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【総選挙2014】投票率は史上最低か 野党不在で自民・公明が地滑り的勝利

木村正人在英国際ジャーナリスト

「安倍1強」続く

2014年を締めくくる総選挙は事前予想通り、与党の自民・公明が地滑り的勝利を収めるのが確実となった。NHKの選挙速報は自公で衆院の3分の2に届き、自民単独で300議席に迫る勢いだと伝えている。

野党で健闘したのは共産党ぐらいで、民主党をはじめ、維新の党、次世代の党などの不甲斐なさが改めて浮き彫りになる結果となった。

1955年の結党以来、自民党が政権から滑り落ちたのは計1527日間だけ。特に先の民主党政権で外交は混迷、円高で日本経済は大打撃を受け、東日本大震災と福島原発事故の不手際というあまりのひどさを目の当たりにし、有権者は「政権交代」に完全に幻滅してしまった。

これは自公の非というより、民主党の非、安倍晋三首相の経済政策アベノミクスにまさる経済政策を打ち出せないばかりか、離散集合を繰り返した野党全体の責任と言うほかない。

「白票」革命

選択肢のない選挙に意味などない。総務省によると、午後6時の投票率は34.98%。2012年の前回衆院選では同時刻の投票率が41.77%だっただけに、投票率は史上最低の前回59.32%を下回る恐れがある。

ポルトガル出身のノーベル文学賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴ氏の小説『Seeing』にこんな一節が出てくる。

その日は選挙の投票日だった。午前中は雨が降っていた。投票率は低かった。午後4時ごろ雨があがり、有権者は投票所に足を運び始めた。開票すると70%が白票だった。有効票は25%に達せず、内訳は右派が13%、中道が9%、左派が2.5%。

一週間後に投票をやり直したら、今度は白票が83%に達した。

投票率の低下は何も日本に限った現象ではない。5月に行われた欧州議会選の投票率は42.54%強。英国の総選挙でも2001年に60%を割り、米大統領選も50%台を低迷している。

先進国の民主主義が生活水準の向上を約束できなくなってしまったことが大きい。新興・途上国の輸出攻勢が先進国の失業を生み出し、賃金を押し下げる。

政治の役割が「富の配分」ではなく、「負担の配分」を決めることに変わり、有権者は投票所に足を運ばなくなってしまった。それなのに既存政党は旧態依然とした政治を続けている。低所得層の投票行動は右派か、共産党・左派かに二極化する傾向が強くなっている。

中道が勢力を失い、ますます過激な意見が受けるようになる。野党は政治活動を一から見直して、政治のモデルチェンジを図る必要がある。

財政と成長のバランスを

国際パブリック・リレーションズ会社Edelmanが27カ国を対象に継続調査しているトラスト(信頼)・バロメーターによると、日本の政府への信頼は2013年の32%から14年には45%まで回復している。

安倍首相は靖国神社参拝で中国や韓国の反発を招いたものの、尖閣問題をひとまず沈静化させ、中国の習近平国家主席と会談、超円高を是正し、失業率を3.5%まで改善させた。アベノミクスへの疑念が膨らんでいるものの、有権者は安倍政権に信認を与えた。

しかし、気になるのは、この2年で安倍首相があらゆる手段を使って円安・株高を進める政策を進めたものの、医療・年金・介護について「応分の負担」を求めるという痛みを伴う改革にはあまり手をつけていないことだ。

今回の総選挙も消費税再増税先送りについて民意を問いたいというのが最初の大義だった。

集団的自衛権の限定的行使容認に関連する安全保障法制、原発再稼働、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉、非正規雇用と正規雇用の格差解消、男女雇用の機会均等、子育て支援など、安倍政権の前には課題が山積している。

最大の難問は、総選挙の期間中、ほとんど議論されることがなかった財政再建である。「家計の金融資産1600兆円」というものの、企業の負債や政府の累積債務を差し引いたネットの資産は200兆円しか残っていない。(日本格付研究所)

経常収支の黒字がなくなったら、毎年の財政赤字を埋めるため40兆円ずつ取り崩せば、わずか5年で食いつぶしてしまう勘定だ。17年に先送りした消費税の再増税を実施しても20年度の財政健全化目標を達成することはとてもできない。

安倍首相が今回の総選挙で得た「白地手形」でこれから何をするのか誰にも予想はつかない。しかし、安倍首相が真の愛国者なら日本の未来を見据える必要がある。

日本が破綻しないよう「財政と成長」のバランスを取りながら、対中関係の改善、非正規雇用と正規雇用の格差解消、男女雇用の機会均等、子育て支援に最優先で取り組んでほしい。財政が破綻したら、国防の土台が大きく揺らぐことになる。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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