Yahoo!ニュース

【2015年統一地方選】若者を投票所に向かわせる工夫を

木村正人在英国際ジャーナリスト

深刻な候補者不足

統一地方選は26日告示の10道県知事選、29日告示の5政令市長選、4月3日告示の41道府県議選、17政令市議選とともに4月12日に投開票される。後半戦の市区長・市区議選などの投開票は同月26日だ。

大きな争点は、安倍晋三首相の経済政策アベノミクスによる賃上げや雇用改善、観光客増加が地方経済を潤したかどうか。安倍政権が進める農協改革や原発再稼働も争点になる。

しかし、隠れた最大の争点は地方自治を担う候補者が不足し、統一地方選に対する有権者の関心が著しく低下していることだ。

昨年行われた都道府県、市区町村の首長選、議会議員選の計894件について総務省が調査したところ、3割弱の267件が無投票当選。現在の統計の取り方になった11年以降で一番多かったという。

今回の統一地方選でも10道県知事選の立候補者数は現職10人、新人15人の計25人で、統一地方選としては過去最少を記録した。

自民党は知事、政令市長の4選は公認・推薦しないと定めるが、日経新聞によると、北海道、福井、徳島、大分で4選を目指す現職を地方組織が推薦した。市町村レベルでは、候補者不足はさらに深刻になる。

下がり続ける統一地方選の投票率

総務省の統計では1951年(昭和26年)をピークに統一地方選の投票率は激減している。

総務省資料より引用
総務省資料より引用

前回2011年の投票率は都道府県知事選52.77%(1951年82.58%)、都道府県議選48.15%(同82.99%)、市区町村長選51.54%(同90.14%)、市区町村議選49.86%(同91.02%)。

日常生活に密着して行われる地方自治は「民主主義の学校」とよく言われるが、地方自治への関心の低下は有権者の民主主義離れを象徴している。

昨年12月の総選挙でも小選挙区選の投票率は戦後最低だった前回2012年の59.32%を下回る52.66%。今回の統一地方選で投票率がさらに下がると民主主義離れは止められなくなる。

都市と地方の格差、大企業と中小・零細の格差、正規雇用と非正規雇用の格差、女性と男性の格差、世代間の格差。バブル崩壊で1億総中流の幻想は崩れ、世の中が公平かつ公正と感じる人は次第に減っている。

しかし、政権交代と民主党への幻滅が政治と選挙へのシニシズム(冷笑主義)を増幅させてしまった。若者世代は絶望的な世代間格差に政治への関心を失っている。

内閣府の年次経済財政報告05年度版によると、将来世代と1943年以前に生まれたお年寄り世代の受益と負担の格差は1世帯当たり9460万円。

受益と負担の格差(財務省資料より)
受益と負担の格差(財務省資料より)

しかし、日本では少子高齢化が進み、将来世代は圧倒的なマイノリティーだ。投票所に足を運んでも勝つ見込みがない。だから、若者の投票率も必然的に低下する。衆院選の年代別投票率をみると、20代が断トツで低い。

総務省資料より引用
総務省資料より引用

選挙権年齢18歳以上に引き下げ

若者の政治離れに歯止めをかけようと、来年夏の参院選から、選挙の投票年齢が現在の20歳以上から18歳以上に引き下げられる。1945年に25歳以上の男性から20歳以上の男女に選挙権年齢が引き下げられて以来70年ぶりの改正だ。

国立国会図書館が2014年、世界191カ国・地域を調査したところ18歳までに選挙権を認めているのは176で92%にのぼっていた。

これまで選挙権年齢の引き下げに慎重だった自民党が安倍首相になって憲法改正を視野に入れ、保守化していると言われる若者層をターゲットにし始めたことが70年ぶりの改正を後押しした。

日本人の18歳人口121万1千人、19歳人口121万6千人だから、有権者が242万7千人増える。現在の有権者数が1億123万6千人、新たな有権者は全体の2.34%だ。

野党が総崩れする中、1強状態の安倍首相は憲法改正の道を進んでいる。筆者はもともと憲法改正派だが、政治への無関心が広がる中、憲法改正が行われることに強い不安を覚える。

海外メディアの工夫

もし日常の生活や仕事、原発再稼働、アベノミクス、格差に少しでも疑問があるのなら、投票所に足を運ぼう。入れる政党や候補者がいなければ白票でも良いから投票しよう。

海外では若者の政治参加を促すため、メディアもさまざまな工夫を凝らしている。

スウェーデンの公共ラジオ、スウェーデン・ラジオは初めて投票する若者たちのためにスマートフォン用のアプリを開発した。タッチパネルで与野党の候補者を1人ずつ選ぶとラップ・バトルを始めるのだ。

短い動画とフレーズを組み合わせることで若者が遊び感覚で民主主義に入門できるという趣向だ。スウェーデン・ラジオは他にも若者向けにアプリを開発しているという。

日本でも、若者たちの視聴率が高いメディアへの選挙公報の露出を増やすなどの工夫が欠かせない。若者が参加しやすい形の政治討論や政治集会もどんどん企画していくべきだ。若者の投票率が上昇してくれば、必ず被選挙権年齢も引き下げようという議論が起こってくる。

そうすれば政治が活性化する。

多数派の高齢者に政治の重心が傾斜していくシルバー民主主義の流れを若者の方に逆転して行かなければ、日本社会の老化は加速する。そのためには政治も、メディアも、地域も努力を惜しんではならないと思う。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事