていますか

耿和さん「まだ十分に話すことができないので、家族がどうしているかというような話しかしていません」

高氏は陝西省の極貧農家に生まれ、弁護士資格を取得。立ち退き被害者や中国では非合法の気功団体「法輪功」メンバーの弁護活動を行い、胡主席(当時)に「法の支配の徹底」を求める公開書簡を発表した。

しかし2006年暮れ、国家政権転覆扇動罪で懲役3年、執行猶予5年の判決を受けた。執行猶予期間中に何度も拘束され、拷問を受けた実態を07年に公表。09年2月、陝西省の親族宅から連れ去られ、行方不明となった。

耿和さんと子供2人は翌3月、タイ経由で米国に逃れた。08年に高氏はノーベル平和賞の受賞候補になっている。

耿和さんは12年2月、習国家副主席(当時)の訪米に合わせて開かれた米議会の「中国に関する議会・政府委員会」公聴会で「米中両首脳は中国当局の人権弾圧を公に論じてほしい」と訴えた。

出所した高氏は体重が22.5キロも減っており、耿和さんは米国への渡航を中国政府に認めさせるようオバマ米大統領に求めている。日本の政治家もメディアも従軍慰安婦問題に注ぎ込む情熱と精力のほんの少しでも高氏に向けてほしいと筆者は切に思う。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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