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【スコットランド独立投票】賛成が8ポイントリードの世論調査も 予断許さぬ大接戦

木村正人在英国際ジャーナリスト

英国ばかりか、今や世界中の注目を集めているスコットランド独立を問う住民投票がいよいよ18日に迫ってきた。分離独立運動を抱えるベルギーやスペインはやきもき、多民族のロシアや中国も気が気でない。

スコットランドの住民投票に重大な関心を示すエリザベス女王も14日、「国民が非常に慎重に(英国の)未来について考えることを望みます」と呼びかけた。

英王室は憲法上、政治問題に口を挟まないことになっているが、どちらに転ぶかわからない情勢に、さすがのエリザベス女王も黙っていられなくなったようだ。

大手世論調査会社YouGovのピーター・ケルナー社長が英国の外国特派員協会(FPA)でこのほど記者会見し、スコットランドの住民投票について解説した。

「本当に接近しています。結果を予測するのは難しい。2カ月前までは独立反対派が大幅にリードしていました。誰も独立賛成派がここまで勢いを増すとは思っていませんでした」

筆者作成
筆者作成

上のグラフをご覧下さい。賛成が反対を上回ったのは昨年8月の1回だけで、ほとんどの世論調査で反対が賛成を10ポイント以上リードしていた。

それが2カ月前からどんどん差が縮まり、9月7日付英日曜紙サンデー・タイムズとYouGovの世論調査で賛成が51%、反対が49%となり、再び賛成派が反対派を上回った。

保守党のメージャー首相が政権を維持した1992年の総選挙を除いて、すべての投票結果を的中させているケルナー会長が続ける。

「独立反対派のキャンペーンの張り方が非常にまずかったのが原因です。独立するとスコットランドはこんなに貧しくなるとか、英国通貨のポンドは使わせないとか、不安をあおる戦略でした。ウェストミンスター(中央議会)は脅しをかけていると、スコットランドの住民感情を逆なでしてしまったようです」

14日に発表された4つの世論調査は下のグラフの通りだ。

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英高級日曜紙サンデー・テレグラフの世論調査では賛成派が8ポイントもリード。しかし、その他の3つの世論調査では、反対派が巻き返している。

同
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独立反対派「ベター・トゥゲザー」の世論調査ではサンデー・テレグラフ紙とは正反対で、反対派が8ポイントリードしている。4つの世論調査の結果を見ると、大接戦であることがわかる。

筆者の個人的な印象を述べると、スコットランドのエイド・ワーカー、デービッド・ヘインズ氏がイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」に殺害された事件が、スコットランドの住民に国家の役割を改めて認識させたのではないかと思う。

スコットランド自治政府のサモンド首相は極めて優秀な政治家だが、国民の安全、領土保全となると、やはりスコットランド単独より、「ユナイテッド(連合)・キングダム(王国)」の方が頼りになる。

前出のケルナー会長は、1995年にフランス語を話す住民が約8割を占めるカナダ・ケベック州で行われた独立住民投票を例に挙げ、「揺り戻しの法則」についても指摘する。

世論調査で独立派が勢いを増しても、実際の投票となると、「現状維持」という現実的な選択に傾くという。こうした傾向は男性より、女性に強い。

ケベック州の場合、反対派が世論調査で20ポイントもリードしていたが、投票の2週間前に4ポイントまで縮まった。住民投票では賛成49.4%、反対50.6%と大接戦の末、何とか反対派が勝利した。

ドイツの大手銀行、ドイツ銀行は「もしスコットランドが独立を選ぶなら、1925年にウィンストン・チャーチルが英国を金本位制に戻したり、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が十分な流動性を供給するのに失敗し大恐慌を招いたりしたのと同じ政治的・経済的な失敗を繰り返すことになるだろう」と警鐘を鳴らした。

英国では3千人以上の犠牲者を出した北アイルランド紛争の反省から、北アイルランド、スコットランド、ウェールズ各地方の未来はそれぞれの地方の住民の意思に委ねることにした。

独立の是非を、「武器と流血」ではなく、「投票」という民主主義で決めるという信念は潔き良く、称賛に値する。しかし、グローバリゼーションの反動として民族主義が世界各地で覚醒する中、スコットランドの熱狂は予測不能な波紋と混乱を広げる恐れがある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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