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安倍政権下で日本は世界第4の軍事大国に IHS報告

木村正人在英国際ジャーナリスト

国際調査機関IHSは19日、世界91カ国(国防支出全体の98%)の2014年国防予算をまとめた。それによると日本の国防支出は546億ドルで、世界第4位にアップしている。

世界全体では原油安の影響で最大の軍備拡張地域だった中東・北アフリカの国防支出が激減し、今後2年間は横ばいになる見通しだ。

2014年国防予算 (億米ドル)

1米国 5869.20

2中国 1762.52

3英国 580.72

4日本 546.14

5ロシア 544.04

6フランス 526.49

7サウジアラビア 484.57

8インド 477.83

9ドイツ 429.71

10ブラジル 344.34

11オーストラリア 329.51

12韓国 326.01

13イタリア 269.39

14カナダ 180.28

15トルコ 172.02

16アラブ首長国連邦(UAE) 153.05

17台湾 146.60

18イスラエル 132.02

19スペイン 128.25

20アルジェリア 120.26

(注)2014年の米ドルがベース。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が今年4月に発表した2013年の国防支出では日本は486億ドルで世界8位だった。

画像

(注)2013年の国防支出は当時のレート。比較する場合は12年のレートに換算している。

日本の防衛予算(防衛関係費)の推移を見てみよう。

財務省2014年10月資料から
財務省2014年10月資料から

(注)SACOは沖縄に関する特別行動委員会の略称。

中国の台頭で沖縄・尖閣諸島など離島防衛を強化する必要性に迫られた日本が防衛予算を増やしていることが上のグラフを見れば一目瞭然だ。

欧米諸国が国防予算を削減する中、政府債務が国内総生産(GDP)の2倍を超える日本が中国の圧力で防衛予算を増やさざるを得ないのは非常に苦しい。

15年度防衛予算の概算要求は過去最高の5兆545億円になっている。日本のGDPは13年度、14年度が実質で530.6兆円、523.8兆円なので15年度にGDPの1%を突破する可能性は極めて大きい。

下のグラフィックは15年度概算要求から主な事業を示したものだ。

防衛省資料から
防衛省資料から

国の守りにハードパワーは欠かせない。しかし、カネがかかる。中国との軍拡競争に巻き込まれれば、日本の財政はさらに逼迫する。

IHS報告書のポイント

(1)2010年には世界の国防支出の約3分の2を占めていた北大西洋条約機構(NATO)の比率が19年までに5割を割り込む。14年のNATO全体の国防支出は8696億ドルで世界の54.4%だが、20年までに8379億ドル、48.5%まで減少する。

米国は19年度までにさらに75億ドルの国防支出削減に取り組むとIHSはみている。14年度の投資、調達、研究・開発支出はこの10年間で最低になる。しかし15年度はさらに下がって1584億ドルになり、16年度から戻り始めるだろう。

(2)アジア地域の国防支出の伸びは14年は3.3%、15年にはさらに4.8%に膨らむ。

このまま行けば現在は世界の25%以上を占めるアジア・太平洋諸国の国防支出の総額は20年までに5471億ドル、世界の30%以上まで膨らんで米国を追い越す。現時点では米国はアジア・太平洋諸国の総額を1700億ドル上回っている。

原油安は中国やインド、インドネシアの財政状況を潤し、20年までに世界の国防支出のウエイトは西欧や北米の先進国から新興国、特にアジア諸国にシフトする。15~20年にかけてアジア・太平洋諸国の国防支出は堅調に増大する。

(3)ロシア・ルーブル暴落のおかげもあって、英国は14年に国防支出を2%削減したにもかかわらず、昨年の世界4位から3位に返り咲く。

(4)ロシアは国防支出は14年に17.8%増え、544億ドルに。15年に過去最高の626億ドルに達する見込み。しかし、ウクライナ危機に対する経済制裁や原油安で16年、17年のロシアの国防支出計画は見直しを迫られそうだ。

(5)インドは20年までに世界3位の国防支出大国に。

(6)過去3年間は原油高もあって中東・北アフリカでは、特にアルジェリア、オマーン、サウジアラビアに牽引される形で国防支出が急激に拡大した。

11~14年にかけて中東・アフリカ地域の国防支出は1085億ドルから1402億ドルに、29.6%も増えた。地域としては世界最大の伸びを示した。

原油収入が1バレル=65ドル以下に落ち込めば、中東や北アフリカの国防支出は劇的に抑制されるだろう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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