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やはり中国の死刑執行が断トツ 新疆ウイグル自治区で「厳打高圧」

木村正人在英国際ジャーナリスト

中国は1千件以上

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは1日、2014年に世界で確認された死刑執行数は前年を約22%下回る607人(前年778人)だったと発表した。

(C)アムネスティ・インターナショナル
(C)アムネスティ・インターナショナル

中国(1千件以上)、イラン(289件以上)、サウジアラビア(90件以上)、イラク(61件以上)、米国(35件以上)の順で多い。

中国の死刑執行数は他の国をすべて合わせたよりはるかに多いが、正確な数字は「国家機密」として取り扱われているため闇の中だ。このため607人は中国を除いた数字になっている。

中国は新疆ウイグル自治区のテロと暴力犯罪に対抗する「厳打高圧」キャンペーンの手段として死刑を使っている。7千人以上の住民が見守る中で見せしめとして55人の集団裁判が行われ、3歳の幼女ら4人を故意に殺害したとして3人に死刑判決が言い渡された。

14年6月には7つ事件で殺人、放火、盗難、爆発物の非合法製造・貯蔵・輸送などテロ組織に関与したとして13人が処刑された。8月には、テロ攻撃に関連して8人のウイグル族に対して死刑が執行された。

ウイグル族のイスラム過激派はパキスタンやアフガニスタンのイスラム過激派とつながりを深め、両国の辺境部族地域のテロリスト養成キャンプで訓練を受けていると南アジア専門家は分析する。

中国国内の治安問題に頭を痛める習近平国家主席は10万人の武装警察を新疆ウイグル自治区に投入、抗議活動を弾圧し、テロ壊滅に全力を挙げている。

死刑はテロの抑止力にならない

筆者撮影
筆者撮影

アムネスティのCHIARA SANGORGO女史(写真の左端)は筆者に「中国は新疆ウイグル自治区のテロ対策として死刑を使っているが、死刑はテロの抑止力にはならない」と指摘する。

「虎もハエも同時に叩く(大物幹部も末端官僚も摘発する)」を合言葉に反汚職キャンペーン(実は権力闘争)を展開する習主席にとって死刑は腐敗を一掃する強烈なムチになっている。

判明しているデータからみると、死刑執行の8%は薬物犯罪。これは英国とのアヘン戦争が中国の「恥辱の世紀」の始まりだったことと密接に関係している。横領、偽札造り、収賄などの経済犯罪は全体の15%。

死刑見直し気運もテロ弾圧で相殺

しかし、中国でも死刑制度を見直す気運が生まれている。死刑判決が上級審でひっくり返され、自白を強要するなど違法な取り調べが明るみにでたり、すでに死刑が執行された事件の見直しが行われたりしたため、世間の関心が高まっている。

中国紙・南方週末によると、死刑判決をすべて審査している最高裁は13年、全体の39%についてさらなる証拠が必要として下級審に差し戻した。

こうしたことから、日本の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)は昨年11月、死刑が適用される犯罪を55から46に減らす刑法改正案の審議を始めたという。

しかし、中国では「司法の独立」は確立されておらず、司法権も中国共産党に属している。このため、アムネスティは中国に対し毎年、死刑の宣告数と執行数を公表するよう求めているが、中国は応じていない。

米国に拠点を置く人権保護団体「対話基金」が中国の司法関係者から入手した情報によると、13年の死刑執行数は2400人で前年比20%減だった。02年の1万2000人から大幅に減った。しかし新疆ウイグル自治区で再び増える恐れがある。

エジプト、ナイジェリアで死刑判決が激増

死刑執行が確認された国の数は前年と同じ22カ国で20年前の41カ国に比べるとほぼ半減。バングラデシュ、ボツワナ、インドネシア、インド、クウェート、ナイジェリア、南スーダンでは13年には死刑が執行されていたが、14年はゼロだった。

世界140カ国は死刑を廃止している。また、死刑判決を受けた9カ国112人が刑の執行を免除された。

しかし14年に死刑判決が言い渡された件数はわかっているだけで55カ国2466件。13年の57カ国1925件より増えた。

事実上の軍事クーデターで政権が交代したエジプト(13年109件、14年509件)やナイジェリア(13年141件、14年659件)で死刑判決が激増したことが背景にある。

エジプトの都市ミニアでは昨年3月、警官殺傷、警察署放火と署内の拳銃盗難、非合法グループへの所属などの罪に問われた220人に死刑が宣告された。12月にはカイロ近郊ギザの警察署を襲撃、警官11人を殺害したとして188人に死刑判決が言い渡されている。

アムネスティ・インターナショナルのアドバイザー、Oluwatosin Popoola氏は筆者に「イスラム組織ムスリム同胞団出身のモルシ元大統領の支持者が抗議行動に参加し、約1千人に対して集団裁判が行われたのが死刑判決が激増した最大の理由。エジプトの治安が乱れ、暴力事件が増えたことも影響している」と話した。

ナイジェリアはアムネスティの求めに応じて情報開示したため、件数がハネ上がった。また、イスラム過激派ボコ・ハラムとの戦闘を拒否した兵士に対して大量に死刑判決が言い渡されているという。

6年間、死刑の執行を停止していたパキスタンでは140人以上が犠牲になった学校襲撃事件をきっかけに、テロへの抑止力として7人に死刑が執行された。

日本の死刑の宣告数と執行数は

アムネスティのデータから筆者作成
アムネスティのデータから筆者作成

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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