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「欧州の時限爆弾」フランス最悪大統領の迷走が止まらない

木村正人在英国際ジャーナリスト

オランド大統領の支持率17%

「欧州連合(EU)の時限爆弾はフランス」と2012年11月にいみじくも指摘したのは英誌エコノミストだ。その予想通り、「欧州の病人」とまで言われるようになったフランスが再び混乱している。

元凶は、1958年に第五共和政になってから史上最悪の支持率17%を記録した社会党のオランド仏大統領。

元パートナーのロワイヤル前社会党大統領候補とジャーナリストのトリルベレールさんの三角関係に身を焦がしたと思ったら、女優ジュリー・ガイエさんにあっさり乗り換えたオランド大統領。その経済財政政策も女性関係同様、優柔不断が原因で迷走を極めている。

就任直後は100万ユーロ超の高額所得者層に対する75%の所得税など「左派」受けする政策を打ち出したものの、その後はビジネス促進のための400億ユーロ減税、500億ユーロの歳出削減と市場重視に転換した。

しかし、失業率は改善せず、今年3月の地方選で大敗すると、エロー首相を交代させ、後任に党内穏健派で改革推進派のバルス内相を充てたのは良かった。しかし、党内左派を閣内に取り込んだのがまずかった。オランド大統領はすべてが中途半端なのだ。

2四半期連続のゼロ成長

今年に入って2四半期連続で国内総生産(GDP)の成長率はゼロ。歯に衣着せぬ党内のバリバリ左派で激情型のモントブール経済・生産力再建相が仏紙ルモンドとのインタビューで怒りを爆発させた。単一通貨ユーロ圏を縛るドイツ流の厳格な緊縮策がフランス経済を「脱線」させていると厳しく批判。

会見でも「緊縮策はユーロ圏の景気をどんどん後退させ、ついにはデフレをもたらそうとしている。緊縮策は財政赤字を減らすのではなく、拡大している」として、「緊縮」から「成長」へ経済財政政策を切り替えるよう求めた。

フランスはこれまで2度猶予してもらった財政赤字GDP比3.8%の目標を今年中に達成するのは危うい状態。しかも、モントブール氏が「私の敵が統治している」と公言したことから、オランド大統領はモントブール氏の更迭を決断した。

オランド大統領は25日、バルス首相による内閣総辞職の申し出を認め、新内閣の編成を指示した。26日に陣容が固まる見通しだ。しかし、モントブール氏と足並みをそろえる党内左派のアモン国民教育相、フィリペティ文化相は要請があっても入閣しない方針だ。

「給料だけ高いフランスの労働者」

重債務国のギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインが必死の思いで財政再建や構造改革に取り組んでいる間、フランスはオランド大統領の優柔不断さが災いして時間を無駄遣いしてしまった。

フランスの競争力は下の数値やランキングを見れば、いかに低いかがわかる。

・2014年6月の失業率10.2%(前月は10.1%)

・輸出競争力の低下で、2013年の財貿易収支の赤字623億円超

・2013~14年、世界経済フォーラム(WEF)の競争力ランキング23位(5年前は16位)

(1)政府規制負担130位

(2)労使関係135位

(3)雇用と解雇144位

・法人税率34.4%(欧州主要国の中で最高)

・政府支出の対GDP比56.6%

極めつけが、1時間当たりの雇用コスト(農業と公共部門を除く)で34.3ユーロ。英国の20.9ユーロ、ドイツの31.3ユーロに比べても高い。構造改革に取り組んだスペインは21.1ユーロ、イタリアは28.1ユーロだ。

米企業からは「フランスでは働かない労働者の賃金だけ高くて、解雇しにくい」という苦情が漏れる。

欧州中銀も財政政策呼びかけ

南欧諸国の国債の無制限購入を表明し、ユーロを崖っぷちから救った欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は22日、「金融政策と並行して財政政策がもっと大きな役割を担うことが可能になれば助かるだろう」と表明した。

量的金融緩和の導入も視野に入れた発言で、ユーロ導入国に経済成長を促す財政政策や労働市場改革に取り組むよう求めた。

6月のユーロ圏のインフレ率は年0.4%。ギリシャ、ポルトガル、スペイン、スロバキアがすでにデフレに入り、エストニア、イタリアもそれに続く気配が濃厚だ。日本型のデフレ、低成長がすぐ目の前に近づいてきた欧州は「緊縮」より「成長」に目を向けなければ、暗くて長いトンネルに突入する。

第2四半期のドイツの成長率はマイナス0.2%。「緊縮の女王」メルケル独首相はドラギECB総裁の忠告を受け入れて、「成長の女王」に宗旨替えする必要がある。さもないと、「欧州の病人」フランスも、オランド大統領も瀕死の状態になりかねない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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