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撤廃求む!非正規雇用 日本の所得格差10倍超す 経済成長の妨げに

木村正人在英国際ジャーナリスト

7倍、8倍、ついに10.7倍に

日本の所得格差は経済協力開発機構(OECD)平均より高く、1980 年代半ばから拡大していることがOECDの最新報告書「格差縮小に向けて」で明らかになった。

OECD加盟国すべてを合わせたトップ10%の富裕層とボトム10%の貧困層の所得格差は史上最悪レベルの9.6倍に開いた。80年代は7倍、2000年代は9倍だった。

OECDのHPより
OECDのHPより

日本では09年に、トップ10%の平均所得はボトム10%のそれの10.7倍。80年代の7倍、90年代の8倍から格差はさらに加速して拡大している。上のグラフの青線はOECD平均、赤線は日本。

トップ10%とボトム10%の格差を示す右端のグラフだけでなく、所得分配の不平等さを計るジニ係数のグラフ(左端)、所得が国民の「中央値」の半分に満たない人の割合の「相対的貧困率」のグラフ(中央)も、日本の格差がOECD平均を上回っていることを示している。

同

格差がなくなると0になるジニ係数を見ると、日本は0.34(09年)。OECD平均の0.32(12年)を上回る。日本の相対的貧困率は16%(OECD平均は11%)。世代間では66 歳以上の19%が最も高い。

資産と所得が富裕層に集中する

データで比較可能なOECD18カ国を調べると、ボトム40%が保有する資産は全体のわずか3%。これに対し、トップ1%の超富裕層が総資産の18%を占め、トップ10%で総資産の半分を保有していた。

所得の富裕層への集中は資産ほどには進んでいないものの、資産の集中は低所得者層に一層、不利に働いているには明らかだ。

同

家計の実質所得が1985年以降、どれぐらい増えたかに注目したのが上のグラフ。点線のトップ10%は50%以上も所得が増加したのに、ボトム10%は15%弱しか増えていない。

日本の場合、平均家計所得は85年以降、毎年約0.3%増と、ほとんど増加していない。そればかりか、ボトム10%の貧困層では年に約 0.5%ずつ減少している。

格差拡大の大きな要因の一つは雇用形態の変化だ。

95~2013年の間にOECD加盟国で生み出された雇用の50%以上がパートタイム、契約社員などの非正規雇用と自営業。特別な技能を持っていない限り、正規雇用に比べて非正規雇用や自営業の所得はかなり低く、生活は安定しない。

世代格差と男女格差

2つの格差がある。まず世代格差。若者の40%は非正規雇用で、契約社員の約半数は30歳以下。正規雇用への移行は難しくなっている。もう1つが男女格差である。

女性就労者の割合は男性就労者と比べて16%も少なく、所得は15%低い。それでも女性の就労率が20~25年前と同じ低いレベルのままだったら、ジニ係数はさらに高くなっていたはずだ。

こうした格差は経済成長の妨げになっており、OECD19カ国を分析した結果、1985~2005年の格差拡大が90~10年の経済成長を4.7%ポイントも押し下げていた。

一番大きな問題は、ボトム40%で格差拡大が続き、教育や技術の取得が遅れ、マイナスのスパイラルから抜け出すのが難しくなることだ。

日本政府は何をすべきか

政府は男女雇用機会の均等を進め、より良い仕事につける道筋を広げ、仕事を通じて労働者が教育を受けたり、技術を取得したりできるよう投資を拡大すべきだとOECDは提言している。

格差を縮小させるため再配分メカニズムを再び機能させ、富裕層や多国籍企業に税負担を求める政策が必要だという。

日本は所得の再分配に取り組んだにもかかわらず09~10 年に格差を19%縮めたに過ぎず、OECD平均の26%より低い。日本より再分配レベルが低かったのはチリ、韓国、アイスランド、スイスだけだ。

非正規雇用は90 年以降、倍増。2012 年には34%に達した。有期契約労働者は正規雇用より時給で30%低く、パートタイムは46%低い。非正規に職場内教育の機会を与えている企業はわずか28%。

非正規雇用に頼る家庭の貧困率は 20%で、正規雇用の4 倍。非正規雇用の6割以上が女性で、日本では家計の第二の稼ぎ手の 64%が非正規雇用。OECD の中で最も高い割合だった。

自営業とパート労働者(週 20 時間未満の労働)には失業手当を受ける資格がない。非正規労働者の3分の2しか雇用保険に加入しておらず、職場の健康保険や社会保険に加入しているのは半数以下だった。

4つの基本方針

OECDは日本政府に4つの基本方針を示している。

(1)女性の労働市場参入を一層推進すること

(2)雇用機会を強化するとともに質の良い仕事を提供すること

(3)質の良い教育やスキル開発、仕事における適応を強化すること

(4)より効果的な再分配のためにより良い税・給付制度を構築すること

職場の社会保険制度を使って非正規労働者の社会保障を拡大する。非正規が正規に移行しやすくするために研修機会を設けたり、昇進ができたりする評価システムを構築する。

家計の第二の稼ぎ手である女性に働く意欲を与えるため、賃金を上げる。保育所を増やし、父親に育児休暇取得を促進させて、女性の労働参加を促す。低所得者のための税額控除の導入を検討する。

以上がOECDの日本政府への処方箋だ。

金融バブルの崩壊とグローバリゼーションの荒波を乗り切るため、日本は非正規を増やし、世代と男女の格差を拡大させ固定化させた。それが「貧すれば鈍する」「悪かろう安かろう」の下降スパイラルを生み出し、日本経済の停滞を招いてしまった。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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