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来年度概算要求 F35のお値段は?

木村正人在英国際ジャーナリスト

6機分、1249億円

20日の日経新聞電子版は、防衛省は2015年度予算の概算要求で、最新鋭のステルス戦闘機「F35A」6機分の購入費として1249億円を計上すると報じている。

航空自衛隊が導入するF35A(米空軍HPより)
航空自衛隊が導入するF35A(米空軍HPより)

航空自衛隊は主力戦闘機のF4戦闘機が老朽化したため、後継機としてF35A を42機導入する計画だ。12年度から3年間で10機を調達。単年度で6機を導入するのは初めてだ。

金額と機数は日経しか報じていないので、購入費がいったい何を指すのかわからない。

そこで、防衛省官房広報課に国際電話で確認すると、「来年度予算の概算要求については現在、検討中で、今月中に結論が出る予定です」ということだった。

今のところ、日経の1249億円に初度費や別途経費が合算されているのかどうかはわからなかった。しかし、単純計算では1機当たり208億円余。これを各年度の1機当たりの取得費と比較してみると――。

1機当たり、12年度99億円

12年度予算の概要

F35A、4機で395億円。1機当たり99億円弱。

その他シミュレーターの取得経費として205億円を計上。

13年度150億円

13年度予算の概要

F35A、2機で299億円。1機当たり150億円弱。

国内企業参画に伴う初度費として別途830億円を計上。

国内企業が製造に参画するとともにF35の国際的な後方支援システムに参加。

その他関連経費(教育用器材等)として別途211億円を計上。

F35Aの配備(三沢)に向けた教育訓練施設の整備のための調査工事。

14年度160億円

14年度予算の概要

F35A、4機で638億円。1機当たり160億円弱。

国内企業参画の範囲を拡大することに伴う初度費として、別途425億円を計上。

その他関連経費(教育用器材等)として別途383億円を計上。

F35Aの配備(三沢)に向けた教育訓練施設等の整備27億円。

来年度予算の概算要求でF35のお値段はいくらになるのか?(筆者作成)
来年度予算の概算要求でF35のお値段はいくらになるのか?(筆者作成)

日経新聞が防衛省来年度予算の概算要求を伝えた20日、米経済メディアのブルームバーグは「飛行制限によりF35のソフトウェアのテストが遅れる」と計画の遅延に改めて警鐘を鳴らしている。

来年7月までにF35の戦闘能力を整える前に、ソフトウェアのテストが基準を満たさなければならない。ソフトウェアは航行や通信、照準システムに不可欠で、F35のソフトウェアは740万行のコードで書かれ、将来的には800万行を超える。

F35のソフトウェアの完成は2017年9月?

ブルームバーグは先日、国防総省が議会に提出した報告書を引用する形で、F35のソフトウェアの完成が最大で14カ月遅れ、17年9月までずれ込む恐れを指摘したばかり。

これに対し、F35の開発主体である米ロッキード・マーチン社は「15年7月の締め切りにソフトウェアは間に合う」と説明。国防総省のF35計画事務所は「F35の3つのバージョンのソフトウェアの遅れは14カ月ではなく、6カ月」と釈明している。

「先方の説明」任せの防衛相

政府は14~18年度の中期防衛力整備計画でF35を28機導入する計画だ。17年3月の納入時期について、小野寺五典防衛相は7月の記者会見でこう答えている。

「『現在日本へ配備される予定のスケジュールには変更はない』と先方からそのような説明がありました。ソフトウェアの開発についても同様で、『既存の計画に変更はない』というのが先方の説明でありました」

ワシントンに拠点を置くストラウス軍事改革プロジェクトのウィンスロウ・ウィーラー所長から最近、筆者に届いた電子メールには以下の文書が添付されていた。

「ロッキード・マーチン社は飛行テストのうち65%は完了していると説明しているが、それは開発テストのことだ。さらに厳しい戦闘など作戦上のテストは2016年まで始まりもしない」

「米国民はすでにF35、179機分の代金を支払った。より効果的な戦闘機を安い費用で購入するために、今後のF35の調達を控えれば、対地攻撃機A10ウォートホッグの近代化、すでに保有している軍用機の維持、戦闘性能を重視した競争力のある計画を継続できる」

この文書にはウィーラー所長のほか、下記の2人が署名している。

(1)Pierre M. Sprey

F-16 and A-10 Co-Designer

(2)Danielle Brian

Executive Director, Project On Government Oversight

F35をめぐる悪いニュースは連日のように世界中を駆け巡っている。

「大丈夫だ」と言っているのはロッキード・マーチン社と米国防総省のF35計画事務所、米議会の議員。日本では、軍事ブロガー、JSFさんとそのサポーターたち。

米議会議員がF35計画を支持する理由は簡単に説明できる。選挙区の雇用と軍需産業からの献金だ。

止めるに止められないF35計画

米国の経済ニュースサイト「ビシネス・インサイダー」によると、F35計画には米国46州と世界9カ国がかかわっている。

米国46州で生み出す雇用は3万2500人。このうち1億ドル以上の経済的な恩恵を受けている州は18州もあり、1位がテキサス州で、関係している企業79社、51億7900万ドル、2位がカリフォルニア州で277社、50億790万ドル。3位がフロリダ州で94社、14億100万ドルと続く。

「アジアで最も緊密で重要なパートナーは日本。安倍晋三首相と、小野寺防衛相と会談し、F35と垂直離着陸輸送機オスプレイの素晴らしさを議論した」と下院HPで打ち明けた米国のグレンジャー共和党下院議員は選挙区がテキサス州。

一方、オーストラリアでF35計画に関係している企業は27社、カナダ5社、デンマーク1社、フランス2社、イタリア31社、オランダ5社、ノルウェー3社、トルコ10社、英国14社となっている。

F35計画は「問題あり」とわかっていても、もうやめるわけにはいかないプロジェクトになってしまっている。方や日本では、民主党政権で承認され、自民党の安倍政権でも継承された計画をおいそれとひっくり返すわけにはいかない。

しかし、今後、日本の経済力は人口減少に伴ってますます縮んで、いずれ円安傾向が定着すると筆者は思う。F35の「ステルス神話」を過信し、高すぎる買い物にならないか、筆者の懸念が杞憂にすぎないことを祈るばかりだ。

(おわり)

※「F35のソフトウェアは740万行のコードで書かれ、将来的には800万行を超える」に訂正しました。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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