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橋下市長の「国盗り合戦」では大阪の地盤沈下は止められぬ

木村正人在英国際ジャーナリスト
住民投票で破れ、政界引退を表明したはずの橋下市長だったが(写真:アフロ)

次は大阪府知事・市長のダブル選だ

30日投開票された大阪府枚方市長選は、前府議で大阪維新の会の新人、伏見隆氏(47)が接戦の末、「非維新」の無所属現職の竹内脩氏(66)らを破り、初当選した。橋下徹大阪市長は29日、大阪維新の会を国政政党に衣替えし、新党を結成する考えを表明している。

橋下市長の国盗りで大阪は救えるのか。

5月の住民投票で否決された「大阪都構想」を再び掲げて戦う大阪維新の会は11月の大阪府知事・大阪市長のダブル選に向けて勢いを取り戻した。ダブル選で勝利を収め、10月下旬にも国政政党を旗揚げ、来夏の参院選で当選者を出して中央政界での影響力を復活させるのが橋下市長の戦略とみられている。

大阪府と大阪市、堺市の首長と議員各10人ずつで構成される「大阪戦略調整会議」(大阪会議)は大阪維新の会と自民党の対立で機能停止に陥った。このため、大阪維新の会の松井一郎幹事長(大阪府知事)は28日、ダブル選を「大阪都構想に再挑戦するスタートにする」と宣言した。

一方、維新の党の松野頼久代表は30日、解党も視野に民主などと新党を結成する形での合流を目指す考えを表明した。しかし、その民主党は4月の大阪府議選・大阪市議選で歴史的な大敗を喫し、市議会の6議席を失い、府議会の8議席を1議席に減らしている。

橋下市長にとって、国会で共産党と連携して安全保障関連法案に反対する民主党と組む意味はまったくない。大阪では民主党は存在しないも同然だからだ。かと言って大阪の自民党と公明党との関係が修復できる見通しもない。大阪維新の会が中央政界での影響力を再び強めたからと言って膠着した局面を打開できる保証は何一つないのが現状だ。

「永田町の連中に政治を任せられるか」

「府市合わせ(不幸せ)」と言われてきたように、話し合いでは大阪府と大阪市がうまくいかないことは大阪会議の機能停止で改めてはっきりした。橋下市長が主張してきたように広域行政の意思決定について大阪府と大阪市を1本化した方が無駄なエネルギーを使わずに済む。

橋下市長(当時は府知事)が「大阪都構想」をぶち上げたのは2010年3月。大阪市を5つの特別区に分ける住民投票を実施するまで約5年を要した。

府知事、大阪市長、堺市長などの首長ポストに加え、府議会、大阪市議会、堺市議会など各議会での過半数、さらには国会議員まで大阪維新の会で獲るという政治手法では膨大なエネルギーを消費し続けるだけで、効率的ではない。しかし橋下市長は吠える、いや、吠えまくる。

「永田町の連中に政治を任せられるか。大阪のメンバーが全国の国会議員を従え、大阪から政治をやる政党をつくりたい」「大阪維新の会の看板を背負った国会議員を北海道から九州まで誕生させたい」「政党は分裂と統合の繰り返しだ」

橋下市長は「大阪都構想」の住民投票が否決された後の記者会見で「負けは負け。戦を仕掛けて、たたきつぶすといってたたきつぶされたわけですから」と、潔く大阪市長の任期満了後に政界を引退する考えを表明していた。

維新の党所属の国会議員は51人。大阪系のほか、民主党、結いの党出身者、その他の中間派がいる。橋下市長に近い大阪系十数人は集団離党を明言しており、新党には20人超が合流すると報じられている(産経新聞)。果たして橋下市長自身の国政進出があるのか、ないのか。

どんどん進む大阪の地盤沈下

筆者は基本的には「大阪都構想」に賛成だが、橋下市長の政治手法ではいつになったら府と市の一体化が実現するのか見当もつかない。現実的な道筋は自民党と公明党と協力することだが、これまでの経緯から見て大阪の自民党や公明党が橋下市長と妥協することはあり得ないだろう。

橋下市長の政治手法は「妥協」や「合意」ではなく、シロ・クロをはっきりさせる「対決」型。勝つか負けるかの「決闘」スタイルだ。だから大向こうを唸らせ、大衆受けする。しかし時間と政治的エネルギーを浪費している間に、大阪の地盤沈下は容赦なく進んでいく。

森記念財団の都市戦略研究所(竹中平蔵所長)の「世界の都市総合力ランキング」2014年版は下の通りだ。ライバル都市はどんどん進化している。

「世界の都市総合力ランキング」2014年版より
「世界の都市総合力ランキング」2014年版より

大阪は2011年の15位をピークに、17位、23位、26位とランクを下げ続けている。帝国データバンクがこのほど発表した「大阪府・本社移転企業調査」によると、05年から14年にかけて合計で901社も転出超過になっていた。

帝国データバンクの資料より筆者作成
帝国データバンクの資料より筆者作成

10 年間に大阪府へ転入した企業は 1523 社、大阪府から転出した企業は 2424 社にのぼっていた。転出先は兵庫県 843社(全体の34.8%)、東京都358社(14.8%)、奈良県259社(10.7%)の順で多かった。

大阪府から転出した2424社のうち年商「1億円以上10億円未満」が 1069社と44.1%を占めた。帝国データバンクは「自治体による企業立地促進補助金・融資、産業集積促進税制など企業誘致や流出防止を目的とした各種支援策などへの期待も大きい。今こそ官民一体となった活性化へむけての取り組みが必要だ」と指摘している。

アジア戦略を着実に進める福岡市

国内の政令指定都市では「人と環境と都市活力の調和がとれたアジアのリーダー都市」を目指す福岡市の高島宗一郎市長が頑張っている。観光客数や企業立地数、市税収入が増え、世界で最も住みやすい都市ランキングでベストテンに選ばれた。創業支援に注力し、14年3月には国家戦略特区を獲得している。

福岡市は開業率も、起業家総数における若者の割合も日本一だ。

福岡市のHPより
福岡市のHPより

名古屋市は日本一の名古屋港を擁している。東海地方にはトヨタ自動車をはじめ世界トップクラスの技術を誇る日本の企業群が集積している。

名古屋港のHPより
名古屋港のHPより

仙台市は東北大学を中心とした研究機関のネットワークを売り物にしている。

仙台市のHPより
仙台市のHPより

大阪もと言いたいところだが、今年2月、自民党大阪府議団の花谷充愉議員が調べた資料によると、大阪府にはこれだけワースト記録があるという。

自民党大阪府議団のHPより
自民党大阪府議団のHPより

大阪は昔から、ひったくりなどワーストワンが多かったが、ヤンチャな証拠でギラギラした活気があった。今や関西系の山口組も名古屋の弘道会に牛耳られるほど、大阪の地盤沈下は著しい。

頼みの綱は人口規模だが、大阪市の生産年齢人口の減少率は名古屋市、福岡市、仙台市と比べても高く、2010年から40年にかけ27%弱も減少すると予測されている(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口)。

将来推計人口より筆者作成
将来推計人口より筆者作成

0~14歳人口では2030年には名古屋市に逆転されているという。

同

橋下市長の国盗り合戦はこれから延々と繰り広げられる可能性がある。筆者が知りたいのは、これが大阪維新の会の勢力を拡大するための政争なのか、それとも「大阪都構想」を実現するための試練なのかということだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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