Yahoo!ニュース

キャサリン妃「日帰り出産」 日本からのご意見にお答えします

木村正人在英国際ジャーナリスト

体重3700グラムのプリンセスを出産したキャサリン妃(33)が2日、産後約9時間半で「日帰り出産」したことについてエントリーしたところ、ツィッターでさまざまなご意見をいただきました。

キャサリン妃の入院、出産、退院の経過は次の通りです。

午前6時、出産入院

午前8時34分、出産

午後6時すぎ、退院

寄せられた主な意見について、できる範囲でお答えしたいと思います。

Qキャサリン妃にはサポートしてくれるスタッフがいるのでは?

筆者「ウィリアム王子とキャサリン妃は2年前にジョージ王子が誕生したあと、ベテランの乳母を1人雇っています。プリンセス誕生でもう1人雇うのではとみられています」

「2人は外遊などロイヤルファミリーとしての公務があり、乳母の助けが必要になります。でも、できるだけ2人の力で育てる方針のようです」

「英国人女性の多くがキャサリン妃と同じように日帰り出産しています。今回の日帰り出産も、ロイヤルファミリーだから特別扱いされていると言われないように、普通の家庭に合わせたようです。初産の前回、キャサリン妃は入院、出産翌日に退院しました」

「税金で賄われているNHS(国営医療サービス)では陣痛が3分間隔になるまで妊婦は入院できません。その前に病院に行くと追い返されるそうです」

「英国人女性の方が日本人女性より体格がしっかりしているという声もありますが、第2子では日本人女性でも英国では日帰り出産するのが普通のようです」

Q麻酔で痛みを抑えて出産する無痛分娩が普及している英国と、そうでない日本とでは産婦の負担が違うのでは? 無痛分娩の方が体力の消耗が少ない

「キャサリン妃が帝王切開でなかったことは確かですが、無痛分娩だったかどうかは今のところ報じられていません」

「日本産科麻酔学会の天野完会長(産科医)は昨年8月、日経新聞の取材に『無痛分娩は全体の4%程度と推定される。希望者は増えているが提供できる施設が限られている』と説明しています」

日本産科麻酔学会のデータより筆者作成
日本産科麻酔学会のデータより筆者作成

「同学会のホームページによると、米国の大きな病院で無痛分娩を受けた女性の割合は1981年の約20%から2001年には約60%に増えています」

「フランスは約60%(98年)、英国23%(06年)、ドイツ18%(02~03年)、スウェーデン16%(98~00年)、イタリア3%(99~00年)と欧州でも国によって状況が異なります」

「アジアではシンガポール16%(99年)、香港15%(01年)、台湾9%(99年)、マレーシア1.6%(同)。オーストラリアは27%(2003年)でした」

「同学会のHPによると、日本では無痛分娩費用は健康保険を使って支払うことができないため、妊婦の負担です。個人施設で5万円まで、一般総合病院で3万~10万円、大学病院で1万~16万円だったそうです」

Q日本で無痛分娩が広がらない理由は何ですか

「日本では『自分のお腹を痛めて産んでこそ母親』という伝統的な考え方が強いため、無痛分娩が広がっていないようです。無痛分娩については直接、産婦人科医に尋ねてみて下さい」

Q英国にはヘルスビジターというNHSのサポートがある

「NHSで出産した友人の日本人女性によると、産後は週に1回のヘルスビジターが自宅訪問してくれるそうです。このサポートは子供が5歳になるまで受けられるとNHSのホームページには書かれています」

「ミッドワイフ(助産師)を訪問するといろいろアドバイスをくれるようです。緊急時には電話をかけて来てもらうこともできるそうです」

Q欧米では出産費用が高くつくので、日帰り出産することが多いのでは

「英国ではNHSを税金で運営しているため、産婦や新生児が無事な場合は出産後数時間の日帰り出産が当たり前になっています。財源が限られた公的医療サービスをできるだけみんなに行き届くようにするためです」

「英国では病院より家族のもとにできるだけ早く帰りたいと希望する女性が多いようです。夫やパートナーも育児休暇や有給休暇を取ってサポートしています」

「米国では出産費用が高すぎて入院する妊婦は極めて限られています。日本の場合、厚生労働省の調査では2012年度の平均的な入院日数は6日。出産費用は48万6376円。うち入院料と室料差額は12万4765円です。健康保険などから支給される出産育児一時金は42万円です」

「国際健康保険協会(International Federation of Health Plans)の2013年データと比較したのが下のグラフです。日本の出産費用は現在の為替レートで4047ドルになっています」

筆者作成
筆者作成

「公的医療の財源には限りがあるので、英国では日帰り出産が当たり前になっているのが実情です。これに対して、日本の政府債務は国内総生産(GDP)の240%に達しています」

「医療・年金・介護の適正配分が真剣に議論されないまま、日銀の異次元緩和で政府債務を肩代わりするのが当たり前になっている日本は不思議な国だなぁと思います」

Q「出産は病気ではない」の使い方が完全に間違ってる残念な記事。日本の妊婦は甘えてるとかバッシングネタにされそう

「最初は何のことかわからず、インターネットで調べました。日本では夫が『妊娠は病気じゃないんだから、食事の用意ぐらいできるだろ』と言うことがあるようです。驚きました」

「そんなことを英国で言ったら、『あなたがすれば』と怒鳴られてしまいます。即刻、妻から三行半を突き付けられるかもしれません。日本では女性は今でも虐げられているんだなと痛感します」

筆者作成
筆者作成

「日本の妊婦は甘えているとバッシングネタにされるような社会風潮を許していてはいけません。そんなことをしているから、日本の出生率は北欧諸国や英仏両国に比べて低いのだと思います」

「日本の男性の育児休暇取得率は2011年で2.63%(厚生労働省調べ)。男性に割り当てられた育児休暇の権利を取得しないと消滅してしまうパパ・クォーター制を導入している北欧諸国では育児休暇の取得率は90%前後にのぼっています」

「キャサリン妃の日帰り出産をきっかけに日本とは違う世界があるという当たり前のことに気づいて、男性の育児休暇取得や公的医療の配分、出産を取り巻く社会の風潮、無痛分娩の是非、そして子供を生んで育てやすい社会の仕組み作りについて活発な議論が行われるのを心から望んでいます」

次回は英国のNHSで出産した友人の日本人女性2人からうかがった体験談を紹介します。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事