2030年 男女平等社会の負け組は、家事・育児ができないマッチョ男
北京宣言から20年
2030年までに男女平等を実現しようと、プムジレ・ムランボ=ヌクカ国連女性機関事務局長が11日、ロンドンにあるシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で講演した。
今年は1995年に北京で開かれた第4回世界女性会議で女性の平等を目指した北京宣言から、ちょうど20年の節目の年。当時は10年後の2005年までに男女平等を実現させるという目標を掲げた。
しかし、男女の完全な平等を実現した国はまだない。ムランボ=ヌクカ事務局長は「男女間の不平等を2030年までに終わらせ、完全な平等50-50を達成しよう」と呼びかけた。
この20年でいくつかの前進があった。
(1)教育面での男女格差が小さくなり、一部の国では男女平等に就学できるようになった。
(2)妊産婦の死亡率と疾病罹患率が下がり、妊娠・出産で命を落とす女性の数が格段に減った。
(3)多くの国で男女平等に取り組む組織が発足し、性差別を禁止する法律が制定された。ドメスティック・バイオレンス(DV、家庭内暴力)が犯罪として処罰されるようになった。
貧困に直面する若い女性
しかし、男女平等を実現するための予算は限られ、今のペースでは完全な50-50を実現するにはあと80年かかるといわれている。女性を取り巻く問題はまだ山積している。
(1)1520万人の若者が1日1.25ドルという貧困ライン以下の生活を強いられ、特に若い女性が影響を受けている。同じ仕事でも男性より収入が30%少ない。多くの場合、女性が就ける仕事の質は低い。
(2)アフリカでは作物生産の70%を女性が担っているのに、女性が所有する土地は全体の2%。
(3)3人に1人の少女が性暴力を含めた暴力を体験。毎分若い女性がHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染している。
(4)毎日800人の女性が出産で命を落としている。
世界の10の政府、企業、大学が男女平等を達成する活動に参加する国連女性機関のプログラム「インパクト10×10×10」に選ばれた名古屋大学の松尾清一総長は次のように語っている。
「男女平等は自由で活気ある学風作りに不可欠。名古屋大学は構内だけでなくあらゆる学究的な環境で性差の障壁を取り除こうと取り組んでいる。名古屋で幅広い変化を起こし、地域の女性への支援を続けていく」(国連女性機関HPより)
米国初の女性大統領を目指す民主党のヒラリー・クリントン前国務長官も「私には女性の限りない能力が解き放たれた未来が見える。このビジョンを実現するための取り組みを加速していかなくてはならない。21世紀に残された最大の課題だ」と50-50を後押ししている。
日本は男女平等で人口減少と格差を解消できる
日本では女性は外に働きに出るより、家庭で家事と子育てに専念した方が出生率は回復するという人がいる。が、それはまだ女性の社会進出や子育ての支援策が整備される前の話だ。
経済協力開発機構(OECD)のデータから合計特殊出生率(縦軸)と女性の就業率(横軸)をとった散布図を見ると、1970~84年には女性の就業率が上昇すると合計特殊出生率が下がるという負の相関関係がみられた(日本は赤丸)。
しかし1985~2012年の散布図では男女平等が進んでいる北欧諸国を先頭に、女性の就業率が上がれば合計特殊出生率も回復するという正の相関関係に転換している。今や男女平等を達成すれば人口減少に歯止めがかけられるというわけだ。
他にもOECDの男女平等のページからいろいろデータを拾ってみた。学習到達度調査(PISA、2012年)では、日本の女子は読解力で男子を上回っているが、数学的リテラリーや科学的リテラシーで男子に遅れを取っている。
下は高等教育を受けた25~34歳の割合だ。日本の場合、女性は67.03%、男性は55.63%でOECDの中では一番高い。女性は短大やそれほど有名ではない大学に進学しているため、就職では男性に比べて不利になっている。
次に女性就業率(15~64歳)を見てみよう。日本は男性84.56%に対し、女性は65.01%。出産・子育て後、女性が再就職して社会復帰するのは難しい。そうした環境が格差を生み出している。
男女間の賃金格差(下のグラフ、2013年データ)も日本は26.59%もの開きがあり、OECDの中で韓国を除くと一番格差が大きくなっている。
米誌フォーブスの企業上位500社の女性役員数では日本は2.97%。ノルウェー44.83%、フィンランド43.75%、スウェーデン31.43%といった北欧の優等生国から大きく引き離されている。
しかも、日本の男性は家事や子育てをほとんど手伝わない。下は1日に男性が家事や育児に参加している時間(分)を表したグラフだ。フランス、スウェーデン、英国に比べて随分少ないことが一目瞭然だ。
日本の男女を比べてみると、その差はさらに歴然としてくる。女性に比べて男性は家事も買い物も子育てもほとんどしていないに等しい。
労働市場における男女平等が実現すれば今後20年間で日本のGDPは20%近く増加すると予想されている。というのに、男女の賃金格差が大きいため、女性は子育てと家事を選択しているのが現実だ。
イクメン、イクボス、家事メンが当たり前の社会に
教育と雇用、育児・介護休暇の平等を実現すれば、職場でも家庭でも完全な男女平等に近づいていく。「イクメン(積極的に子育てに参加する男性)」「イクボス(部下の男性に育児参加を促す上司)」だけでなく、「家事メン」を増やしていくことが重要だ。
企業の収益を上げるために非正規雇用や長時間のサービス残業が日本では常態化し、少子化の進行に拍車をかけている。人口が減少すれば国内総生産(GDP)を下押しする。出生率が回復すれば、GDPも増え、海外投資を増やす日本企業の国内投資にインセンティブを与えられる。
私たちは社会全体の最大幸福を目標に掲げるべきだ。遠回りのように見えて、それが日本経済を復活させる道につながっている。
1843年の創刊以来、初の女性編集長としてザニー・ミントン・ベドーズさんに率いられる英誌エコノミストは「弱い性。仕事もなく、家庭も持てず、見通しが立たない性はオトコだ」という特集記事を掲載した。
いまだに職場で若い女性にお茶汲みをさせ、ふんぞり返っている男性は英和辞書と首っ引きで読んでおいた方が良い。
教育の機会均等やICT(情報通信技術)の発達で男女格差は急激に解消されている。コミュニケーション能力にたけ、周囲と良好な関係を築ける女性より、将来、行き場を失うのは男性の単純労働者だと警鐘を鳴らしている。
女性に見捨てられたくなかったら、男性は家事と育児に今から積極的に参加しておいた方が賢明だ。それが嫌なら、日本社会に根差す封建的な文化を守り、少子高齢化が加速する経済の収縮スパイラルを受け入れるしかない。
(おわり)