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【腐敗の帝国FIFA】年収3億8千万円のブラッター会長 辞任を否定、5選目指す

木村正人在英国際ジャーナリスト

微動だにしない皇帝

副会長2人を含む14人が米司法省に一斉起訴された国際サッカー連盟(FIFA)の総会が28日からスイス・チューリッヒで始まった。

キャメロン英首相や欧州サッカー連盟(UEFA)のプラティニ会長から辞任を要求されたゼップ・ブラッター会長(79)は「私にはFIFAのイメージを回復する責任がある」と辞任を拒否し、5選が確実視される29日の会長選に向けて意欲を燃やした。

汚職捜査が進む中、5選を目指すブラッター会長(FIFAのHPより)
汚職捜査が進む中、5選を目指すブラッター会長(FIFAのHPより)

起訴された副会長2人、元副会長と、ブラッター会長の間には上級副会長がはさまる。自分には捜査の手は及ばないという読みがあるのだろう。ワールドカップ(W杯)招致をめぐる買収疑惑も捜査の対象になる中、「腐敗の帝国」を支配する皇帝は微動だにしない。

ブラッター会長は噂の人妻リンダ・バラスさん(49)を同伴して総会に臨んだ。バラスさんは丈の短い真紅のスカートで人目を奪う。バラスさんの夫は「2人は仲が良いだけ」と不倫疑惑を否定している。

会長選の対抗馬はFIFA副会長でUEFAの支持を受けるヨルダン協会会長のフセイン氏。中南米、アフリカ、アジアに厚い支持基盤を持つブラッター会長の絶対的な優位は揺るがない。ブラッター会長は総会のスピーチで、自身の潔白を強調するように腐敗を厳しく糾弾した。

「もし有罪が立証されたらだが、各個人の行動がサッカーに恥辱と不面目をもたらす。われわれすべてに行動と変化が求められている」

「われわれはサッカーとFIFAの評価が泥沼に引きずり込まれるのをこれ以上放置できない。今、ここで終止符を打つべきだ」

「W杯開催をめぐる決定であれ、腐敗スキャンダルであれ、多くの人々が世界のサッカーコミュニティーの行動と評価について究極の責任を私に求めていることを知っている」

「われわれ、もしくは私はすべての期間において、すべての人を監視することはできない」

カネで買った会長ポスト?

1998年のFIFA会長選。不正な金銭スキャンダルで辞任したジョアン・アヴェランジェ第7代会長のあとを、当時FIFA事務総長だったブラッター氏とレナート・ヨハンソンUEFA会長(当時)が争った。

ヨハンソン氏の優勢が予想されたが、フタを開けてみれば111票対80票でブラッター氏が第8代会長に選出された。アフリカ大陸での初のW杯開催を掲げたブラッター氏にアフリカ票が集まったのが勝因とされる。

5カ国語に堪能なブラッター氏のスタイルはエネルギッシュでダイナミック。だが、会長選の裏で1人につき5万ドルが入った封筒が20人に配られた疑惑が浮上。計100万ドルが動いたと言われる。スポンサーはブラッター氏を支持する「中東の支配者」と報じられている。

ブラッター会長はスイス南部ヴァレー州にある人口7300人(現在)の町フィスプの掘っ立て小屋で生まれ育った。父親は化学工場で働いていたが、家族が果物や野菜を売り歩いて家計を補っていた。ブラッター氏は苦学してローザンヌ大学に進む。

結婚式の歌手のほか、週末には地元のセレモニーでヨーデルバラードを歌い、タップダンスのワンマンショーで金を稼ぐ。スキーリゾートでも働いた。

ジャーナリスト、PR(パブリック・リレーションズ)会社を経て、スイスのアイスホッケー連盟、時計メーカー「ロンジン」と少しずつキャリアの階段を登っていく。

1975年、FIFA事務局に入局。スポーツ用品メーカー「アディダス」のオーナー、ホルスト・ダスラー氏とFIFA第7代会長のアヴェランジェ氏の後ろ盾を受け、FIFA技術委員長、事務総長に就任する。

ジェット機、運転手付きのリムジン、超豪華ホテル、シャンパン。そして年収は200万ポンド(約3億8千万円)近い。FIFA報告書によると、2011~14年、FIFAの収入は57億1800万ドル。うちW杯ブラジル大会にかかわる収入が48億2600万ドル。

