アベノミクスの恩恵いずこ? 消費支出は最大の落ち込み
日米首脳会談でオバマ米大統領との親密さをアピールし、日本の首相として初めて米議会上下両院合同会議で演説した安倍晋三首相。気分は高揚しているに違いないが、庶民の暮らし向きは一向に良くならない。
総務省の家計調査によると、今年3月の家庭の消費支出は独り暮らしを除く世帯で31万7579円。物価の影響を除いた実質増減率は前年同月を10.6%下回った。
今の統計の取り方になった2001年以降で最大の下げ幅。昨年4月の5%から8%への消費税引き上げが大きく響いており、駆け込み需要の反動が出た格好だ。実質の消費支出は12カ月連続のマイナス。
総務省の資料(下図)をみると、(1)3%の消費税が導入された1989年4月(2)5%に引き上げられた97年4月(3)8%に引き上げられた昨年4月――とも駆け込み需要の反動が出ている。
バブル崩壊前の(1)では約半年で消費税の影響から抜けだしたのに対し、バブル崩壊後の(2)では11カ月目でようやく消費支出が増税前の水準に戻っている。今回の(3)では回復するまでに1年以上かかりそうな雲行きだ。
原油安と円安の恩恵を被った輸出企業は過去最高益にわき、春闘ではベア(ベースアップ)という言葉が定着した感がある。しかし厚生労働省の3月の毎月勤労統計調査では、現金給与総額から物価上昇分を除いた実質賃金は23カ月連続で減少。
安倍首相の経済政策アベノミクスで大きく改善したのは株価、不動産価格、輸出企業の収益、失業率。中国を中心としたアジアの「爆買」観光客も大挙して日本にやってきた。
しかし、ロンドンの邦銀関係者、アナリスト、日本企業関係者に尋ねると、輸出企業の賃金は一時的には上がっても、日本国内への投資はあまり期待できないと口をそろえる。賃金が持続的に上昇しない限り、消費も増えず、国内投資も増えない。
景気の好循環は日本では起きていないというわけだ。
日銀は4月30日の金融政策決定会合で、消費者物価指数(CPI)上昇率2%の達成時期を「15年度を中心とする期間」から「16年度前半ごろ」(日銀資料の下図参照)にずらした。原油安と消費の低迷が原因だ。
原油価格が回復する16年度前半に2%の目標を達成できる日銀の黒田東彦総裁は一息つけるかもしれないが、消費がさらに冷え込むかもしれない。産業どころか日本経済の空洞化が進んでいるように見える。
インフレ2%を目標に置くより、13年時点で1.43の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子供の数)を人口維持に必要な2.08まで引き上げることに全力をあげる方が賢明に思えるのだが…。
(おわり)