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G7は「重債務国」の集まり 安倍首相に冷たいメルケル

木村正人在英国際ジャーナリスト

安倍首相「アジアに1100億ドル投資」

ドイツ南部エルマウで7日、先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開幕した。

ドイツ南部エルマウで開かれたG7(首相官邸HPより)
ドイツ南部エルマウで開かれたG7(首相官邸HPより)

安倍晋三首相は中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への対抗策として、今後5年間で1100億ドルにのぼる「質の高いインフラ投資」をアジア開発銀行(ADB)と連携して行う方針を説明した。

安倍首相の発言を各紙報道から拾ってみた。

安倍首相「G7は、自由、民主主義、法の支配といった基本的価値に立脚して国際社会の秩序を支えてきたが、世界には、力による現状変更、暴力的な過激主義の脅威など、安全保障上の脅威が存在する。われわれには基本的な価値を守り、子孫にしっかりと引き渡していく責任がある」「グローバルな視点で対応できるのはG7だ」「G7は経済面だけでなく、安全保障上の視点を重視する必要がある」

「(AIIBを念頭に)腐敗対策が重要」「適切なガバナンス」「環境や社会に配慮し、援助を受ける国の債務の持続可能性を、しっかり見ていかなければいけない」「G7がしっかり結束していくことが非常に重要だ。AIIBに加わる国と加わっていない国があるが、参加した国を批判するつもりはない。緊密な連携をとる必要がある」

「自由貿易は成長や雇用につながるものだと確信しており、G7の首脳が保護主義の抑制に向けて強いメッセージを発出すべきだ」「環太平洋経済連携協定(TPP)は、アジア太平洋地域にいかなる国の恣意的な思惑にも左右されない持続可能な市場をつくるものだ。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の交渉も本年中の大筋合意を目指して交渉を加速させたい」

G7議長のメルケル独首相「(AIIBは)非常に重要な問題なので次期議長国の日本を中心に議論してほしい」

やはり冷たいメルケル

バイの会談はメルケル首相と約20分間。

両首脳は日EU・EPAの年内妥結に向け協力していくことで合意。

オランド仏大統領と約25分間。

安倍首相「3月に東京で2回目となる外務・防衛閣僚会合を開催し、防衛装備品・技術移転協定に署名するなど、安全保障・防衛分野の協力は着実に進展している」「南シナ海では中国による埋め立てが急速に進展しており、この点について懸念を共有したい」

「東京で開催された日EU定期首脳協議で、日EU・EPAの本年中の大筋合意及びSPAの早期妥結で一致した。引き続き、仏の支援をお願いする」

オランド大統領「南シナ海の状況について懸念を共有する、安全、平和の確保のためには、力ではなく対話による解決が重要である」

欧州では南シナ海やAIIB、日EU・EPAへの関心は低く、ギリシャ救済策、ウクライナ危機に加えてテロ対策、地球温暖化問題に注目が集まっている。

中国との対決姿勢強める安倍首相

安倍首相は、南シナ海の海洋安全保障、中国が描く陸と海のシルクロード(一帯一路)構想をめぐり日米同盟を基軸に中国との対決姿勢を強め、TPPや日EU・EPAの締結を急ぐ戦略を鮮明に打ち出している。

中国との経済関係を深めるメルケル首相の反応は予想通り冷たい。欧州は地理的に東南アジアとは離れているため、中国が南シナ海やAIIBを通じて、米国が第二次大戦後築いた安全保障と金融・経済の秩序に挑戦し、自らのルールを築こうとしていることへの切迫感に乏しい。

さらに中国経済がいずれ米国経済を追い抜くのはもはや不可避で、米国単独ではなく欧州も加えた3極で新たなルールを構築すれば軍事的な紛争は解決できる、中国の台頭は制御できる――と考えている。

米国内の対中協調派

米国の中にもヘンリー・キッシンジャー元米国務長官やロバート・ゼーリック前世界銀行総裁のような対中協調派は少なくない。

ゼーリック前総裁は英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿(7日、電子版)で「オバマ政権のAIIBに対するネガティブな対応は戦略的な誤りだった。いくつかの中国の動きは不安定で米国の抵抗を要するが、AIIBは歓迎されるべきイニシアチブだった」と指摘している。

米国にとってはG7より対中外交の方が重要になっている。日本のメディアではG7はまだ大きく取り上げられているが、世界金融危機をきっかけに主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれるようになり、G7の重みはなくなった。英メディアの中には役目を終えたG7の廃止を求める声もある。

G7に中国、インド、ロシア、ブラジルを加えて、人口、国内総生産(GDP)、購買力平価(PPP)で見たGDP、2045年のGDP予測、GDP比の政府債務、国防費、45年の国防費予測を比較してみたところ、G7が上位7位を占めたのは政府債務だけだった。

今はG7は重債務国の集まりと表現した方が正確だ。

筆者作成、★はG7
筆者作成、★はG7

中国の経済成長を押しとどめることはできないと欧州は考えている。これに対して安倍首相は南シナ海で米海軍と連携して中国の動きを封じ込め、AIIBにも対抗して中国を米国主導の既存秩序に従わせようとしている。

しかし、英国防省が2045年の未来を予測した報告書ではG7のGDPを合計しても中国一国に及ばなくなっている。国防費では45年になっても米国は中国に対して優位を保っている。米国にとってカギを握るのは日本ではなくインドとの連携だ。

同

日本は中国との対決姿勢を強めすぎて、米国にハシゴを外されないよう慎重かつ賢明に振る舞う必要がある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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