W杯のたびに数十億ドルの資金が動く巨大な利権をブラッター会長が自ら手放すとはとても考えられない。

汚れたW杯招致

2010年のW杯南アフリカ大会招致をめぐり、投票権を持つFIFAのワーナー元副会長(トリニダード・トバゴ)に1千万ドル(約12億円)が南ア招致チームから渡っていた疑いが、米司法省の訴追資料で明らかになっている。

ワーナー元副会長から、部下のブレイザー元委員に100万ドル、さらに第三者にもカネが渡り、少なくとも3票が買収されていたという。ブレイザー氏は脱税で摘発され、米司法省と米連邦捜査局(FBI)の司法取引に応じて極秘捜査に協力した。

米司法省とFBIの捜査とは別に、スイス司法当局も18年のW杯ロシア大会、22年のカタール大会の招致をめぐり不正があったとみて捜査を開始した。

スイス司法当局は27日朝、米司法省とFBIの依頼でチューリッヒの高級ホテル「ボウ・オウ・ラク」に宿泊していた実行委員会のウェブ、フィゲレド両副会長ら2人を含む計7人を逮捕。ウェブ副会長はブラッター会長の後継者と目されていた実力者だ。

ワーナー元副会長も自国内の警察署に出頭し、逮捕された。保釈金は250万ドルと報じられている。下の図でオレンジ色は起訴、赤色はすでに有罪を認めている関係者だ。

筆者作成
筆者作成

この7人を含め、24年間にわたるゆすり、電子的通信手段を使った詐欺、マネーロンダリング(資金洗浄)など47件の罪で起訴されたのは計14人。このほか、ブレイザー氏、ワーナー元副会長の息子2人を含む6人がすでに有罪を認めている。

FIFAの倫理委員会は摘発を受け、フィゲレド、ウェブ両副会長、ワーナー元副会長ら計11人を活動停止処分にした。

アジア連盟会長のハマム氏(カタール)が委員の投票を買収したとして永久資格停止処分になった11年のFIFA会長選も捜査の対象になっている。

放映権料の25%がわいろ

巨額の放映権料などスポーツマーケティングを通じて賄賂やキックバックを要求し、1億5千万ドル以上の不当利得をあげていた疑いが持たれている。コパ・アメリカの放映権料とわいろの金額は次のグラフの通りだ。

同

放映権料の25%前後の資金がわいろとして使われていた。W杯のたびに数十億ドルもの巨額資金がFIFAに流れ込む。これがFIFA幹部や世界中のサッカー協会に分配される。FIFAは第三者委員の監督を受けることはない。

18年と22年のW杯招致をめぐって米国の元連邦検事マイケル・ガルシア氏をトップにFIFA倫理委員会の調査部門が調査に乗り出したが、結局は「再投票を実施べきとする十分な証拠はなかった」とうやむやにされた。

腐敗の被害者

FIFAは自浄作用がまったく機能しない「腐敗の帝国」なのだ。ブラッター会長はアフリカやアジアなどサッカー後進国でサッカーの普及に努めてきた功績は評価される。しかし巨額のサッカー利権をめぐって腐敗が広がり、ブラッター会長の支配構造を強化してきた側面は否定できない。

今回の摘発で、W杯のスポンサー企業は事態を注視している。「バドワイザー」のブランドで有名なビール会社「アンハイザー・ブッシュ・インベブ」は「捜査の進展を注意深く見守る」とコメント。バーガーチェーンのマクドナルドも「非常に懸念している」と述べた。

しかし、FIFAに巨額資金を提供する企業スポンサーが断固たる態度をとるのはまれだ。米国のロレッタ・リンチ司法長官(新任)が捜査を指揮、捜査責任者は「これは本当に不正のW杯だ。FIFAにレッドカードを出した」とFIFAの腐敗体質に斬り込む意気込みを語る。

最終的に腐敗のツケは、サッカーをこよなく愛する選手やサポーターに回ってくる。ブラッター会長が辞任し、FIFAが新体制で腐敗一掃に取り組まなければ、UEFAチャンピオンズリーグに比べ輝きを失ったW杯の躍動感はますます失われるだろう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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