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「アソコの反乱」から安倍首相にお願い 「プーチンになびかないで」

木村正人在英国際ジャーナリスト

ロシア正教の総本山教会で「マリアさま、どうかプーチン(現大統領)を追い出して」という過激な反権力パフォーマンスをゲリラ演奏して実刑判決を受けたあと、恩赦で釈放された女性バンド「プッシー・ライオット」のメンバー、マリヤ・アリョーヒナさん(26)とナジェジダ・トロコンニコワさん(25)。

2人は現在、英国を訪れ、反プーチン・キャンペーンを繰り広げている。

プッシー・ライオットのマリヤさん(右)とナジェジダさん(筆者撮影)
プッシー・ライオットのマリヤさん(右)とナジェジダさん(筆者撮影)

「プッシー・ライオット」は日本メディアでは「子猫の反乱」と訳されることもあるが、女性の「アソコ」を指す。18日夜、英議員会館でシンポジウムが行われ、2人は激辛の「プッシー・トーク」を繰り広げた。終了後、日本の安倍政権に何を望むのか、質問してみた。

マリヤさん「プーチンのロシアによるウクライナ東部の占領を支持しないでほしい。プーチンをボイコットし、側近たちに制裁を加えてほしい。(安倍さんが)首相であってもパンク(反権威主義)になれる」

ナジェジダさん「安倍首相には欧米諸国と隊列を組んでほしい。日本人はあまり外交圧力をかけるのを好まないかもしれないけれど、プーチンの場合、話は別よ。私は日本が大好き。夫も若いころ日本に住んでいたの」

2人ともとても素敵な女性だった。拘束期間も含め約1年9カ月、幽閉され、ロシアの刑務所はとてもひどかったという。今年2月、冬季五輪の期間中にソチを訪れた2人は身に覚えのない容疑で拘束されたり、警備のコサックにムチで襲われたりした。

オーストラリア・ブリスベンで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議でプーチン露大統領に厳しい姿勢を突きつけた欧米の政治指導者に対して、2人は「みんな立派なパンクよ」と称賛した。

7月にウクライナ東部で起きたマレーシア航空機撃墜事件では多くのオーストラリア人が犠牲になっており、親ロシア派を支援するプーチン大統領への反感が強まっていた。

マリヤさん、ナジェジダさんと他のメンバー1人の計3人は2012年2月、ロシア正教会の総本山、救世主キリスト大聖堂でプーチン首相(当時)に抗議する反権力ソングを演奏して逮捕された。同年8月、「フーリガン(暴徒)行為」罪で懲役2年の判決を受けた。

もう1人のメンバーは2カ月後、「守衛に止められ、楽器をケースから取り出すこともできなかった」という不服申し立てが聞き入れられ、釈放。ナジェジダさん、マリヤさんは刑が確定し服役したが、ソチ冬季五輪を前に昨年12月に恩赦を受けて釈放された。

マリヤさん(右)とナジェジダさん(同)
マリヤさん(右)とナジェジダさん(同)

「ロシアでプーチンの支持率が高いのは、すべてのメディアがプーチンのことを取り上げるからよ。だから複数政党の中から選ぶという意識を持つのが難しいの」

「プーチンがプッシーについて語るのは相応しくない。私たちはパンクだが、プーチンはパンクじゃない。プーチンはどこにでもいる愚かな家父長のように振舞っている」

「ロシア連邦保安庁(FSB)や治安当局に監視されるのは私たちにとっては日常生活のようなもの。ご近所は毎日、あいさつを交わすFSB職員。私たちに手を出せば、それがロシアの現状と世界に向かってさらけ出すことになるだけよ」

2人は世界に向け反プーチンという過激なパンクを奏で続ける。祖国の自由のために。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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