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聖なる山で裸になってマレーシアから国外追放になったバカッターは被害者?

木村正人在英国際ジャーナリスト

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されているマレーシア・ボルネオ島キナバル山(標高4095メートル)で5月30日、男女の外国人登山客10人が山頂付近で裸になったり、放尿したりしている写真をソーシャルメディアに投稿した。

問題の10人が投稿した写真、背景はキナバル山
問題の10人が投稿した写真、背景はキナバル山

6日後、キナバル山はマグニチュード6.0の地震に見舞われ、シンガポールの修学旅行生や教員、日本人1人を含む18人が死亡。当時、160人以上の登山客が日の出を楽しんでいたが、他は登山ガイドに助けられて無事下山した。

ソーシャルメディア上の写真を見た地元の先住民族カダザン・ドゥスン族を中心に「聖なる山で何てことを」と怒りが広がった。サバ州副首相も「非常に無礼な振る舞いだ。聖なる山を侮辱した。この行いが不幸をもたらしたのは明白だ」と厳しく非難した。

今月9日、地元警察は登山ガイドの警告を無視して裸になった登山客10人のうち英国人女子学生エレーナ・ホーキンズさん(24)ら4人を空港で逮捕。さらに1人を逮捕し、州外に逃れた残り5人の行方を探している。

最大3カ月の禁錮判決も予想されたが、12日、サバ州コタキナバルの治安判事は、エレーナさんら4人が罪状認否で公然わいせつの罪を認めたため、禁錮3日、罰金5千リンギット(約16万4千円)の有罪判決を言い渡した。

治安判事は「全裸になった行為と地震には何の関係もない」と指摘した。すでに逮捕から3日が経過していることもあり、4人はすぐに釈放された。

同

10人グループのうち男性は全裸、女性はトップレスになり、キナバル山の山頂付近でどれだけ長く裸のまま寒気を我慢できるか競っていたという。有罪を認めた4人は国外追放されるが、時期はまだ明らかになっていない。

マレーシアはイスラム教国で、イスラム教寺院を訪れる際、女性のミニスカートやタンクトップなど肌を露出したファッションはタブーになっている。マレーシアの観光当局は「旅行者は地元の伝統や文化を無視してはいけないという警鐘だ」と話している。

サバ州には英メディアが押しかけ、大騒ぎになった。エレーナさんの父親は「娘はバカで不敬なことをしたと自省している。マレーシアの人々の感情を傷つけたことについて済まなく思っている」とのコメントを出した。

英国人の観光客が外国で逮捕されるのは珍しくない。2012~13年には5435人が逮捕された。2時間に1人の割合だ。アラブ首長国連邦(UAE)やカナダ、オランダ、ニュージーランドで逮捕されるケースが増え、米国、ギリシャ、ポルトガル、中国では薬物関連が目立つという。

12~13年に1万9200人が助けを求めて在外公館に駆け込んだ。うち3600人が病院に搬送された。こちらは英外務省(FCO)がまとめた支援要請のマップだ。

ロンドンでも週末になると郊外から遊びに来た若者たちが夜遅くまで徘徊し、路上で吐いて飲みつぶれている姿をよく見かける。「旅の恥はかき捨て」と日本でも言われるが、事情は英国でも同じ。海外旅行ではさらに気が大きくなって酒や薬物を飲み、イスラム教国で全裸になったり、抱擁したりしたため逮捕というケースが後を絶たない。

羽目を外すのは若者の特権とは言うけれど、先住民族の聖なる地で地元ガイドの警告を振りきって全裸で立ちションはいくらなんでもやり過ぎだろう。3日間の留置所暮らしが海外旅行者へのお灸になれば良いのだが。「郷に入っては郷に従え」が無用なトラブルを回避する万国共通の処世術だ。

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(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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