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コンドーム株が中国人観光客の「爆買い」ですごいことになっていた

木村正人在英国際ジャーナリスト
日本製コンドームが中国人観光客に大人気という(写真:アフロ)

オカモトの株式時価総額1145億円

コンドーム(男性用避妊具)のオカモトの株価が22年来の高値1091円をつけ、株式の時価総額が1145億5200万円になった。世界中の投資家がこの2カ月間、オカモト株に釘付けになっていると英経済紙フィナンシャル・タイムズが伝えている。

オカモトはコンドームのシェアで国内1位。Yahoo Financeからオカモトの株価(東証1部)を調べてみよう。

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FT紙が言うようにすごいことになっている。コンドームに何か異変が起きているのか。国内シェア2位の不二ラテックス(東証JQS)の株価も調べてみた。すごく上がっている。

同

国内シェア3位の相模ゴム工業(東証2部)はどうか。やはり大商いだ。

同

閑古鳥が鳴いていた日本のコンドーム市場

国内のコンドーム市場はつい最近まで閑古鳥が鳴いていた。愉しい性生活をタブー視する風潮からそれらしい雰囲気の広告ははばかられる。社会の高齢化も進む。夫の長時間労働と家の狭さもあってセックスレス夫婦が一般化し、結婚どころか、セックスもしない若者が増えてきた。

添い寝をするだけの男女関係を「添い寝フレンド(ソフレ)」と呼び、30歳を超えてもセックス経験のない「やらみそ(ヤラずに三十路を迎えてしまった男女の略)」が決して珍しくなくなってきた。若者が減っている上、セックスレスが進んでコンドームを使う回数が激減した。

FT紙によると、この10年、コンドームを扱うドラッグストアのスペースは毎年5%ずつ縮んだという。そこに「神風」が吹いた。中国人観光客だ。日本政府観光局に統計では、今年1~7月に日本を訪れた中国人は275万5500人(前年同期比113.8%増)。

もともとオカモトのコンドームは中国国内で口コミで広がった。中国ネット通販大手の京東(ジンドン)の日本館サイトに「薄い」というオカモトの超薄型コンドームの書き込みが相次ぐようになった。

インターネット上の「爆買い」お薦めリストのトップにも掲載されたため、中国人観光客がオカモトの超薄型コンドームを求めて日本のドラッグストアに殺到。今年2月の春節(旧正月)の連休期間には販売制限するドラッグストアが続出した。

史上最薄0.01 ミリ台

縮小する国内市場をカバーするため、オカモトはアジア市場に進出したが、中国では先に「オカモト」を名乗る企業があった。のれんを買い取らすのが狙いだが、オカモトは一歩も譲らず、10年間も法的な闘いを続けている。

昨年には中国のコンドームメーカーから「世界一薄いコンドームはオカモト製ではなく、わが社の製品だ」と訴えられた。訴額はわずか1人民元。完全な売名行為だった。

このときは0.03ミリメートル台の争いだったが、オカモトは0.02ミリメートル台の「コンドーム002」に続いて、今年4月、史上最薄0.01 ミリメートル台の「オカモトゼロワン」を発売した。

中国のコンドームメーカーはいつの間にか訴えを取り下げた。オカモトの技術にはかなわないからだ。今年3月期の営業利益(連結)は前年同期の40.1%増の45億6100万円を記録した。今や日本のコンドームメーカーはわが世の春を謳歌している。

相模ゴム工業のホームページなどによると、コンドームの歴史は紀元前3000 年ごろのエジプト王朝にさかのぼると言われている。男性の性器を虫刺されから守る下着の一種として、ブタやヤギの盲腸や膀胱を使って作られた。動物の内臓や魚の浮き袋が利用された。

ドイツでは「淫らな袋」

非摘出子を14人も作った英国のチャールズ2世が「これ以上できたら大変」とお抱え医のコンドーム医師に命じて、1671年に羊の腸で避妊具を作ったのが今のコンドームの原型とされる。コンドーム人気が沸騰したため、コンドーム医師は自分の名前を変えたというエピソードまで残っている。

コンドームにはいろんな愛称がある。「英国のレインコート」(フランス)、「防弾チョッキ」(香港)、「愛のグローブ」(オーストラリア)、「ペニス用ひょうたん」(インドネシア)、生真面目なドイツでは「淫らな袋」と呼ばれているそうだ。

日本では江戸時代から導入され、1909年、国産のゴム製コンドームが誕生した。「ハート美人」「敷島サック」、そして軍用の「突撃一番」「鉄兜」などが登場した。

カトリックでは避妊は罪とされるため、コンドームは避妊用ではなく、性感染症予防のため普及した。薄くすると穴が開いたり破れたりする恐れがあるため、欧米では薄型コンドームの開発は進まなかった。これに対して薄型化に取り組んだ日本は世界最高の技術を獲得した。

中国人が日本製コンドームを好む3つの理由

中国が日本製コンドームを「爆買い」リストのトップに載せるほど必要とするのはなぜだろう。3つの理由を考えてみた。

(1)1人っ子政策

2013年末に中国では夫婦のどちらかが1人っ子であれば第2子の出産を認めるよう「1人っ子政策」が緩和された。しかし14年12月時点で申請を行ったのはわずか70万組。対象となる夫婦は1100万組だ。「子供に束縛されるのは嫌だ」というカップルや、教育費が高額になることから第2子をためらうケースもあるという。

出産を調整するためには安全性の高いコンドームの着用が不可欠。オカモトの超薄型コンドームで夫婦生活を楽しみたい。

(2)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者の拡大

国連AIDSによると、13年末時点で中国のHIV感染者は大人や子供43万7千人と推定されている。このうち17万4千人がエイズを発症し、13万6千人がエイズが原因で死亡したとみられている。14年にも新たに10万人(前年比15%増)がHIVに感染したとされる。安全性の高い日本のコンドームでHIVの感染を防ぎたい。

(3)毒入りコンドームは勘弁してほしい

中国ではコンドームの偽ブランドが横行している。今年4月には上海で300万個のコンドームが押収された。有毒性の金属がコンドームの素材の中に含有されていた。ネットワークは8つの地方にまたがっていた。食事とセックスぐらいは安心して楽しみたい。やはり安心、安全、超薄型の日本製コンドームに中国製は勝てない。

中国の英字紙チャイナ・デーリーによると、男女1万520人を対象にした昨年10月のアンケートで、女性の93%が大人のおもちゃを買っていた。20%の女性は絶頂を経験したことがないという。これに対して男性の41%は豆腐か、それより少し固めの勃起しかしないと答えていた。中国人男性は日本の超薄型コンドームで頑張るしかないようだ。

(おわり)

参考:『世界のコンドーム市場と日本のコンドーム産業の調査と戦略の考察』

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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