ドイツが戦車100両増強 ロシアにらみ国際放送も強化
お蔵入りの主力戦車を買い戻す
ドイツ国防省の報道官が、350両から225両に減らす計画だった主力戦車の数を再び328両に引き上げると発表した。適切な装備を適切な場所に短時間に展開するのが狙いだ。
ドイツ国防省は4年前、主力戦車の削減計画を立て不要になった主力戦車を売却したが、それを買い戻して2017年に装備を近代化する方針だ。
ロシアのプーチン大統領によるクリミア編入と、それに続くウクライナ危機を受け、北大西洋条約機構(NATO)は既存の即応部隊を1万3千人から3万人に増員した。
即応部隊の中に2~3日の間にどこにでも展開できる5千人規模の緊急部隊を創設する。
ウクライナ危機をめぐり和平交渉を仲介してきたドイツのメルケル首相はプーチン大統領の真意をはかりかね、最悪の事態を想定して備え始めている。
NATO加盟国のバルト三国や旧東欧諸国にプーチン大統領が手を出さないよう抑止力を高めるにはハードパワーを増強するしかない。
ロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が世界各国の軍事力を分析した「ミリタリー・バランス2015」でロシアと独・仏・英、そして米国の主力戦車の数を比較してみた。
ドイツ国防省の報道官が発表した数字とは異なるが、ロシアの主力戦車がいかに多いかがわかる。
戦車のイラストはこのサイトから引用した。
東西ドイツ統一、欧州債務危機を経て、ウクライナ危機でドイツは経済力だけでなく、外交力でも欧州の主導的な地位に立った。ドイツの弱点とされる軍事力も増強する流れになっている。
プロパガンダ戦争の再燃
プーチン大統領は2005年に外国語ニュースチャンネル、ロシア・トゥデイ(RT)を開設。ウクライナ危機では欧米メディアの報道ぶりを批判し、米国が軍事的に介入しているとデマを流してきた。
ロシア・トゥデイの国際放送を通じプーチン大統領にとって都合の良い国際世論を形成するのが狙いだ。
ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国など旧ソ連諸国は、モスクワからロシア・トゥデイやインターネット、ソーシャルメディアを通じてロシア系住民向けに発せられるメッセージに戦々恐々としている。
プロパガンダ戦争は決して新しい事象ではない。冷戦時代も東西両陣営で活発に行われていた。
ドイツはロシアのプロパガンダ戦争に対抗するため、この4月から国際公共放送ドイチェ・ウェレで新しい英語放送「DWNews」をスタートさせる。
ドイチェ・ウェレのPeter Limbourg会長は「このニュースサービスはプーチン大統領のプロパガンダに対抗するため設計されている」とメディアに語っている。
メルケル首相は財政健全化を進める中、ドイチェ・ウェレの予算を2%、2億9400万ユーロ(374億円)も増額。1月にはウクライナの首都キエフに支局を開設した。
しかしドイチェ・ウェレの職員からは早くも「ロシアに対抗してプロパガンダを始めたら、同じ穴のムジナになるだけ」と警戒する声が上がっている。
ドイチェ・ウェレは昨年9月、国営放送・中国中央テレビ局(CCTV)と協力する方針を発表したため、ジャーナリストの非政府組織「国境なき記者団」から「中国での視聴者を獲得するために表現の自由を犠牲にするべきではない」と批判されている。
牙を剥き始めたプーチン大統領、南シナ海、東シナ海で米国の秩序にあからさまに挑戦し始めた中国の習近平国家主席のおかげで、世界は地政学の時代に逆戻りした。
中国の圧力にさらされている日本でも防衛力と戦略的な広報外交の強化が急務になっている。
中国の軍備増強ぶりをみると、島嶼(とうしょ)防衛力の強化、集団的自衛権の限定的行使容認で日米同盟を深化させることは避けては通れない。批判的な日本メディアは現実に目を見開くべきだ。
中国共産党との違いを明確にするため、戦後、日本が「表現の自由」「法の支配」「基本的人権」「自由主義」「民主主義」「平和主義」を発展させてきたことを広報外交の柱に据えることが肝要だ。
旧日本軍慰安婦問題の河野談話や戦後50年の村山談話をめぐる歴史論争で一部の雑誌や新聞は部数を伸ばせたかもしれないが、日本の広報外交にとってはマイナスにしかなっていない。
(おわり)