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女性と若者の冷遇が日本をダメにする FAXよ、さらば

木村正人在英国際ジャーナリスト

社長が高齢になると業績が落ちる

カリフォルニア大学バークレー校のT・J・ペンペル教授がロンドンにあるシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で「人口構成、性、日本経済が抱える問題」と題して講演した。

男社会と年功序列が日本経済を停滞させているという内容だった。少子高齢化が加速し、企業の年齢構成にも暗い影を落とす。

東京商工リサーチによると、2014年の全国社長の平均年齢は60.6歳(09年は59.57歳)と高齢化が一段と進んだ。70代以上は09年の17.2%から14年は22.5%まで上昇している。

高齢の社長でスマートフォンなど最先端技術を使いこなせる人は多くない。若い秘書が付きっきりで使い方を教えている例も耳にする。これではとても世界の最先端ビジネスについていけない。

東京商工リサーチは「社長が高齢になるほど業績が落ち込み、『減収減益』企業の比率が高くなる」と分析している。

ペンペル教授の講演で一番驚いたのは日本でのFAX普及率の高さである。人口1人当たりのFAX普及率を示した教授のスライドを紹介しよう。

日本のFAX普及率は英国の3.6倍

ペンペル教授のスライドから
ペンペル教授のスライドから

筆者が暮らす英国は0.026なのに日本は3.6倍の0.094。米紙ワシントン・ポストは東日本大震災の福島第1原発事故でも当初、オペレーターから海水注入が電話とファクスで政府に伝えられたと報じた。

世界では環境保護のためペーパーレス化が進み、電子メールの添付ファイルで資料が送られてくる。紙代も通信コストもFAXの代金、メンテナンス費用もまったくかからない。

文化の違いという指摘もあるが、FAX普及率は日本企業の老化現象と間違いなく関係している。

ロンドンで活動していると、携帯電話から国際電話をかけてくる日本人が多いことに本当にビックリする。バカ高い電話代は会社持ちだから気にならないようだ。スカイプなどの無料テレビ電話サービスは使ったことがないという人もいる。

銀行のオンラインバンキングもセキュリティが乱数表1枚というのには驚かされる。英国の銀行は利用のたびにバンクカードを携帯用機器(暗号化マシーン)に挿して乱数をパソコンに入力する仕組みだ。

少子高齢化が極端に進んだ日本に最先端技術はもう必要ないというのだろうか。

ウーマノミクスの取り組み

女性を活用するウーマノミクスを掲げる安倍晋三首相は2014年度までに約20万人分の保育を集中的に整備、17年度までにさらに約20万人分の保育の受け皿を確保し、待機児童解消を目指す。

安倍内閣の顔ぶれ(首相官邸HPより)
安倍内閣の顔ぶれ(首相官邸HPより)

20年までに

(1)25歳~44歳の女性就業率を73%に(12年は68%)

(2)第1子出産前後の女性の継続就業率を55%に(10年は38%)

(3)男性の育児休業取得率を13%に(11年は2.63%)

(4)指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度に

(5)19年度末までに放課後児童クラブを約30万人分新たに整備

――することを目標にしている。

世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)が世界142カ国の男女平等度を指数化した「ザ・グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2014」は次の通りだ。

(1)健康医療の機会 37位(2006年は1位)

(2)教育機会 93位(同60位)

(3)政治参加 129位(同83位)

(4)経済的平等 102位(同83位)

(5)総合 104位(同80位)

驚くべきことに日本の男女平等度は改善されるどころか後退している。ペンペル教授のスライド(総務省、厚労省、国際労働機関)をもとに簡単なインフォグラフィックスを作ってみた。

筆者作成
筆者作成

女性のマネジャー(管理職)率は米国の43%に比べ、日本は10.6%と格段に低い。これが役員になるとさらに低くなる。

調査報告書GMI Ratings’ 2013 Women on Boards Surveyのデータをもとに女性役員率のインフォグラフィックスを作ると――。

同

ノルウェーは36.1%なのに対し、日本は何と1.1%なのだ。ペンペル教授は「日本企業は非常に非効率。長時間労働と低い生産性が特徴だ」と指摘する。

長時間労働で低い生産性

労働1時間当たりの国内総生産(GDP)は日本は35.8ドル。経済協力開発機構(OECD)平均が39.7ドル、イタリアでも37.1ドル、日本はスロベニアの34.9ドルを少し上回る程度だという。

日本企業の特徴は長時間労働。家事に出産、子育て、介護に時間を割かなければならない女性に長時間労働は無理な相談で、不本意な非正規労働を強いられることになる。

同

OECDのデータから不本意非正規雇用の数を調べると、日本が317万人と断トツに多く、うち女性が217万人を占める。

もっと問題なのは女性(25~29歳)の就業率が上昇するについて、合計特殊出生率が下がっていることだ。これは女性の就業率が上昇すると同出生率が増える北欧諸国とは逆の傾向を示している。

同

1990年代のバブル崩壊後、非正規雇用が増え、若者と女性が正規雇用から締め出された。「失われた20年」で企業の老化が進み、生産性が落ち込んでしまった。

日本女性は日本男性に比べてコミュニケーション能力に優れ、語学が達者だ。真面目で几帳面なので優秀な人が多い。こうした人材を虐げ、排除してきた結果、今の日本の衰退がある。

日本再生は、年老いた男社会から、女性と若者の力を活用する生き生きとした社会に転換していくことから始める必要がある。「FAXよ、さらば」なのだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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