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ロシアが破綻寸前 政策金利17%に引き上げ 98年ルーブル危機の再来

木村正人在英国際ジャーナリスト

通貨下落の怖さ

ロシア通貨ルーブルが1ドル=67ルーブル台まで急落したことから、ロシア中央銀行は15日深夜(ロンドン時間)、政策金利を年10.5%から17%へと一気に引き上げた。

ロシア中銀の「ショック・アンド・オー」でルーブルは1ドル=59ルーブル台まで戻しているが、予断は許さない。

1992年のポンド危機では、投資家ジョージ・ソロス氏のファンドにポンドを売り浴びせられた英国中銀・イングランド銀行は政策金利を10%から12%、最後は15%まで引き上げた後、市場介入をあきらめ、ポンドは暴落した。

ロシア中銀は国内金融機関の短期外貨流動性の拡大を図るため、外貨建てレポ・オークションの枠を15億ドルから50億ドルに拡大した。7月以降、欧米諸国による制裁強化でロシアの大手銀行や企業は海外金融市場での資金調達を制限されているため、国内金融市場で外貨が急激に不足している。

ロシア中銀は11日に主要政策金利を1%上げ10.5%にしたばかり。ウクライナ危機をめぐる欧米諸国の経済制裁、不確実性の上昇に加えて、原油価格の急落がロシア通貨を直撃している。

ノルウェーやメキシコなど資源国の通貨は軒並み売られている。

ロシア中銀は17%への利上げについて、「最近、急激に進んだ通貨安やインフレのリスクを限定する必要があった」と説明した。6.5%の引き上げ幅はロシアが債務不履行に陥った1998年のルーブル危機以来の大きさ。

円資産は国外に逃避しないため円の重石になっているが、ルーブル暴落とインフレは通貨安の怖さを浮き彫りにしている。

1998年のルーブル危機が再来

強気の姿勢を崩さないプーチン大統領は最大の危機に直面している。

クリミア編入に端を発するウクライナ危機でロシア国内から資本が流出、米国や欧州連合(EU)による経済制裁に加えて、石油輸出国機構(OPEC)の原油増産でルーブルの下落が止まらない。

ロシアは輸出の約7割、連邦予算の歳入の半分を原油・天然ガスに頼る。2年半前は1バレル=120ドルを超えていた北海ブレント原油価格はついに60ドル台まで下がってしまった。

ロシアの財政は1バレル=100ドルでは赤字に転落し、60ドル台では大幅赤字になる。来年の成長率は対国内総生産(GDP)比でマイナス4.5~4.7%に転落する恐れが膨らんできた。

CDS保証料率は危険水域に

ルーブル危機でも同じことが起きた。ロシアの状況がどれだけ、まずいのか数字を拾ってみる。ロシア国債の金利とクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)保証料率を見てみると――。

10年物 13.2% 549.77

5年物 13.69% 540.63

2年物 14.6% 559.64

非常にまずい状態だ。

ロシアの外貨準備高は10月末で4286億ドル。経常収支も大幅黒字。通貨下落が「負の連鎖」にはつながりにくいという見方もあったが、原油価格の急落を追い風に一気にルーブルを売り浴びせる市場に対して、プーチン大統領がどこまで持ちこたえられるかがポイントだ。

クリミア編入の強行に続いて、ウクライナ東部で「共和国」創設を宣言した親ロシア派勢力への支援継続を示唆するプーチン大統領がロシアにとって最大のリスク要因になっている。

今年の資本流出は1200億ドルを超える見通しだ。

どう出る、プーチン大統領

産油国サウジアラビアが原油価格の下落を容認しているのは、プーチン大統領を窮地に追い込むことで、シリア内戦、米国家安全保障局(NSA)の監視システムを暴露したエドワード・スノーデン容疑者の身柄引き渡し、ウクライナ危機をめぐって、ことごとくロシアと対立する米国のオバマ大統領に恩を売るためとの観測も流れる。

また、米国のシェールガス・オイル潰しとの見方もあるが、真偽はわからない。サウジアラビアなど中東の産油国が原油安によって市場への影響力を再び取り戻そうとしているのだろうか。

ただ、確実に言えるのは、米国やEUの経済制裁でロシアの生命線である原油・天然ガスの開発が思うように進まなくなっていることだ。

プーチン大統領は、ロシアから黒海海底を経由して欧州中心部まで天然ガスを輸送するパイプライン敷設計画「サウスストリーム」の中止を発表。

ロシア石油最大手の国営ロスネフチと米エクソンモービルが北極海大陸棚の共同探査計画を中断。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルも政府系ガスプロムネフチとのシェールオイルの共同開発を停止した。

ロシアも米国やEUなどの経済制裁に対抗して農畜産物の輸入禁止を発動しており、ウクライナ危機は「経済戦争」の様相を呈し、ロシア経済だけでなくEU経済にも暗い影を落とし始めている。

再びルーブル危機が起きれば、プーチン大統領は一段と苦しくなり、国内での立場を守るため態度をますます硬化させる恐れがある。

原油価格が1バレル=30ドルを割っていた1997~98年、北方領土は最も解決に近づいた。しかしこの時、ロシアの大統領は酒飲みのエリツィン氏だった。

来年にプーチン大統領の訪日を準備する安倍政権は、ルーブル危機再来でプーチン大統領がウクライナ危機に対してより強硬になるのか、宥和的になるのか、まずはじっくり見極める必要がある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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