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車椅子のホーキング博士の切ない愛にホロリ 主演男優レッドメインにゴールデン・グローブ賞

木村正人在英国際ジャーナリスト

米ハリウッド外国人記者クラブが主催し、アカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデングローブ賞授賞式が11日行われ、リンクレイター監督の米映画『6才のボクが、大人になるまで。』が映画ドラマ部門の作品賞、監督賞など最多の3冠に輝いた。

難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う天才物理学者スティーブン・ホーキング博士(73)と元妻の半生と愛を描いた英映画『博士と彼女のセオリー』が映画ドラマ部門の主演男優賞、作曲賞の2部門を受賞した。

筆者も年末、英紙タイムズの読者サービスで『博士と彼女のセオリー』の試写会に出かけた。主演男優賞に輝いたエディ・レッドメイン(33)が演ずるホーキング博士は本人以上に本人そっくり。これぞ「天才」と思わせる演技ぶりだった。英国映画界は力強く復活している。

レッドメインは英名門イートン校でウィリアム王子と同学年。ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで美術史を学びながら演劇を続けた。2010年、舞台劇『レッド』で英ローレンス・オリビエ賞の助演男優賞、米ニューヨーク公演でトニー賞の助演男優賞を受賞する。名作ミュージカルを映画化した『レ・ミゼラブル』にマリウス役で出演している。

ホーキング博士役は、英国ではレッドメイン以上の人気を誇るベネディクト・カンバーバッチ(38)も英BBC放送のTV映画『ホーキング』(04年)で演じている。レッドメインがイートン校なら、カンバーバッチは名門ハーロー校で演劇を学んだ逸材。

カンバーバッチはBBCのTVシリーズ『SHERLOCK シャーロック』で大ブレークした。ハリウッドでの争いはレッドメインがこれで一歩リードした格好だが、2人ともこれからが楽しみな俳優だ。

映画『博士と彼女のセオリー』は、「車椅子の宇宙物理学者」として世界的に有名なホーキング博士がケンブリッジ大学院で理論物理学を学んでいたとき、恋に落ちた女性ジェーン・ワイルドさん(70)との愛のストーリー。

1963年、ホーキング博士は、重い筋肉の萎縮と筋力低下をきたし2年後には呼吸筋麻痺で死亡する「ALS」と診断される。しかし、若い2人は結婚。博士はジェーンの支えを受け、現代宇宙論に大きな影響を与える研究を次々と発表していく。

ジェーンさんの自伝を原作につくられており、信仰と科学、献身と愛の微妙なすれ違いが2人の距離を少しずつ広げていく様子が繊細に描かれている。悲しくも、切ない愛の物語だ。

ホーキング博士が宇宙理論を発見するプロセスが描き切れていないという批判もあるが、愛と信仰、科学の真理が巧みに描かれている。

2人が結婚したのは65年。博士の余命が2年と診断されているのに結婚した理由について、ジェーンさんは2004年、英日曜紙オブザーバーのインタビューにこう答えている。

「私たちの世代は最も恐るべき核の時代を生きていました。4分間の警告とともに世界は終わる、そんな時代でした。だから今一番大切なことをしないといけないという思いがありました。だから人生に理想を求めたのです」

『博士と彼女のセオリー』は、定番のハッピーエンドではないけれど愛の温もりと素晴らしさを教えてくれる英国らしい映画だ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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